未完成世界の鎮守府 第7話

艦娘・瑞鶴。あらゆる物を奪われ、あらゆる物を信じない彼女はこの未完成で残酷な世界で何を見るか。 本編第7話(6話(下)は誤り)「Sympathy for the Dragon」 ―龍と鶴が交錯する。
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JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

私が付けているのは胴当てがなく、逆に前掛けのような甲板があるタイプの弓道スタイルの艤装だった。 「蒼龍にもこっちにきてもらうつもりらしいから。仮に叶わなくても、これは軍のものなんだから、きちんと整備して返還すればそれでいいわ」 そう、これは今洲本の病院にいる蒼龍の艤装である。 #未鎮

2018-02-27 21:48:45
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

「まぁ理屈としてはあっているけど」 そういいながら私は甲板を腰部にゆわえつける紐を調整する。ほとんど調整の必要がないことに安堵と妙な悔しさを覚えた。 #未鎮

2018-02-27 21:49:13
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

「さて」 千歳は自分の艤装である箱型の格納庫から、白く塗られた単発の艦上戦闘機―零戦二一型を取り出した。 「次元情報のことは分かるわね?」 「なんとなくは」 「では、この世界における艦娘の艤装とは次元情報を利用した兵器である、この意味は理解できるかしら?」 首を横に振る。 #未鎮

2018-02-27 21:50:16
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

「まず、例えばこの零戦だけど、兵器そのものは普通に工場で作っているの。でもそれだけでは攻撃力は有しない。ただの市販のラジコン飛行機」 千歳は右手に抱えていた情報端末と零戦をコードでつないだ。 「そこで妖精を介して―」 彼女は端末内のプログラムに従って、何か操作を行っている。 #未鎮

2018-02-27 21:52:03
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

「情報を入力すると、この兵器が深海棲艦に通用する元の兵器と同様のカタログスペックを発揮する?」 「そういうこと」 カチャ、という決定キーを叩く音がひときわ大きく響いた。零戦は白い光を放ち――それが収まると、そこには白い矢羽に赤い丸が描かれた一本の矢が鎮座していた。 #未鎮

2018-02-27 21:53:09
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

「目には目を、歯には歯を。ならば――」 「次元情報には次元情報を」 「そういうこと。じゃあ、早速飛ばしてみましょうか」 そう言うと千歳は白い羽をした矢を差し出してきた。私は恐る恐るそれを受け取る。 #未鎮

2018-02-27 21:54:10
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

「重要なのは、発艦するとき、海の向こうに的があると思うこと。そこに神経を集中させて放てば、艦載機は自然と上昇コースに乗るわ」  私はうなずくと、弓に矢をつがえる。 #未鎮

2018-02-27 21:54:28
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

「情報ユニット・戦闘システム起動、『空母瑞鶴、抜錨します!』」 その言葉を発すると、網膜に方位・風量・艦載機の進路・上昇角、様々な情報が投影される。それが指し示す船が進む方向、その先の一点に神経を集中させる。キリキリ…という弦を引く音と、指揮艇が海上を突っ走るエンジン音。 #未鎮

2018-02-27 21:55:54
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

耳を支配する轟音。 「…発艦ッ…はじめッ!」 限界まで張られた弦と予定進路が合わさった瞬間、私は右手の指を矢と弦から離した。 風切り音と共に勢いよく放たれた矢は空へとカーヴを描いて飛び出す。 #未鎮

2018-02-27 21:56:52
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

放たれた矢が閃光を帯びる――それが収まると、後には米粒ほどの大きさになった零戦が懐かしの「栄」エンジンの呻りと共に銀翼を鈍く光らせながら飛んでいた。 「発艦は問題ないようね、じゃあ視点を艦載機に切り替えて」 「了解」 #未鎮

2018-02-27 21:57:37
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

瞳孔だけを動かし、網膜に投影されたメインモニタを艦載機側の視点へと切り替える。この世界における艦娘の使い方は何となく分かってはいるが、それを勘定に入れても零戦の視点に立ち、私の目が下を航行する艦娘指揮艇とその甲板の上に立っている私(たち)を捉えているのは余りにも奇妙だ。 #未鎮

2018-02-27 22:13:10
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

「まずは右ターンで6時方向へ。その後船の後ろを廻って、左ターンで復針」 その指示を聞くと、まずゆっくりと機体の左側を下げて旋回させる。進路が150度程度変わるとゆっくりと機体を元の角度へと戻す。そして船尾を視界におさめると今度は先ほどと逆に、そして先ほどよりも速くそれを行う。 #未鎮

2018-02-27 22:13:41
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

「大丈夫ね、じゃあ戻ってきて。タッチアンドゴーでもう1回」 私は言われた通りに高度を下げながら、零戦を艦娘指揮艇の方へと近づけていく。 (…あれ、飛行甲板ってこんなに小さかったっけ) いくら艦載機を飛ばすのが(この世界では)初めてとはいえ、そこでビビったのがいけなかった。 #未鎮

2018-02-27 22:14:31
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

気がついたときには、既に飛行甲板が目前に迫っていた。 「高すぎる!ゴーアラウンド!」 千歳の指示に私はあわてて艦載機の機首をあげ、再び空へと艦載機を持ち上げた。 「大丈夫、落ち着いてもう1回、今度は――」 #未鎮

2018-02-27 22:14:47
JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

今度は自分の横をフライパスして、そしてアプローチへ、ね」 「分かりました」 今度は一度旋回した機体を、かなり低い高度まで下ろす。あまりの近さに、エンジンの音が耳の奥まで轟々と鳴り響いてくる。そして、高度の低さゆえに機体は安定を保持できず、ひときわ大きく揺れているように見える。 #未鎮

2018-02-27 22:18:39

以下、掲載中

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