@TOS 52 「ユージンは、暁に捕まったんだよあれだよ」 冗談で茶化されて、蔑ろにあしらわれて、ぶすっとした顔で弁明した。 「ああ…」 暁は三日月とアトラの子どもで、今はアトラとクーデリアと共に住んでいる。 ヤマギの頭にはやんちゃ盛りの暁に振り回されるユージンがありありと浮かぶ。
2017-05-27 16:53:32@TOS 53 「お気に入りだもんな、あいつ」 「舐められてんだろ?」 「そういうダンテ先生は?」 ダンテは苦笑した。 「孤児院のガキたちだけでいいかな」 「ほんと容赦ねぇんだよな…、えげつなさがほぼ三日月」 三人で示しを合わせたように吹き出したところに麦酒が運ばれてきた。
2017-05-27 17:00:13@TOS 54 「お疲れさんっ、久しぶりっ!」 分厚いグラスの縁をがちりと合わせる。一息飲むと、舌に広がる苦味と喉を刺激する炭酸が日々の疲れによく効いた。 「いつぶりだ?」 「二ヶ月くらい…?」 「先月じゃない?孤児院のお遊戯会の演目について、とか」 「あんまり久しくねぇな!」
2017-05-27 17:15:32@TOS 55 ダンテが快活に笑った。結局何だかんだと理由をつけて毎月のように飲んでいる。 今日の目的はメリビットの出産祝いをどうするか、だが、大体飲み会で目的が果たされることは少ない。 仕事のことや今の生活ぶり、鉄華団時代の思い出話まで。同じような事を繰り返し何度も話す。
2017-05-27 17:20:11@TOS 56 ヤマギは思う。きっと大きさや形は違うけれど、それぞれ同じように心のどこかに穴がある。普段は蓋をしているけれど、ふとした拍子にずれてしまったり、自分でずらして穴を確認してみたり。 こうして集まって飲むことも、シノに手紙を書くことも同じなのだ。 「わりぃ、遅れた!」
2017-05-27 17:23:53@TOS 57 ヤマギのグラスが二つ空いた頃、ユージンが髪をぼさぼさにして現れた。チャドもダンテもいい感じに仕上がっている。 「お疲れ様」 「ほんとだよ!あいつ容赦ねぇ!」 さっきも別の口から出た暁の評価に苦笑しつつ、まんざらじゃないだろうことに笑ってしまう。 「…んだよ?」 「別に」
2017-05-27 17:27:05@TOS 58 ヤマギは笑いを噛み殺し、ユージンは訝しく睨んでくる。 「お!ユージンお疲れっ」 「てめ、チャド!逃げやがってこのっ!たまには代われ!」 「いや~、暁がユージンがいいって訊かねぇからさ、モテる男はつらいな!」 「嬉しくねぇ!」 「またまた~」 「てめっ」 「まあまあまあまあ」
2017-05-27 18:20:15@TOS 59 酔って陽気になったチャドと素面の友人のじゃれ合いを、これまた陽気に酔ったダンテが取りなした。 「ユージンは?何飲む?麦酒か?」 「ああ、っつーか、お前ら飲み過ぎじゃねぇ?」 グラスは適宜店員が回収していくが、赤らんで締まりのなくなった顔から結構な量を摂取したことは明白だ。
2017-05-27 18:25:20@TOS 60 「で、決まったか?」 「何が?」 「何が、じゃねぇよ!おやっさんたちをどうやって祝うか考えんじゃなかったのかよ!」 「あー!そうだった!」 「…ったく…」 眉間に皺を寄せて呆れた息を漏らす。もちろん本気ではないけれど。副団長然としたユージンを見ると懐かしい気持ちが募った。
2017-05-27 18:49:03@TOS 61 「ん?どうした?顔になんか付いてっか?」 思っていたより凝視していたらしい、ユージンが視線に気づいてこちらを向いた。 「いや、懐かしいなって」 素直に伝えると、怪訝な顔をした。 「ユージンっていっつも怒ってたよね」 「そうか?」 「そうだよ。まあ、今も大差ないけど」
2017-05-27 22:39:28@TOS 62「あのなぁ…」 ユージンは文句を言いたげにねめつけてきたが、ヤマギの意識は静かに過去に遡っていた。 大雑把で、大らかで、浅慮に振る舞う彼を怒鳴るのはオルガよりもユージンの方が印象に濃い。 「ヤマギ…」 呼び掛けには答えずに、グラスに残った麦酒を口にする。
2017-05-27 22:41:06@TOS 63 温くなってしまったそれは、ただ苦いだけだった。 ーー… 結局、メリビットと雪之丞へのお祝いについてまともな話はできなかった。それはいつものことだし、最終的にはアトラに頼むのもいつものことだった。 「なー!なんで俺には二人が付き合ってるって教えてくんなかったんだよー!」
2017-05-27 22:46:32@TOS 65 「ごめん」 「悪かった」 「お前らな…」 全く心のこもっていない謝罪にダンテもさすがに渋い顔をした。その後もぐちぐち恨み言を漏らすチャドを必死に宥め、 「よし!今日は俺がいい店奢ってやるからそれで機嫌直せよ!」 ダンテは最終手段を口にした。 「…仕方ねぇからそれで許す」
