金剛のものがたり。八話『金剛！　提督とお買い物へ行く！』

はるか @Kurosu_Haruka

生きよう。そう決めても、わたしには目標もなにも見つからない。生きている理由。それがわからない。 　いつもの防波堤に腰掛けて、海を見ているとカモメがフンを落としてきた。 「アブナ！？　至近弾！」 　直撃は免れたものの、あと数センチずれていたら直撃していた。 　 #金剛のものがたり

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「ふう。幸運にもスプラッシュダメージも避けられたネ」 　跳ねたフンも当たることなく── 　ペチャリ。 「提督にもらった大事な装備がッ！」 　なんとカモメの大粒のフンが、わたしの肩に降ってきた。 【金剛のものがたり。八話『金剛！　提督とお買い物へ行く！』】 #金剛のものがたり

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「へーい、ていとくう〜」 「なんだお前、めちゃめちゃローテーションだな」 「カモメのうんちが降ってきたデース」 「本当だ。見事に肩に……うんち言うな！」 「一張羅の巫女っぽい装備ガ〜」 「洗濯しろ」 「うんち、洗濯機にいれていいノ？」 「まずはフンを流せ！」 #金剛のものがたり

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「水道で？」 「まあ、そうだな。というか本当に生活力ないな、お前」 「しかたないデース。零号試作型は人を依代にしてないから人として生きた経験も記憶がないのヨ」 「そうか。生まれたての赤ん坊みたいなものか……」 「デース」 #金剛のものがたり

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「とりあえず、いつものジャージに着替えてこい」 「ハーイ、ていとくう」 「まったく、あの金剛さんが『うんち』とか言ったりカモメのフンくらったり──」 「なにニヤニヤしながらブツブツ言ってるネ」 「な、なんでもないぞ、金剛」 「それじゃ着替えてくるネ」 #金剛のものがたり

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────── 「大変デース。ジャージお洗濯中だったヨ」 「ジャージも一着しかもってないのかよ！」 「うん、提督にもらったジャージだけヨ〜」 「そ、そういえばそうだった。ずっと洗ってなかったから洗濯させたんだ。涼風に……」 「うん、だから海戦用の装備着てたネ」 #金剛のものがたり

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「肩にカモメのうんち、ついてて嫌デース……」 「これじゃ、うんこんごうだな」 「……ていとく！？！？」 「い、いや、すまん、聞き流してくれ」 「提督下品ネ……マジ引きマース」 「さっきから、うんこうんこ言ってるの、お前だろ！？」 #金剛のものがたり

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「わたしが言ってるのはうんちネ！」 「変わんねぇよ……！」 「うんこより、うんちのほうが可愛いのデース」 「うーん。そうかな……」 「うんうん。うんち可愛いヨ」 　その時、気配を感じ、わたしたちは執務室の扉へ顔を向ける。そこには。 「お二方とも正座です」 #金剛のものがたり

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笑顔の浜風が立っていた。 ────── 「提督を正座させるとは……」 「駆逐艦の分際で戦艦を正座させるなんて生意気デース……」 「お二人とも立場のある方々なのですからね。執務室で、排泄物について討論するのはやめてください」 #金剛のものがたり

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「それよりいつまでもカモメのうんちつけて鎮守府ウロウロするの嫌デース……」 「しかし着るものないんだろ？」 「金剛には私の服を貸しますから、お買い物に行ってきたらどうでしょう？」 「めんどくさいデース」 「提督も一緒にですよ」 「はいはい！　行きマース！」 #金剛のものがたり

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「現金なやつだなぁ」 「わーい！　提督とデートデース！！」 「それではお召し物を用意しますね」 ────── 「浜風の服……ベリーきついデース……」 「体型の差もありますからね」 「脱ぎたいワ……」 「お、和服か。よく似合ってるじゃないか、金剛」 #金剛のものがたり

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「え？　リアリィ！？　カワイイ？　わたしカワイイ！？」 「可愛いとは言ってない」 「え〜。可愛くないノ〜？　ていとくぅ〜わたしのこと可愛いって思ってくれてないノネ〜」 「ああ、可愛い可愛い……」 「わーい！　嬉しいデ……なにその言わされてる感！」 #金剛のものがたり

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「い、言わされてるからだろ！」 「心の底から言ってくれなきゃ嬉しくないデース！！」 「はいはい、いちゃつくのはそこまでにしてお買い物へ行ってきてください」 「せめてジャレついてると言ってくれ、浜風」 「イチャイチャデース！」 「だあ、抱きつくな……！」 #金剛のものがたり

