へるげえむアリス・ロンド。第二話『超えられない壁!? そして想い!』

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はるか @Kurosu_Haruka

「だめ、わたしの布棒術でも壊せない」  激しい打撃音が響くものの、シャッターは傷一つつかない。さらに数発、布を叩きつけるが、やはり破壊できる気配はなかった。  「花子ちゃんの布攻撃、壁は壊せるのにね……」 「このシャッターを壊せなきゃ二階には行けない」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 15:50:59
はるか @Kurosu_Haruka

「壁。そうだ」 「なにか思いついた?」 「床。床を壊してみよう」 【へるげえむアリス・ロンド。第二話『超えられない壁!? そして想い!』】 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:06:08
はるか @Kurosu_Haruka

「せりゃぁぁ!」 桜は気合一閃、体を半回転させながら力強く布を床に叩きつける。激しい破壊音とともに床のゴム剤がえぐれ、 コンクリートが砕けた。 「や、やったね、花子ちゃん!」 「もう何回か叩けば下の階へいけそうだね」  良かった。人殺しをせずにすむ。 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:12:33
はるか @Kurosu_Haruka

しかし、わたしの期待とは裏腹にある程度、床を掘り進むと、どうしても破壊できない層があった。 「ダメだ。シャッターと同じ。これは壊せない」  桜は肩で息をしている。彼女の力では本気で無理なのだろう。 「抜け道作れたら、わたし英雄だったのになぁ」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:19:46
はるか @Kurosu_Haruka

「え、英雄って」 「みんなから感謝されて注目浴びて、さらに褒め称えられると思ったから必死に頑張ったのに〜」 「は、花子ちゃんは目立ちたがり屋だったね」  わたしが苦笑すると花子は捻れて棒状になっていた布を触れずに解き、その腕に巻きつけた。 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:22:35
はるか @Kurosu_Haruka

「やっぱり獲物を探して殺すしかないよ」 「そうなっちゃうかぁ。うん……」  悄気ていると、花子は優しく肩を叩いてくれた。 「死ぬ寸前まで追い込むから、桜は目をつぶってそいつを一撃蹴ればいいよ」 「でも」 「最後の一撃決めたら、桜のカウントになると思う」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:25:56
はるか @Kurosu_Haruka

言葉を終えると花子は右手の甲をこちらに見せてきた。そこには薄っすらと光る文字で『2』が刻まれている。 「それって」 「そう、殺した数。多分ね」 「わたしの手にはなんの変化もないよ」 「まだ誰も殺してないからじゃないかな」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:29:16
はるか @Kurosu_Haruka

そんな数字いらない。人の命を奪った証だろう。 「まさかとは思うけど、まだ人を殺せないって思ってる?」 「そ──」 そんなことないよ、と叫ぼうとした瞬間、向き合う花子の方の向こうに生徒二人の姿が見えた。  わたしの様子で察したのか、花子は機敏に振り返る #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:35:45
はるか @Kurosu_Haruka

「あんたたち二年だね。なんの用?」 「先輩に向かって生意気、こいつ」 「こんな状況で先輩も後輩もあるもんか」  桜の言葉に二年の一人は怒りを顕にし、頬をひくつかせる。  「まあまあ、私たちは争いに来たわけじゃないのよ」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:41:01
はるか @Kurosu_Haruka

「ムカつく後輩だけど、共闘してやろうかと──」  先輩が言葉を終える前に、二人に増えた花子は彼女たちに向かって走り出す。 「や、やる気だぞ、こいつ!」 「仕方ないわね、迎え討つわよ!」  一人目の花子は胸に氷の刃を受け、もう一人は炎を包まれる。 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:44:42
はるか @Kurosu_Haruka

「雑魚が! 先輩に勝てると思ってん──」  赤い塗料が入った水風船。それが破裂したかのように、一人の頭が弾ける。 「町子……ぐぇ!?」  動揺する二年の腹部を棒状のものが貫く。 「ごば……がぶ」  血を吐きながら膝をつく女の背後には花子が立っていた。 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:49:00
はるか @Kurosu_Haruka

「あ、あなた……確かに殺したはず……」 「幻でも見たんじゃないですか?」  ──先輩。花子は冷たく言い放ち、女の腹を貫いた布を引き抜く。 「さあ、桜。このバカに、とどめ刺して」 「と、どどめって」  苦しげに血を吐く先輩へ恐る恐る目を向ける。 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:52:13
はるか @Kurosu_Haruka