2017-05-27 23:19:52@TOS 66(100までには終わらせたい…) 「お前らもどうだ!?」 ぐりんっと、勢いよく振り返る。いい店とは、詳しくは聞かないが、女性のいる店なのだろう。 「俺はいい」 「そっか。ユージンは?」 ヤマギの答えは想定済みだったのだろう、あっさり引いてユージンに水を向けた。
2017-05-27 23:51:33@TOS 67「俺も行かねぇよ」 「え!?なんだよ、お前付き合い悪ぃぞ!」 ユージンの答えは想定外だったらしく食い下がるも、首が縦に振られることはなかった。 「じゃあまたな!今度こそどうやって祝うか決めようぜ」 「ああ。羽目外しすぎんなよ、特にチャド!」 「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
2017-05-27 23:57:00@TOS 68「ほんとかよ…」 ユージンは信憑性のない返事に頭を抱えたが、ダンテとチャドは意気揚々ときらびやかな通りに向かっていった。 「ユージンは行かなくてよかったの?」 ユージンの隣でヤマギは二人を見送りながら尋ねた。 「俺はもう金で…」 「金で買えない愛、見つけたんだ?」
2017-05-28 00:03:51@TOS 69 言葉尻を取ると、びっくりした顔をしてヤマギを見た。瞳を閉じて、思い出す。 「給料日、シノとザックに娼館に誘われたとき言ってたよね」 シノはその日はえらく上機嫌で、ザックに先輩風を吹かせていたけれど、翌日には立場が逆転していた。あの時のことは、聞けずじまいだ。
2017-05-28 00:11:48@TOS 70「ヤマギ…」 ユージンの声が少し沈む。何を思っているかは筒抜けのようだ。 「どんな人なの?」 「…職場の事務員で、三つ上」 「きれい?」 「…まあ」 ぽりぽりと頬をかく。少し赤い頬と口をすぼめる仕草が彼の幸せを如実に伝える。 「…チャドは知ってるの?」
2017-05-28 06:34:22@TOS 71 今しがた別れた彼の荒れっぷりをみると、知らなかったとなれば同じ轍を踏むことになる。 「…時期が、来たら」 「そう」 暗に含まれる言葉の意味を察して、不思議な気持ちだ。雪之丞たちが結婚した時とは違う。そんなものはいないけれど、兄弟を送り出す気持ちはこういうものかもしれない。
2017-05-28 06:36:11@TOS 72「…シノに報告しなきゃ」 「シノ?」 今日の手紙にはこの事を書こうと思っていたら思わず口から漏らしていた。 「手紙書いてるんだ」 隠すつもりはなかったが、特に必要がなかったので今まで話してこなかった習慣について口にすると、ユージンの眉がぎゅっと寄る。
2017-05-28 06:36:42@TOS 73「お前…まだ…」 ユージンは唇を噛んだ。俯いた瞳が「失敗した」と語っている。 「ねぇ、」 ヤマギが柔らかく呼びかけると、ユージンが顔を上げる。 「かわいそうに見える?」 声と同じだけ、柔らかく微笑んだ。目を見張ったユージンの緑色の瞳に、ヤマギの表情が映りこむ。
2017-05-28 06:37:17@TOS 74「…いや、」 ユージンは少し考えて短く否定した。ユージンの垂れた目が優しくたわんでヤマギは安堵する。 「よかった」 きっと堪えられなかった。 ヤマギの生き方がかわいそうだとしたら、シノに申し訳なくて。 だから、よかった。
2017-05-28 06:38:2475 Dear Shino 今日は書きたいことが沢山あるんだ。 ユージンとチャドとダンテと飲んだよ。…実は結構頻繁に飲んでるけど。みんな変わりないよ。 おやっさんたちへのお祝い考えるはずだったのに、結局関係ない話ばっかりして、ユージンが呆れてた。あの頃みたいで懐かしかった。
2017-05-28 09:59:0276 チャドは未だにおやっさんとメリビットさんが付き合ってたって、自分だけ知らなかったのを根に持ってたみたい。ダンテがいい店奢るって言ってようやく収まったけど。 俺は誘われたけど断ったよ。シノだったら付いて行ったかな。 そういえば、ユージンに恋人ができたみたいだよ。
2017-05-28 10:00:0077 どんな人って聞いたら、年上のきれいな人だって。 うらやましい? 時期が来たら紹介してくれるらしいって。どんな人だろうね。会ったら報告する。 そこで一度ペンを止めた。 ヤマギは少し迷った末に、書き加える。 アルコールは少しだけ気持ちを開放的にした。
2017-05-28 10:02:54