亜里沙のことが大好きな雪穂　短編（７）「自由と剣」

亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

「最近は少しずつ、先輩たちから独り立ちしようとしているんですけど、いろんなことに挑戦するたびに、まだまだとてつもなく高い壁があることを実感します」 亜里沙に続いて、私も答える。ここ数ヶ月で思い知らされてきたことだ。 「目標がいつも目の前にあって、とても刺激的です」

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その後もμ'sの話が少し続いた。本当はμ'sに話を聞きたかったんだろうな、とも思う。花陽さんが、私たち以外は関係ないからとインタビューを断ったんだけど。 「はい！　お疲れ様！　ありがとうございました！」 インタビューは無事に終わった。緊張はしたけど、亜里沙のおかげか乗り切れた。

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そこから、全国大会に向けて、そして私たちの独り立ちに向けて、練習を重ねた。寒い中でも気持ちはずっと燃えていた。 特集番組は、大会の二週間前の休日に放送されるということで、私たちは先輩たちと一緒に――いつもどおり、うちのあまり広くない居間に集まって、見ることになった。

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「A-RISEだ！」 「やっぱりかっこいいねえ……」 番組はスクールアイドルとラブライブの歴史の紹介から始まった。歴史と言っても、ラブライブはまだ二年目なんだけど。当然のように、初代王者であり、スクールアイドルブームの先駆けとなったA-RISEがまず登場した。

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A-RISEは、スクールアイドルからプロへと転向した例でもある。ラブライブの紹介としてはこれ以上ない好例だろう。 「今見てもとんでもないハイレベルだね」 「今だからわかるとも言えるわね」 お姉ちゃんたちもざわつく。確かに、去年の時点でもうプロレベルだ。

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それでも、μ'sは勝ったのだ。この人たちに。なんだか、いまだに遠い世界の話のような気がしてくる。 今年もA-RISEがいたら、私たちは勝てただろうか？　――とても無理だ。そんな自信は持てない。もちろん、μ'sだって、そんな自信があって臨んだわけじゃなかっただろうけど。

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なんて思っていると、そう、もちろん、A-RISEの次に登場するのは―― 「μ'sだ！！」 まっさきに、亜里沙が叫んだ。 「絵里ちゃんたちもいるー！」 「懐かしいねー」 お姉ちゃんたちは、割と落ち着いた反応だった。まあ、μ'sはテレビに出るのは慣れているか。

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スクールアイドルの知名度を一気に広めたμ's。一年で解散して、その後のメンバーもラブライブでは活動しなかったということもあって、早くも伝説と化している。μ'sの紹介だけで五分以上は割かれていた。 μ'sは、いまでも視聴率が取れる存在なんだろう。本当に……別世界みたいだ。

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いよいよ私たち、各地代表のスクールアイドルが順番に紹介されていく。撮影とインタビューの長さの割には、実際の放送時間は１グループあたり２分弱といったところだった。まあ、数が多いから仕方がないか。 そして――違和感を覚えたのは、始まってすぐだった。

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「この地を代表する名物といえば、もちろんうどんだ。彼女たちもよく通っているうどん屋さんがある。『うどんのように強いコシで頂点を取ってね！　応援してるよー』」 なんだか、半分くらいは地方や学校の紹介で、アイドル活動の映像は短くて。

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気になってお姉ちゃんたちの顔を眺めてみる。お姉ちゃんは「みんな可愛いね！　みんな応援したくなっちゃう」とただ目を輝かせていた。そんななかで、真姫さんと目があった。「……アイドルの大会というより、地域おこしイベントみたいなノリですね？」思ったとおりに、言ってみる。

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真姫さんは、真面目な目で私たちを見つめながら、頷いた。 「あなたたちも、わかってるでしょ。μ'sがなぜあそこまで支持されたか――されているか。μ'sには、アイドルとしての力以上に、共感できるストーリーがあった。結果的に、音ノ木坂を再起させるほどの力になった」

