(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)
2017-04-21 21:01:18ハイエースが辿り着いたのは、埋め立てたまま放置された空き地だった。恐らくは、すぐ側にある工場を拡げるための土地だったのだろう。深海棲艦により制海権を握られ、東京が放棄された今となっては、ここは潮風に吹き晒された不毛の土地でしかない。1
2017-04-21 21:03:07「よっしゃあ!降りろ降りろ!」チェンが叫ぶと、白雪が車外に飛び出した。続いて、バオと江風が春雨の体を抱え上げる。「もうちょいだ、姉さん!」「で、でも!横須賀の人たちは!?」ここにきて春雨はまだ躊躇していた。長い間お世話になった人たちと、こんな形で別れていいのかと。2
2017-04-21 21:06:03「ほっとけよ!あンな奴ら!」「でも……」「やべえ!もう来た!」角を曲がって激走してくるのは、五十鈴の営業バンだ。だが、その前に砂塵が舞った。上空に待機していたヘリからの機銃攻撃だ。「五十鈴さん!」思わず、春雨は叫んでいた。営業バンはたまらず蛇行し、建物の影へ逃げていった。3
2017-04-21 21:09:07「よし、今のうちに行くよ、姉さん!」「待ってよ、由美江!やっぱりこんなのおかしいよ!」「おかしくなンかねェ!」江風は春雨の手を引き、ハイエースから降ろそうとする。訳も分からず悲しい気持ちになりながら、春雨は上空のヘリを見上げた。銃口が彼女たちの方を向いていた。4
2017-04-21 21:13:04「……え?」無情な機銃掃射が、ハイエースを穿った。軍用の機関銃は車体を猛烈な勢いで殴りつけていく。恐怖に駆られ、春雨は悲鳴を上げたが、自分の耳には銃声しか聞こえなかった。5
2017-04-21 21:15:06気が付くと、銃声は止んでいた。恐る恐る顔を上げる。由美江が倒れていた。肩に穴が空き、そこから血が流れていた。思わず、手を伸ばそうとする。「動くな」低い声が春雨を止めた。床に倒れたバオが春雨を睨みつけている。足から夥しい血を流しているが、その目はまだ冷静さを保っていた。6
2017-04-21 21:18:03「死んだふりをしてろ」「でも、由美江が」「かすり傷だ。奴らが帰るまで、じっとしてろ」周りを見ると、ハイエースの防弾装甲がボコボコに凹んでいた。いくつか穴も空いている。もう一度撃たれたら、車が壊れてしまうかもしれない。春雨は口を噤んだ。ヘリはまだ車に銃口を向けている。7
2017-04-21 21:21:08「う……ぐ……?」その時、由美江が目を覚ました。「あれ、何で……あぐっ!?いてえ!?いたっ、何だよ、これっ!?」肩の銃創を押さえ、由美江はのたうち回る。「馬鹿、落ち着け、動くな!」「何だよ!何でこんなに痛いんだよ、なあ!?」8
2017-04-21 21:24:12再び、銃撃が始まった。「あああああっ!?」弾丸の雨が車体を揺らす。由美江の絶叫が、装甲を打ちつける音に混じる。チェンが何か叫んでいる。だけど、銃声にかき消され、聞こえない。自分の叫び声も同じだ。なのに。「うああっ!痛い、痛いよぉ!」妹の悲鳴だけは、はっきり聞こえていた。9
2017-04-21 21:27:01由美江の叫び声が響けば響くほど、頭の奥底が、じりじりと焼き焦がされる。ローターに巻き起こされる潮風が、春雨の肌に吹き付ける。訳のわからない感情が、春雨の心を覆い尽くしていく。いや、その感情はずっと彼女の心の中にあった。今の今まで気付かないフリをしていただけだ。10
