- director_ritz
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殺生院「狗子仏性という題材が臨済宗の公案にはございます。」 ぐだ「うん」 殺生院「ひとりの若僧が和尚にこう尋ねました、”狗子に還って仏性有りや無しや‟」 ぐだ「どういうこと?」 殺生院「犬畜生にも仏性、つまりは御仏の性質や本性…この使用例だと少し齟齬がありますね。」
2017-05-20 11:34:52殺生院「つまりは仏に成り上がれる資質でございます。日本に伝来して形を変えた訓え、大乗独特の価値観ですわね。よって、陳褘殿には全く関係のない我々固有の価値観です。」 ぐだ「その和尚さんはなんて答えたの?」 殺生院「❝無❞と。そんなものはないのだとはっきりと仰られた。」
2017-05-20 11:40:51殺生院「これには続きがございます。総てのものに仏性があるとされているのに、どうして犬には仏性がないと仰られるのかと彼は続けて尋ねた。それに和尚は❝尹(かれ)に業識性の在るが為なり❞と仰った。」 ぐだ「つまり?」 殺生院「煩悩を捨てきれないものには仏性などあってもなくても同じこと」
2017-05-20 11:49:07殺生院「我々は狗畜生でございます。サーヴァントも人間も関係なく生を謳歌するということは、煩悩に塗れて生くるとおなじこと。人を真底心配し愛をもって接するも、いらぬ煩悶を呼び起こす点では同じこと。仏の道は「生への執着を捨てる」道なのです。つまり「人間を辞める」訓えなのです。」
2017-05-20 11:58:11殺生院「わたしは「人間を辞めろ」と仰る覚者が嫌い。死んだように生くるが最上とする訓えが嫌い。わたしは人間で在りたい。生きていたい。気持ちの良いことが好き。みんなが好きだから気持ちの良いことを分かち合いたい。でもそれは私の触れてきた訓えでは捨て去らねばならない煩悩なのです。」
2017-05-20 12:10:05殺生院「おいしいものが好き、おとこのひとがすき、おんなのひとがすき。そこに何の不足がありましょうや。六欲に生きてはしりきって、ああたのしかった、きもちよかった、まんぞくだ!そうやっておなかいっぱいで死ねたら、それ以上のものはないではありませんか。そうでしょう?」
2017-05-20 12:13:20殺生院「人魚姫は、最後まで自らの煩悩に誠実に死んだ。おなかいっぱいになって、「ああ、すてきな人生だった!」そう思って泡になったに決まっているわ。私もおなじきもち。すべてのものの供物になったって、わたしはすべてがたのしかった!きもちよかった!私ははしりきったのです!」
2017-05-20 12:18:46殺生院「マスター、藤丸さん、私は人間が好きよ。」 ぐだ「うん。」 殺生院「あまねく万物の中の一員として、動物である人間が好きよ。すでに仏性など人間にも存在いたしません。宗教という枠組みにて救われる時代は終わった。人間は「仏性」を捨てたのです。」 ぐだ「うん。」
2017-05-20 12:28:18殺生院「私がどうしてカルデアに来たか。あなたはそう尋ねられました。私は、すべてを差し出せるほど、すべてを私のものにするために殺せるほど、人間が好きなの。だから、すべての人間に愛されるために守りたいわ。」
2017-05-20 12:33:56穏やかに開かない部屋の暗い寝台に腰かけたたくさんの顔をした女の人は、小川未明の絵本のページを赤い蝋燭の灯りの下でそっと繰った。 快楽を是とする彼女が僕に一切触れずに。きっと、そういう気分だったのだ。
2017-05-20 12:39:38