【正しい失恋の治し方】

りえこ @eighter_rieko83

【正しい失恋の治し方】 1 月曜日、いつもの電車に乗る。 いつもの駅から彼女と…あの男が一緒に乗り込んでくる。 まぁ…どんな関係かやなんて、ひと目でわかる。 でも…あんなチビのどこがえぇねん…。 合コンでよう聞かれる「モテるでしょ？」には、もちろん「モテへん」て言うし。

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2 「モテ期いつ？」って聞かれたら、「小学生の時かな」って答える。 せやけどそれは合コン用やん。 俺的にはずっとモテ期やと思てる。 学生時代はファンクラブもあったし、告白も途切れんやったし。 社会人になってからも女に困ることは無かった。

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3 せやのに、やっと自ら好きやなって女ができたら…その子にはそのチビがおって…。 でも正直多少の自信もあって…いつか奪ってやろと密かに思てた。 《大倉、ちょっと。》 隈部専務から内線で呼び出し。 行くと、隈部専務のデスク前に彼女が立ってて、ちょっと泣きそう。

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4 聞くと、〇✕商事の請求の仕方が今回から変わり、いつも通り彼女に任せたのだが、間違って二重に請求してたらしい。 請求書作りは俺が彼女に引き継ぎしたから、俺にも確認しときたい事があるからって。 とにもかくにも、専務の計らいで事なきを得たらしいので、彼女を連れて自分達のデスクへ。

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5 「請求書って、必ずもう１人確認する人おったよな？今誰がしとる？」 『…隈部専務です…。』 「はっ？！自分も確認しとって気付いてへんかったん？！それなのに、あんなん？まるで〇〇ちゃんだけが悪いみたいな…あ、や、ごめん…。」 彼女、落ち込んでんのに、こんな言い方あかんな…。

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6 『いえ、わたしが悪いんです。フォーマット通りに請求書作って、その内容をきちんと把握できてなかったんです。だから、同じだって気付かなかったんです…だから…、』 「もぉ、ええよ…大丈夫！そもそも変更あって初の請求やったんやろ？それに２ヶ月で相殺できるんやからさ…なっ？」

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7 彼女の肩に手を置いて、少しだけ撫でた。 『……はい……。』 「俺もあかんかった、詳細きちんと教えてなかったもんな？ごめんな？」 隈部専務は優しく諭したつもりやろうけど、あの言い方は責任を全部彼女に押し付けた感じ…。 自分やって確認して気付かんかったくせに…。

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8 『いえ、ほんとに…あの…すみません…。』 泣きそうな彼女を今すぐ抱きしめたいて思った。 「あ、なぁ…ちょっと…えぇ？」 こんな時に卑怯なのは分かってるけど、こんなチャンスもなかなか無いわけで…。 「コーヒー、ブラックやったよな？」 もちろん好みも知ってる。

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9 「はい、これ飲んでひと息つこ？」 『…ありがとうございます…。』 自販機のある休憩スペースは、この時間人がいないのは当然で…。 「まぁ…反省も大事やけど、そればっかやと、また失敗してまうで？誰にでも失敗はあるし、…そもそも今回は〇〇ちゃんだけが悪いんとちゃうし。」

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10 真面目やから、こんなんホンマ落ち込むよな…分かってるからこそ俺の力で…。 「せやから、元気出してや？俺がいくらでもフォローしたるから。な？」 『…はい…すみません…。』 「もぉ…謝らんといてや…？」 そっと…頭を撫でた。 コーヒーを見つめたまま無反応。

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11 軽くやったら…大丈夫よな…？ 彼女のコーヒーに気を遣いながら、ゆっくり両手を伸ばす…。 『ほんとにすみませんでした！とにかく訂正をして、他のも再チェックします！』 俺の手に気付いた様子はなく、急にそう息巻くから、慌てて手を引っ込めた。 「お、おん…がんばりや？」