2017-04-21 21:31:02艦隊の仲間たちが沈んだ時のことを言えなかったのも、海に惹かれていたのも、迎えに来るまで妹のことを思い出せなかったのも、全部、その感情のせいだった。「お、姉ちゃん……」痛みに涙を流しながら、由美江は縋るように春雨に手を伸ばした。「たすけて」11
2017-04-21 21:33:07刹那、彼女はトランクドアを弾き飛ばし、車外へと飛び出した。一瞬止まった機銃掃射は、足のない艦娘が飛び出してきたことに驚いたかのようだった。だが、衝動に突き動かされる今の彼女が、それを察することはない。彼女をつなぎ止め、動かし、支配しているその衝動は、怒りだ。12
2017-04-21 21:36:06彼女は、いつの間にか左腕から生えた黒い連装砲を、ヘリに向かって構えた。あのヘリが由美江を殺そうとしている。「やらせは……しないよっ!」ためらいなく引き金を引いた。内臓が潰れそうな程の衝撃が、彼女の体にのしかかる。砲弾の狙いは大きく逸れ、彼方の海に落ちた。13
2017-04-21 21:39:03ヘリが車から彼女へと狙いを変えた。防弾装甲も貫く銃撃が降り注ぐ。しかし、彼女は魔力障壁を展開し、それを弾き返す。そして、連装砲に新しい砲弾を装填し、ヘリに向かって撃つ。ヘリは大きく移動してこれを回避した。彼女は歯を食いしばり、頭上の回転翼機を睨みつける。14
2017-04-21 21:42:03「墜ちろ、墜ちろっ!」連装砲を乱射するが、ヘリはことごとく避ける。高さのアドバンテージと彼女の怒りが、狙いを狂わせていた。このまま膠着状態になるかと思いきや、ヘリが動いた。避けながら、その銃口をハイエースの方へ向けた。ぞく、と彼女の背に悪寒が走る。15
2017-04-21 21:45:04「やめろっ!」彼女は飛び出し、火線上に割って入った。機銃が火を吹く。車を穿つはずの嵐は、彼女の魔力障壁によって弾かれた。反撃の対空砲火。弾幕で狙いがつかない。避けられる。ヘリは周囲を周りながら、執拗に銃撃を浴びせる。狙いは彼女ではなく、撃てば死ぬ人間たちだ。16
2017-04-21 21:48:01「やめろ……やめてよっ!」時折、地面で跳ね返った銃弾が車を揺らす。このまま撃たれ続けては埒があかない。しかし、彼女にはどうすることもできない。ただ、歯軋りして相手が諦めるのを待つしかない。怒りに悔しさが上書きされる。銃撃の音が更に大きく、重くなる。17
2017-04-21 21:51:03「……?」その音の中に、彼女は違和感を覚えた。機銃が巻き起こす音とはリズムが違う。それに、もっと遠くから聞こえてくる。銃撃が止み、音がはっきり聞こえるようになって、彼女はそれが何だかわかった。レジプロエンジンの回転音。つまり、飛行機が飛んでくる音だ。18
2017-04-21 21:54:11いつの間にか魔力反応が接近してきていた。彼方の空を見れば、小さな飛行物体があった。春雨はそれを何度も見たことがある。烈風。空母の艦娘が使う、艦上戦闘機の式神だ。その大きさは手のひらに乗る程度のものであるが、性能は本物と遜色ない。19
2017-04-21 21:57:06どこからか飛来した式神は、明らかにヘリコプターに狙いを定めていた。ヘリもそれに気付き、機銃を烈風めがけて発射する。烈風は捻りを加えたターンでこれを回避。急上昇する。ヘリは頭上を取られまいと、ホバリングをやめて移動を始めた。20
2017-04-21 22:00:16しかし、いかにヘリコプターといえども、ドッグファイトを前提とした戦闘機に運動性能で勝てるわけがない。たちまち烈風に食らいつかれ、機銃掃射を受けた。20mm機銃を受けたヘリは穴だらけになり、きりもみ回転しながら墜落。搭乗員が脱出する間もなく、爆発炎上した。21
2017-04-21 22:03:05