折鶴蘭の少女 136~180

ようやく地上に出られた一同は、下山してふもとの廃店に身を寄せる。
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

161 段ボールは二枚重ねになっていたので、三人分を賄うのに苦労はしなかった。 「お待たせ」 「ありがとう」 「ありがとうございます」  各自が受け取り、改めて休憩スペースに上がる。ちゃぶ台の上には、ポットと、何故かカップラーメンが六個あった。ご丁寧にも割り箸まで 162へ

2017-05-28 09:15:41
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162 添えてある。湯飲みと、未開封のほうじ茶のティーバッグも忘れられてはいなかった。カップラーメンは、女性が食べるには少し大きいものの、散々歩いた後だとちょうどの量になった。そして、鍾乳洞の終点で、ドアから手だけを伸ばした誰かを、一同は嫌でも思い返した。 163へ

2017-05-28 09:21:29
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163 雅は、黙ってポットの蓋を開けた。昭和式の、電気を使わず、単に湯を溜めておくだけの品だ。熱湯が入っていて、湯気が昇った。 「まるで、私達がくるのを見越していたようですね」  藍斗が言った。 「毒とか……大丈夫かな」  キョーカは、胃の辺りをさすっていた。 164へ

2017-05-28 09:26:42
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164 「そんな回りくどい話をするほど、暇な人はいないと思うよ」  敢えて雅は楽観論に徹し、ポットの蓋を閉じた。そこで、一同の胃が申し合わせたように鳴った。突然緊張が緩み、三人は一斉に吹き出した。 「食べよっか」  雅はカップラーメンの蓋に手を伸ばした。 「食べよう」 165へ

2017-05-28 09:31:24
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165 キョーカも異議がなさそうだ。 「じゃあ、私も」  藍斗も、この際は食欲に忠実になった。  そこからは速かった。各自さっさと蓋を開け、かやくやスープをセットしてから湯を注いだ。 「こういうときの三分って待ち遠しいよね」  重しがないので、指で蓋を抑えつつ、雅は言った。 続く

2017-05-28 09:36:16
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折鶴蘭の少女 166  「もう7時になるのか……」  腕時計をちらっと確かめ、キョーカは言った。その口調に陰鬱さはなく、単に事実を確かめた気持ちが強かった。 「ホテルの人達、心配してますよね」  カップラーメンを眺めながら、藍斗がキョーカの台詞を受けた。 167へ

2017-05-30 15:10:31
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167 しかし、それは希望でもあった。ホテルが無為無策でいるはずがない。少々卑俗な話をするなら、宿泊料金を払わねばならないのだから。それに、このままずっと戻らず、連絡もつかないなら、警察に通報する義務がある。そうすれば、簡単に追いつくだろう。 「そろそろ三分かな」 168へ

2017-05-30 15:15:26
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168 雅が、慎重に手を離しながら言った。 「そうね」  キョーカも、割り箸を袋から出した。 「頂きましょう!」  藍斗が宣言し、一同はホテルを離れて始めて食事らしい食事を始めた。それからは、麺をすする音とスープを飲む音だけが室内を満たし、塩辛い香りが広がった。 169へ

2017-05-30 15:19:03
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

169 カップラーメンは、申し分なく旨かった。へとへとに疲れているのもあったが、醤油ベースの特製ソースが口に合った。容器の底が見えるまで食べ尽くしたあと、ポットに余った湯を注いで水分も補給した。 「ご馳走さまでした」  一同は、誰にともなく、それでいて異口同音に言った。 170へ

2017-05-30 15:22:45
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

170 「このラーメン、全国で売られてるんじゃなさそうですね。私は見たことがないです」  藍斗が、空の容器を手にして、くるっと回しながら言った。 「うーん、北海道でも見たことないなあ」  雅も、藍斗の真似をしながら、商品の説明欄を確かめた。黄鱗醸造・乾麺センター 171へ