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────── 「お〜。これがショーテンガイ！！」 「うむ。めちゃめちゃ目が輝いてるな」 「うん！！　陸じゃ、あんまり行動しないからネ！」 「執務室に引きこもってモン○ンやってるもんな」 「うん、だからめちゃ新鮮ネ！！」 「それは良かった」 「わーい！」 #金剛のものがたり

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駅前のロータリーを楽しくなって、わたしは走り回る。 「そこは車道だ、落ち着け金剛！」 「わーい！　ふぁいあ！」 「こ、こっちこい！」 　腕を引かれ、わたしは提督によりかかる。 「真っ昼間から大胆ネ……」 　わたしは頬を赤らめる。 「忙しいやつだな！？」 #金剛のものがたり

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「あ、ねえねえ、提督ぅ！　あの斜面、網張ってるヨ！　面白いデース！」 「あれは崩れないようにしてるんだ。駅前が工事中らしいからな」 「へえ〜。あ、ねえねえ、見てみて、ていとくう！　魔女帽子！」 「そ、それはロードコーンだ！」 「とんもろこし〜？」 #金剛のものがたり

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「違う違う。被ってないで、いい子だからもとの場所に返してくるんだ」 「ハーイ！　ていとくぅ！」 　なんだかとても楽しい気分だ。外に出てみると陸も楽しい。 「楽しいか？　金剛」 「ウン！　めちゃ楽しいデース！」 「俺はお前に色んなものを見せたい」 #金剛のものがたり

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提督は嬉しそうに私の肩を掴む。 「戦争しか知らなかったお前に。この世界のことを教えたい」 「ていとく」 「人として生きられるように。俺と一緒に──」 　とても嬉しかった。提督と生きていく。きっと幸せだろう。でも提督には好きな人がいる。相手は人間。 #金剛のものがたり

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戦争が終われば、きっと兵器は邪魔になる。いつか提督はわたしになんて見向きもしなくなる。この人をいくら好きでも、わたしは── 「どうした、金剛」 「なんでもないネ！！　ねえ、ていとくう！　お洋服買おうヨ、お洋服！」 「そうだったな」 #金剛のものがたり

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髪の毛をアップにし簪やらで装飾してもらい、わたしは可愛らしいジャパニーズ着物を華麗に着こなしている。 「なんだか気に食わないこともありマース」 「なにがだ？」 「ジャパニーズがガンたれてくるネ」 　すれ違う男性諸君はみな振り向き、目で、わたしを追ってくる。 #金剛のものがたり

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「なまいきネ〜」 「睨むな睨むな」 「む〜」 「あいつらがお前を見るのはお前が美人で可愛いからだ」 「え……？　提督が、わたしのこと美人で可愛いって？」 「違う……！　お前を見てるやつらの話だ！」 「ふーん」 　わたしは頬を膨らまし、近くの電信柱を見つめる。 #金剛のものがたり

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「あ！　電柱ダ〜、のぼってみたいデース！」 「おい、頼むからやめてくれ！？」 「ふーんだ、どうせ提督は、わたしのこと可愛いなんて思ってないネ！」 「なにいってんだ……！？」 　どうせ、わたしなんて介護対象とか、そんな目で見てるだけ。わたしだって女の子なのに。 #金剛のものがたり

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でも別にいい。 「冗談ネ、ていとくぅ、えへ」 「な、なんだ、そうか」 　人間としての幸せなんて、とっくに諦めてる。 「ていとくう、お洋服やさんの他にも面白そうなお店いっぱいデース！」 「行ってみるか？」 わたしは兵器、戦いの中でしか、この人への愛を示せない。 #金剛のものがたり

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別にいい。多くは望まない。わたしは兵器だから。戦えれば、それでいい。 「わーい！　ていとくと遊べるの幸せデース！」 「ちっちゃい子だなぁ」 「明治生まれだけどネ！」 「俺の倍以上生きてるぞ」 「年長者は敬うとイイヨ」 「お前も提督を少しは敬え」 #金剛のものがたり

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「敬愛してるヨ〜」 「敬ってはいないだろ……」 「尊敬してるネ」 　突然、真剣な表情で言ったので提督は面を食らったのだろう。少し動揺して見える。 「そうか」 「あ、信号ピカピカしてるヨ！　楽しいデース！」 「楽しいか！？」 　テンションが上がって留まらない。 #金剛のものがたり