未完成世界の鎮守府　第７話

JMIDF阪神防衛隊艦娘戦闘記録班 @mikanseisekai

「第一波攻撃が西部の官舎のある地区と北西の危険物備蓄庫付近に集中したのは覚えています。だからその間に私たちは海上へと出撃――いえ、脱出といった方がいいですね、それができたんです」 「脱出後はどうなった？ 水雷戦隊とは合流できたのか？」 #未完成世界の鎮守府

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「水雷戦隊との合流は結局できませんでした。その後はそれぞれに複数方向から波状攻撃が襲いかかってきました。艦隊運動もできず、ただちりぢりに退避行動を取らざるをえないような有様で……」 #未完成世界の鎮守府

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「次に鎮守府の様子を確認できたときにはドックのある地区は燃料備蓄地区からの延焼と爆撃で完全に火の海になっていました」 「ふむ、その時点では司令部はまだあったんだね？」 「司令部、ですか？ はっきりとは覚えていませんが、まだ倒壊はしていませんでした」 #未完成世界の鎮守府

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「それは昨年、島の奥……あー、旧第3砲台の跡地に新しい司令部を建てたやつだな？」 「えぇ、昨年からの移設工事は完了しています。ですが、一部の通信施設はまだ旧司令部からの引越しが終わっていなくて……ですが両方とも、機能はともかく建物が健在だったのは確かです」 #未完成世界の鎮守府

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「その後は？」 「結局、あとはもう何がなにやら、4人だけになって固まって航行している所に砲弾や爆弾が雨あられと降り注いできたのは覚えています。その次は、気づいたらこの部屋でした」 「そうか、分かった。つらいことを聞いたな」 #未完成世界の鎮守府

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「そうか、分かった。つらいことを聞いたな」 「いえ、私は艦娘ですから。自分の艦隊について万一の場合、その全てを軍に証言するのは義務です」 それが、彼女にとっての”艦娘”のあるべき姿。 では、私は？それと違うのだろうか？ 「最後にもうひとつ」 #未完成世界の鎮守府

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御木川司令は私の方にちらっと視線を送り―― 「彼女に見覚えは？」 小さな、しかしはっきりとした声で聞いた。 #未完成世界の鎮守府

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蒼龍は憎悪を感じさせるような―― 緊張の面持ちで私を見つめた後、 「……ありません」 そう呟いた。 「そうか、ありがとう」 #未完成世界の鎮守府

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その後、医師から蒼龍の状況と今後の治療について簡単な会話が交わされる。それが終わり、病院を出る頃にはすっかり昼時になっていた。病院に入った時には若干の曇り空だったのが今は完全に晴れており、私はその眩しさに思わず腕で影を作る。#未鎮

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その視界の端を民間旅客機だろうか、一筋の飛行機雲が筋を描きながら伸びていくのが見える。司令が先導するままに私たちは横断歩道を渡り、先ほど歩いてきた漁港と客船ターミナルの横を歩いていく。 #未鎮

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「戦闘ログではなくなぜ彼女から直接聴取したのです？」 三人目の審問官である千歳が御木川司令に尋ねた。 「一つは彼女の”生”の反応を見たかった。もう一つは、これを受けた君たちの反応と分析をみたかった――そういうことだ」 最後に空間反応が消えた地点から最も近くにいた蒼龍からの情報。 #未鎮

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これを分析するには大きく分けて二つの経路がある。 一つはこれを素のままで分析すること。もう一つはデータや他の視点を基に仮説を立てること。 「で、端的に言って、どう思う？」 「特におかしな所は感じませんでした。この点に関してはずい……瑞鶴さん？」 「……はい？」 #未鎮

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私は突然声をかけられ、振り返った。まるで心ここにあらずという風に見えた、千歳の顔はそう言いたげだ。 「さっきから全然しゃべっていないけど、一体どうしたの？」 「ま、色々あったんだ。とりあえず後は皆から船の中で聞こう」 #未鎮

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何か奇妙な軽い倦怠感というか、頭に妙に霞がかかっているようなそんな気がする。 「おーい」 ふと聞こえてきた呼び声の方向に顔をやる。ちょうど乗ってきた船が着いたのと反対側の道路に面した護岸に、一隻の哨戒艇――阪神防衛隊所属の指揮艇の一隻だ――が停泊している。 #未鎮

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その船を結わえている岸壁のボラード（係柱）の一本の所に黒潮が立って、こちらに向かって手を振っていた。 #未鎮

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―― 私たちが洲本港に停泊した艦娘指揮艇「ひめじま」――朝、私たちよりも先に神戸港を出て、淡路島沖で海洋情報を調査していたそうだ――に乗り込んだ後、情報の交換と昼食休憩が取られた。そして今、「ひめじま」は大阪湾南方を一路、友ヶ島へ向かって航行している。 #未鎮

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とりあえずの安全が確認されたということで警戒監視は指揮艇のレーダーのみで行われており、付近の海上には同行する船舶や艦娘の姿は見当たらない。この「ひめじま」の甲板も同様である。甲板にいるのはひたすら気怠い感覚が抜けなくてへたりこんでいる私だけ。 #未鎮

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「あー……」 とにかくひたすら気怠く、出てくるのはため息ばかり。 #未鎮

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『―と、いうわけだ。友ヶ島は強襲を受け壊滅的な被害を被ったが、どうにか残存兵力のほとんどと引き換えに襲撃者を殲滅したらしい』 『難儀な話やな』 『つまり、俺たちの相手は襲撃者やのうて第二列以降っちゅうわけや』 『で、「元」目標群は？』 『ほんの一部は回収できたんや。けどな……』 #未鎮

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『塩、か……』 『せや。こんだけ何も教えてくれへん深海棲艦って一体何なんやろな？』 『俺たちに食い扶持を与えてくれる公共の敵（パブリック・エネミー）、そうとしか考えられん』 #未鎮

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先ほどの船内で交わされた会話を思い出す。用意された弁当を食べている間も御木川司令はもはや個人秘書艦と言っても過言ではない存在らしい黒潮と、しきりに情報を交換していた。それを視界に入れながら私は一言も発せず同じ弁当をただ黙々と消費した。 #未鎮

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『……で、喰いちぎられた瑞鶴の右腕はなかったか？』 『なーんも、手がかりさえあらへん』 『まいったな……』 与えられた情報が多すぎて整理がついて行かない。それもこれも……いや、なんだろうか？ #未鎮

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後方から固い船体を叩くような足音と気配が近付いてきた。吹雪だった。 私はなんとか船体に手をついてのそのそと立ち上がった。 「どうしました？全然元気ないですね？」 「……はい、病院の後からずっとこんな感じです」 上官と部下の関係にごまかしは禁物。私は彼女にありのままを伝える。 #未鎮

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「ふーむ……」 しばらく彼女は首をかしげて考え込み―― 「そうだ、訓練しましょう。うん！」 「は？」 本来の彼女らしい、それまで見せなかった快活な笑顔でそう告げる。 対照的に、彼女のつぶらな瞳に映る私は、抜け殻のようにひどく虚ろな顔をしていた。 #未鎮

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吹雪に呼ばれて千歳が艤装と共に甲板に上がってきた。どうやら、今から彼女を講師役として艦載機の発着艦訓練を行おうということになっているらしい。 「ごめんなさいね、あなた用の艤装の調達は間に合わなくて、呉から友ヶ島に直接運んでもらっているのよ」 「だからってこれ、いいの？」 #未鎮