2017-05-30 15:27:39
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

171 なる企業が作っているらしい。企業ロゴもプリントされていて、わざわざ『刀印』と記載されている。 「良く分からないけど、どこかのローカル企業かな」  質問をしつつ、キョーカは、器用に畳んだ割り箸袋の上に割り箸を乗せた。 「黄鱗って、ユニークな名前ですね」 172へ

2017-05-30 15:31:27
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

172 藍斗としては、その日見聞きした出来事の中では一番ましなニュースだった。 「疲れたし、明日まではここにいようか」  雅の提案には誰も異議を唱えなかった。全く、休息と言うのは一種の子犬か子猫だった。じゃれつく内に身体に密着し、いずれ一緒に寝転ぶ。あとは寝るだけだ。 173へ

2017-05-30 15:35:43
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

173 「見張りとか、立てなくて大丈夫でしょうか」  指摘した藍斗自身、自分が見張りを全う出来るかどうか自信がなかった。とは言え、危険が完全に去ったと確認出来ない以上、必要な措置でもあった。 「そうだね。じゃあ、あたしが一番最初にしよう」  率先して雅が引き受けた。 174へ

2017-05-30 15:39:05
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

174 「じゃあ、私が最後ですね」  藍斗が承諾して、順番が決まった。もっとも、就寝には少し速いので、9時までは自由に過ごすことに決めた。 「鍾乳洞で見かけた腕は、誰だったんでしょう」  藍斗でなくとも、その主が近くにいるのではという疑念を抱くのは自然な感情だった。 175へ

2017-05-30 15:48:34
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

175 「うーん。何となくだけど、男じゃないかな」  キョーカが、足を横座りから三角座りに直しながら応じた。 「えっ? どうしてですか?」 「女の指よりごつごつしてた。腕のふくらみっていうか、筋肉のつき具合も違う」  絵を趣味にしているだけに、キョーカの分析には一定の 176へ

2017-05-30 15:52:50
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

176 説得力があった。 「若いかな、年寄りかな」  カップラーメンの刀印を撫でながら、雅は聞いた。 「年寄りじゃないと思う。肌のつや具合が違うから」  キョーカの意見はいつも客観的だった。 「あの、それなら、さっき入ったドアを塞いでおきませんか?」  甚だ現実的な 177へ

2017-05-30 15:57:30
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

177 藍斗の提案に、雅もキョーカもうなずいた。ドアは外開きではある。しかし、店内の棚をバリケード代わりにすれば、控え目に考えても、音を立てずに侵入するのは困難になるだろう。そうと決まれば善は急げだ。一同は、五分ほど、ちょっとした腹ごなしにいそしんだ。武骨ながらも 178へ

2017-05-30 16:02:10
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

178 自力で作ったバリケードを眺めていると、何かアクション映画の登場人物のような気持ちになってきた。 「明日は、どうしよう」  休憩スペースに戻ってから、雅が意見を集めた。 「スマホ、いまだに電波が立たないんですよね。あ、でも、高い建物の屋上とかならいいかも」 179へ

2017-05-30 16:05:40
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

179 「そうだね。明日は、それを探そう」  雅の同意に、キョーカは首をひねった。 「でも……殺人犯なんかに出くわしたら、どうする?」 「武器とか、探します?」  ほとんど無邪気に等しい様子で藍斗が提案した。 「そりゃちょっとやばすぎだよ」  そうたしなめつつ、 180へ

2017-05-30 16:09:27
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

180 実は雅も一抹の心細さを禁じ得ない。 「武器じゃなくて、盾とかならどうかな」  キョーカの代案は、中々に魅力的だった。 「あ、じゃあ、雑貨屋さんとか探して、俎か何か、服の下につけとくのはどうですか?」  藍斗がキョーカに乗った。 「いいね。じゃあ先にそこへ行こう」 続く

2017-05-30 16:13:55