(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)
2017-04-15 21:02:07春日由美江。呉鎮守府第18地区に所属する艦娘であり、春雨、いや、春日香苗の妹でもある。姉が艦娘になった半年後、彼女は新しい艦霊の適性を見出され、駆逐艦・江風となった。姉ほど悩むことなく艦娘として過ごしていたが、ある事件が彼女を変えた。佐世保15地区壊滅事件である。1
2017-04-15 21:03:08深海棲艦の攻撃で姉が死んだと聞いた時、由美江は一晩中泣いた。それからしばらく後も、姉のことで頭がいっぱいだった。提督が気を遣って、長期休暇を取らせるほどであった。しかし、休息は彼女の心を癒やしてくれなかった。むしろ実家に帰ったせいで、悲しみが膨れ上がってしまった。2
2017-04-15 21:06:04時間が経つにつれて、悲しみには慣れた。だが、消えたわけではない。時折、些細なことで、あるいは理由もないのに、姉が死んだと言うことを思い出してしまう。それでも何とか生きていこうと、心に折り合いをつけながら、艦娘の勤めを果たしていた、そんなある日、彼女は姉を見つけた。3
2017-04-15 21:09:10船団を護衛して横須賀33地区に入港した時、由美江は海岸に佇む姉の姿を見た。はじめは見間違いかと思った。しかし、両足を失い、車椅子に乗っているとはいえ、自分の姉を見間違えるはずがなかった。その時の感情は、とても言葉で言い表せるものではない。4
2017-04-15 21:12:03上陸した由美江は、すぐに妹に会わせてくれるよう、現地の艦娘に頼んだ。しかし、帰ってきた答えは、「そんな艦娘はいない」という、有り得ないものだった。何度聞いても答えは同じで、最後には由美江は横須賀から追い出されてしまった。5
2017-04-15 21:15:05呉に帰ってきてから、由美江はあの地区に行った艦娘たちに、香苗を見なかったか聞いた。波止場に佇む車椅子の少女を見たという艦娘は少なくなかった。それ以外にも、いろいろな噂を聞いた。あの地区の提督の出自。不透明なカネの流れ。そして、佐世保鎮守府との権力闘争。6
2017-04-15 21:18:03白雪という艦娘が訪ねてきたのは、由美江が横須賀から帰ってきて1ヶ月後のことだった。彼女の正体を由美江は知らない。確かなのは、彼女も佐世保第15地区の生き残りを探していて、横須賀33地区に目星をつけていたということ、そして香苗を横須賀から誘拐しようとしていることだけだった。7
2017-04-15 21:21:09彼女と手を組んだのは、由美江にとって賭けだった。得体の知れない中国人2人を雇っての誘拐作戦。正しいことをしているとは思えない。騙されているのかもしれない。だけど、博打を打ってでも、多少の悪に手を染めてでも、彼女はもう一度、姉に会いたかった。8
2017-04-15 21:24:04「それで、白雪と組ンで、横須賀から姉さんをさらっちまったンだよ。やー、思ったよりもザルな警備で良かったぜ」カラッとした江風の笑顔で、話は締めくくられた。「軍の施設とは思えません。あれでは一般人が入っても気付きませんよ」由美江の言葉を聞いて、白雪は呆れているようだった。9
2017-04-15 21:27:01「まー、そのお陰で姉さんを助け出せたンだし?いいじゃん、いいじゃん!」姉との再会に由美江は喜んでいた。春雨も同じだ。長い間会っていなかった妹と再開して、嬉しくないはずがない。しかし、確かめておきたいことがあった。「ええと、由美江?」「なに?」10
2017-04-15 21:30:13「ごめん、私を助けるって、どういうことなの?」最初に聞きたかったのはそれだった。春雨は、そこまで劣悪な環境にいたわけではない。なのに由美江は助けると言い続けていたのが気になっていた。「え、春雨、捕まって酷い目に遭ってたんじゃないの?」江風はキョトンとした顔で聞き返した。11
2017-04-15 21:33:06「ううん。あそこの鎮守府の皆は優しかったし……」「外に出られなかったんじゃねえの?」「お買い物とかには行けたけど」「ロクにご飯が出なかったりとかは?」「1日3食、デザートつきだった」「……その、あの提督に変なことされたりとかは?」「全然。だってあの人、女の人でしょ?」12
2017-04-15 21:36:07「……あるぇー?」江風は首を傾げ、白雪を見た。「すみません。人質という言葉には、語弊がありました」白雪は申し訳なさそうに頭を下げた。「確かにあの提督は春雨さんの生存を隠していましたが、誘拐して監禁するためではありません」「何だって?じゃあ、何のために姉さんを?」13
2017-04-15 21:39:03「待ってください、私が、隠されてたって……?」白雪の思わぬ言葉に、春雨は黙っていられなかった。「春雨さん、あなたは公式記録では、あの作戦で行方不明になったままです。横須賀に救助されたとは誰も知りません」「そんなはずありません!」思わず、春雨は声を荒げた。14
2017-04-15 21:42:04「だって提督は、次に行く鎮守府を決めてる最中だって……」「そう言われてから、何ヶ月経ちましたか?」「それは……」言われて、春雨は気付いた。自分が助けられてから、もう半年が経っている。転属するにしても、除隊するにしても、こんなに手続きが長引くことは有り得ない。15
2017-04-15 21:45:09「私は15地区の生き残りがいるという噂を聞いて、あなたの事を探していました。その途中で江風さんと出会ったんです。そして彼女と協力して、あなたを横須賀鎮守府から連れ出しました」江風は白雪の言葉に大きく頷いている。しかし、春雨には疑問があった。16
2017-04-15 21:48:01「でも……何で私が隠されてたんですか?私、何かしましたっけ……」春雨はただの艦娘で、普通の家庭で育った少女だ。なぜ自分が駆け引きの中にいるのか、まったく身に覚えがない。すると、白雪が答えた。「あなたが、渾作戦における佐世保15地区の唯一の生き残りだからです」17
2017-04-15 21:51:03「帰還者0名のはずの作戦で何が起こったのか、あなただけが知っている。そして横須賀の東郷提督は、今、あなたを自由に取り調べられる唯一の人間なんです。あの提督は、貴方の身柄を使って佐世保に脅しをかけようとしているんです」18
2017-04-15 21:54:09「えっと、どういうことですか?」春雨は、白雪の言いたいことがわからなかった。「つまり」白雪は言葉を続ける。「あなたの証言、という体で、いくらでも佐世保に不利な証言を作ることができるんです」「そんな……」俄には信じられなかった。あの提督が、自分をそんな事のために助けたとは。19
2017-04-15 21:57:05「残念ながら事実です。心当たりもあるはずです。あの作戦について、しつこく聞かれたりしませんでしたか?」「そんな事……」否定しかけた春雨だが、既に疑念は芽生えていた。確かに提督は、何かにつけてあの日のことを聞いてきた気がする。20
2017-04-15 22:00:17「でも、私は何も喋ってません」だが春雨は、提督の問いには答えなかった。覚えていないわけではない。ただ、あの日の光景を未だに信じることができなかったからだ。「本当です」「気に病むことはありません。あなたを助け出せましたから、これで全部解決です」「そうもいかんようだぞ」21
2017-04-15 22:03:08春雨の後ろから、男の低い声が響いた。振り返ると、中国人の男が真剣な眼差しを後方に向けていた。春雨をハイエースに載せるとき、江風を手伝った男だ。彼の着るダウンジャケットの両肩には、虎を描いたワッペンが縫いつけられていた。「あの、この人、誰なんですか?」22
2017-04-15 22:06:05