@tos ※tos外れてたからもしかしたらTL荒らしてたかもしれません。ごめんなさい。 79 それからも、ヤマギは毎日シノに宛てて手紙を書いた。 シノに手紙をかくようになってから、周りの様々なことに気を配るようになった。 天気の色、花の香り、風の音、金属の冷たさ、酒の味。
2017-05-28 15:40:56@TOS 80 それらはきっとシノがヤマギに見せてくれたものだ。そして、ヤマギがシノに見せたいものになった。 Dear Shino 今日通りがかりの花屋で、シノが好きそうな花を見かけたんだ。 ブーゲンビリアっていうんだって。 思わず立ち止まったら、買うことになっちゃった。
2017-05-28 15:54:21@TOS 81 窓際に置いた鉢を見る。物の少ない部屋に唯一の彩りだった。 育てるの難しいらしいんだけど、大丈夫かな。 鉢を見て「きれいだなー!」って喜ぶ姿が浮かんだ。「ヤマギならやれるって!」と根拠もないことをいう声が聞こえた。 がんばってみる。 from Yamagi
2017-05-28 15:59:59@TOS 82 Dear Shino 説明された通りに世話をしてたんだけど、花の元気がなくなってアトラに相談したんだ。 水のやりすぎはよくないらしい。 植物用の栄養剤ももらった。 あとは名前つけたり、声をかけるといいんだって。 名前、 ヤマギはくっ、と、吹き出した。
2017-05-28 16:07:59@TOS 83 流星号、ってどうかな。 元気になりそうだから、借りていい? シノが操縦し、ヤマギが手入れしたピンク色のシノの愛機。彼がその名前を呼ぶ声は、活力に満ちていた。 元気をなくしている花に、力を分けてくれそうだ。 必ず元気にしてみせるから。 from Yamagi
2017-05-28 16:14:34@TOS 84 アトラの助言を受けて、水の加減に気をつけて、栄養剤を与えた。毎日毎日呼び掛けた。 「おはよう、流星号」 「流星号、元気?」 流星号は日に日に力を取り戻していった。 Dear Shino 流星号、元気になったよ。よかった。ありがとう。 from Yamagi
2017-05-28 16:24:21@TOS 85 流星号は、ヤマギの思いに堪えるように花を開き、何度も季節を共に巡った。 開いた窓から風が流れこんで、花びらを揺らす。 Dear Shino 今日テレビにクーデリアさんが映ってた。ユージンもチャドも半分見切れてたけど、映ってた。 クーデリアさんはすごい人だね。
2017-05-28 23:01:46@TOS 86 思惑が交錯する世界で、理想や信念を違えてしまうことはままある話で。だけど彼女は変わらない。年を重ねても、そういう世界で揉まれて戦う術を身に付けても。 正しいことを見つめる強い眼差しも掲げた理想を具現化する声の力も変わらず、むしろ輝きを増していた。
2017-05-28 23:02:58@TOS 87 彼女の語る未来は、鉄華団が夢見た世界と符合した。時間をかけてゆっくりと、行ったり来たりを繰り返して、それでも前に。夢物語は少しずつ現実にしていく。 昔は十年後なんて想像できないと思ったのに、今まさにその十年後の世界にいる。
2017-05-28 23:05:19@TOS 88 昔に比べれば、随分いい世界になったよ。 世間的にはギャラルホルンの功績だけれど。 ヤマギは知っている。この世界を実現したのはクーデリアで、それを支えた鉄華団で、シノもその一人だということ。 シノにも見える?…見てたらいいな。 from Yamagi
2017-05-28 23:08:58@TOS 89 Dear Shino 今日はユージンの結婚式だったんだ。 花嫁さん、すごくキレイだった。ユージンは白いタキシード着て、バージンロード歩く時かっちかちで、みんな笑ってた。俺も笑っちゃった。 でも、すごく、すごく幸せそうだった。 ヤマギは窓の外を見た。星が瞬いている。
2017-05-29 23:58:27@TOS 90 結婚式を終えて、ヤマギはザックとデインと一緒に式場を後にした。二次会にも誘われたが、仕事の関係者が主ということで、彼の立場もあるし、クーデリアの立場もあるからそれは遠慮した。 「また今度みんなで改めてお祝いしよう」 ユージンは「悪いな」とヤマギの気遣いと心遣いに感謝した。