「一年がぁ……殺してやるわ…」  憎悪のこもった彼女と目が合い、わたしは思わず視線をそらす。  む、無理だよぉ……こんなの。人を殺せるわけ…… 「桜。早く。こいつ死んじゃうよ」 「で、でも」 「早く!!!!!」 「ひいっ……」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:55:12
はるか @Kurosu_Haruka

「桜ができないなら、殺させてあげるよ!」  花子はわたしを羽交い締めにし、右手に無理やり布をもたせる。捻れた布は鋼のように固く感じられた。 「な、なにする気ぃ〜っ……!?」 「桜に掴ませた布で殴れば、あなたのカウントになると思わない?」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 16:57:13
はるか @Kurosu_Haruka

「やだ、やめて……!」  花子はわたしの手ごと布を操る。びゅんびゅんと耳を裂くような凶悪な風切り音。振り回された布からは血が飛沫になって壁へと飛ぶ。 「わたしは人殺しになりたくないよおおお……!」  近くの教室のすみで座り込み、わたしは泣き続けた。 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 17:00:37
はるか @Kurosu_Haruka

「あと二人だね、桜」  優しく微笑む花子。わたしの右手には『1』の数字が浮かんでいた。 「わたしが守るから。桜は大丈夫だよ」  おかしい。花子は、どこか壊れてる。 「もういい……」 「え? なに、桜」 「もういいよぉ……!」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 17:07:54
はるか @Kurosu_Haruka

「よくないよ」 「わたしはもう人を殺したくない……っ!」 「でも殺さなきゃ、わたしたちの夢は終わっちゃうんだよ?」  だから守らせて。そう微笑む花子に怒りがわいてきた。 「花子ちゃんの守りたいのは、わたしなんかじゃない!」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 17:11:49
はるか @Kurosu_Haruka

「なにいってるの?」 「花子ちゃんの守りたいのは自分の夢でしょ!?」  花子はキョトンとして、首を傾げる。 「そうだよ?」 「わたしのこと……なんだと思ってるの!」 「わたしの夢を叶える大切なパーツ」 「ぱ、パーツ……」 「桜が必要だよ」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 17:14:22
はるか @Kurosu_Haruka

「必要なのは夢でしょ……」 「夢を叶えるのに桜が必要なの」 「わたしに夢を押しつけないで……っ!」 「だったら約束するなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」 「きゃう……っ!?」  花子は怒りに任せて布を叩きつつける。床と机が粉々に砕けた。 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 17:17:06
はるか @Kurosu_Haruka

「桜が小さい頃にしてくれた約束」 「う、うう。子供の頃の話だよぉ……」 「ふざけんなぁぁ!!!!!!」  桜は、わたしの首を掴み上げる。 「ごほっ……」 「わたしにはその夢が命より大切なんだよ!!!!!」 「花子ちゃ……苦し……」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 17:19:16
はるか @Kurosu_Haruka

「お前がバスケから逃げて、この学園に入学するって聞けば地獄を見ながら金をためてついてきたんだ!!!」  そんなのわたし頼んでない……  首を絞められ言い返せもしない。 「貧乏なわたしがどんな思いして金をためたと思ってるんだ!」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 17:20:53
はるか @Kurosu_Haruka

そんなの知らない。自分の都合なのに…… 「体を売るような真似までして稼いだんだぞ! 全部、お前と一緒にいたかったからなのに……!!!!!!」  どうしてそこまで…… 「わたしの夢をバカにしなかった。桜は……たった一人の人だったのに」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 17:23:10
はるか @Kurosu_Haruka

花子の頬を大粒の涙が伝わる。 「桜が、わたしの夢。すべてだったよ」  優しく微笑み、花子はわたしの首から手を離した。 「ごほっ……! ごほっ……」 「わたし、行くね」 「花……子ちゃ……」 「人間が物にしか見えなかった、わたしにとって──」 #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 17:25:17
はるか @Kurosu_Haruka

大量の涙を溢れさせ、花子はそれでも微笑む。 「桜は大切なおもちゃだったよ」 「はな……」  花子はそう言い残し、教室から去っていった。  わたしとの約束のために。あの子は必死に生きてきたのか。 「花子ちゃん……ごめん」   #へるげえむアリスロンド

2017-04-20 17:27:24
はるか @Kurosu_Haruka

花子が去って、わたしは途方に暮れて、数字の『1』が刻まれた右手の甲を見つめる。特に痛みもなく、数字は薄っすらと輝いて見えた。  これは手にかけた命の数らしい。 「どうしたらいいんだろう」  これ以上、誰も殺したくないし、殺せない。 #へるげえむアリスロンド

2017-05-02 22:59:54