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真姫さんは続ける。 「私たちに、学校を、地方を変える力があることを、その魅力を、μ'sは伝えた。ラブライブは、もうただのスクールアイドルの大会じゃない。ルールを変えてしまったのよ――μ'sが。私たちこそが。全国大会となれば、地方は、全力でバックアップしてくる」

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――ふと。東京最終予選が終わったときの真姫さんの言葉を思い出した。確か、東京で優勝したからといって全国でも優位とは限らないとか――。 「そうよ。音ノ木坂の物語は、去年もう完結している。東京として一体化するほどのモチベーションもない。世論は――間違いなく、逆風よ」

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「うん。ちょっと前から、なんか、スクールアイドルの大会って雰囲気を超えてきちゃってるなって思ってた」 続いたのは、花陽さんだった。テレビ画面から目を離すことはなかったけど。 「地域おこしみたいって雪穂ちゃん言ってたけど、本当に地元アピールみたいな歌を歌ってる子たちもいるの」

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「レベルが高い東京の子たちばかり見てると気づかないんだけど、地方のほうってそんな感じの空気になってるところもあるんだよ」 「……先輩たちは、気付いてたんですね？」 「勉強家の花陽に教えてもらって、ね」 私の少し恨みがましい質問には、真姫さんが答えた。

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だって、言いたくもなる。もう大会直前なのに。直前になって、そんなことを言われても困る。いや、本来なら私たち自身が気づかなければいけないことだとは思うけど、でも、知っているなら教えてくれたって―― 「でも、あなたたちには影響を受けてほしくない」

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テレビでは、いよいよ私たちの出番となった。自然と、会話は一時中断する。私たちの歌とこれまでの活動、そしてインタビューが紹介される。私たちは――実に、いつもどおりの私たちだった。こうして見比べると、重いものを背負っているという切迫感には、欠けている。

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私たちだって、μ'sの想いを引き継ぐ役割を負ったつもりではあるんだけど、いまいち伝わっていない気がする。 「これでいいのよ。無理に新しいストーリーをくくりつけなくていい。そんなものはこれからいくらでも生まれてくるんだから」 真姫さんはすらすらと、前から考えていたように言った。

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「そうだよ！　二人は今みたいな感じでいいと思うよ！　だって一番可愛いと思ったもん！」 お姉ちゃんが、きっと深くは考えていないだろう軽い感じで、言った。 「自然体でいきましょう。そうやってできあがってきたコンビなんですから」 「楽しまなきゃね」 海未ちゃんとことりちゃんも同意した。

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「無理に重くしないほうがいいわ。それで戦っても、きっと来年以降のあなたたちもずっと縛り付けることになる。あなたたちの自由さは、私もうらやましいくらいなんだから――大切にしてほしい」 みんなの、言うことは、わかる。確かに私たちはとても自由だ。それは、幸せなことだと思う。

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「……でも、不利な条件のまま戦うってことですよね」 「スポーツなら、世論がどうだろうと関係ないかもしれないけどね。アイドルっていうのは残酷よね……世間の雰囲気はそのまま影響してしまう。だから、あなたたちの価値観でもう一度覆してあげて」 真姫さんは私たちの目を見つめて言う。

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「ほら、自由に歌うのはこんなに楽しいよって、こんなに幸せでこんなに輝けるんだよって、みんなも楽しいでしょって、見せつけてあげて。スクールアイドルが動かす世界は、学校や地方だけじゃなくていい。本来、そんな枠を超えてみんなで楽しさと幸せを共有できるものでしょ」

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私たちの出番が終わると、最後の国立二次という受験が残っているお姉ちゃんたちとはここでお別れ。今日はお姉ちゃんの部屋で勉強――といっても、最後の確認みたいなものくらいらしい――をするらしい。 そして、二年生と私たちは、最後まで番組を見た。

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思い知ったのは、確かにラブライブはもはやスクールアイドルが好きな子たちの大会という範疇を超えているということ。明らかに、アイドルに詳しくない人に向けた説明が多かった。 「難しい話してたけど、つまり、私たちはどうすればいいのかな？」 亜里沙が言った。