2017-05-30 00:11:27@TOS 91 引き出物の詰まった紙袋ががさがさと鳴る。指に食い込むほどの重さが、ユージンと彼女の幸せの重さなのだと思う。 「いい結婚式だったね」 「うす」 「副団長おもしろすぎでしたよ」 真っ白なタキシードもロボットみたいなバージンロードも号泣の新郎挨拶も、あまりに彼らしかった。
2017-05-30 00:19:54@TOS 92 参列者は一瞬笑いを誘われるが、それでも彼の素直さが心に染みて最後には涙に変わっていた。おやっさんの目にも涙がきらめくほどだった。もちろんダンテやチャドは号泣だった。 思い出すだけで胸がじんわり熱を持つ。 「ほんとに、よかったなぁ」 深い感慨のこもる声音が漏れた。
2017-05-30 00:29:42@TOS 93 「整備長はしないんすか?」 僅かに後ろを歩いていたザックが彼らしい気負いのない声で訊いてきた。 「整備長のこといいなって思ってる人、結構いるのに全然そんな話聞かないんで、気になってて。なぁ?」 デインに同意を求めるが、彼は物言わぬまま、つぶらな瞳でヤマギを見るだけだ。
2017-05-30 23:23:18@TOS 94 たぶん、他の仲間も気にしているのだろう。 ヤマギは二人から視線を外した。頭上から夜の幕が降り始めている。ヤマギは地平に姿を隠していく陽と夜の幕の間、濃紺とオレンジに挟まって白くなっている部分を見つめた。 「しないよ」 少しずつ、少しずつ、幕が地平線まで降りてくる。
2017-05-30 23:25:51@TOS 95 「…なんでですか?」 「おい」 すっかり幕が降りると、星の瞬きがよく見える。一際明るい星がヤマギの瞳の真ん中に映る。 「大切に思ってる人がいるんだ」 まぶたを閉じてもその裏側でずっと明るく光り続ける。ヤマギの唇が弧を描いた。二人を振り返って目を見て答えた。
2017-05-30 23:27:14@TOS 96 「誰よりも大切で、その人以上はいないんだ」 「それって…」 ヤマギは笑みを深くして、前を向き直った。 少し視線をあげると、清々しいほど美しい満点の星空が広がっていた。
2017-05-30 23:28:25@TOS 97 ヤマギは目蓋を上げて、ペンを握り直す。 シノは俺が結婚した方がいいと思うかな。 誰か特別な人がいた方がいいと思う? その方がシノは安心するかもしれないと、思ったことはある。けれど、どうしても。 ごめんね。それは叶えてあげられない。 from Yamagi
2017-05-30 23:38:12@TOS 98 Dear Shino とうとうこの部屋を引っ越さなきゃいけなくなったんだ。老朽化だって。 ぼろいけど、結構居心地よかったのにな。 新しいとこは今探してるところ。 職場に近くて、日当たりがいいところがいいな。 あ、荷物も纏めないとだ。 from Yamagi
2017-05-30 23:45:50@TOS 99 手紙を締め括ると便箋を折り、封筒にいれて、日付を書き加えた。 いつも手紙を納める引き出しを開けると、書き貯めた手紙が溢れ出しそうになった。 「そろそろ入れ替えないと…」 薄くて小さな手紙でも何年もの間、毎日書き続けていると、さすがに引き出しには納まりきらなくなった。
2017-05-30 23:52:53@TOS 100 ヤマギは引き出しに納まりきらなくなった手紙を、工具を納めるのに使うケースに入れて、クローゼットに閉まっていた。 引き出しが初めて一杯になったときは、少し呆然とした。まずこんなに続くと思っていなかった。そして何より宛どころもない手紙の量に。 処分することも頭に過った。
2017-05-31 00:00:27@TOS 101 手紙をじっと見つめた。他愛のないことばかり書いていたから、最初の方の話題なんてうろ覚えだ。 この手紙を処分したからといって何ら問題はないけれど。 シノが言うのだ。俺宛の手紙なんだから、それは俺の手紙だろ!って。シノの手には渡ってもいないのに。 結局捨てられなかった。
2017-05-31 00:08:29@TOS 102 今住んでいる部屋の大家にいくつかの物件をを紹介してもらって、ヤマギはその中から部屋を選ぶことにした。特にこだわりはなかったので、条件だけで選ぼうとしたら、エーコに止められた。 「せっかく引っ越すんだからちゃんと選ばなきゃ!」 腰に手をあてて、嗜めるように見上げられる。
2017-05-31 06:49:14