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12 立ち上がり『コーヒーごちそうさまでした！』って…笑った…。 あー…下心ありありの作戦失敗…。 それから彼女は一言もしゃべらん感じでその日の終業時間を迎えた。 「仕事まだ終わらへん？手伝おか？」 『あっ…いえ…今日は帰らないと…。明日早めに出社します！』

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13 「これからなんか用あんの？」 『用ってゆーか…夕食を作らなきゃ…。』 そう言いながら時計を気にしとる。 そういえば定時でいつも素早く帰る…夕食って…あのチビのため…？ やっぱ一緒に暮らしとるってことか…なんやねん、腹立つ。 『失礼します』って、そそくさと帰った…。

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14 俺も帰るか…そう思ったら、電話が鳴る。 近くの会社で働く友達から。 『もしもし、大倉？』 「久しぶりやん、亮ちゃん。どぉしたん？」 『お願いっ！！』 「なんなん、いきなり(笑)」 『今日っ！今から！飲み会来てくれへん？！』 「飲み会って…合コンやろ、何？人足らんの？」

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15 『そやねん！急に行けんやつおって！せやからお願い！！お願いしますっ！』 「まぁ、えぇけど…。」 どーせ寂しい仕事終わりや…。 喜んだ亮ちゃんの指定した店へ。 行くと既に他のメンバーは揃っていて、すぐに乾杯となった。 ３対３で…珍しく女性はみんなキレイ。

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16 でも、ちょっとだけ派手かな…。 亮ちゃんのテンションで、今日の合コンが当たりなのはすぐ分かったけど…なんか俺的にはあんま上がらへんなぁ…。 彼女のあの…泣きそうな顔が頭から離れへん…。 『二次会どうする？』 亮ちゃんのその声で帰ることを決意。

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17 「明日早いねん、ごめんな？」 大丈夫、亮ちゃんならこのまま持ち帰りも簡単やし…。 いちばんにその輪を離れると、誰かが追いかけて来た。 『あのっ、大倉さん…！』 「へっ？」 見るとさっきいた女の子のひとり。 『あっ…あのっ…連絡先教えてくださいませんか？』

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18 見た目とは少しギャップのある、丁寧な言い方…。 連絡先くらい、ま、えっか…。 「えぇよ？」 教えたら、嬉しそうに微笑んで、お礼を言われた。 やから、俺も笑い返して別れた。 もし彼女に完全にフラれたら…その時に遊ぶにはちょうどいい女…かも…？

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19 火曜日、早く出社するっていう彼女の言葉を信じ、少し早めの電車に乗ったけど、電車で見かけることはできず。 会社に着くと、すでに彼女は来ていた。 「おはよー。ほんまに早く来てたんやなぁ？」 『はい…って、大倉さんだって、早くないですか？』 「いやなんか…早よ目ぇ覚めて。」

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20 なーんて…。 彼女は咳もしてへんし、鼻も出てへんようやし、風邪ひいとる様子はないけど…マスクして…黙々と仕事してるから話しかけずらい…。 つか、多分話しかけられ予防やと思う。 そんなオーラも出とるし…。 せっかくこのフロアに２人きりやのに…諦めて休憩スペースへ。

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21 コーヒー買って、ちょっとボーッとする…。 せっかく早起きしたのになぁ…。 『あっ…大倉さん、おはようございます…！』 真面目で今時牛乳瓶の底みたいなメガネかけとる子。 「メガネちゃん、おはよー…。」 『今日は…お早いですね…。』 言いながら自販機でお茶を買う。

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22 「まぁなぁー…。」 男慣れしてへんのやろなぁ…もじもじと立ったまま温かいお茶を少し含む。 「座ったら？」 『えっ、は、はい…。』 距離を取って、隣に座る。 横顔で見える目は、正面から見た時より大きくて、肌もキレイやし…。 「メガネのせいで目ぇちっちゃくなっとる？」

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23 『へっ？！あっ、まぁ…度が強いので…。』 「コンタクトとかにせぇへんの？」 『えっ！いや…まぁ…はい…。』 「答えになってへんし(笑)メガネ取った方がカワイイやろ…てか、ちょっと取ってみて？」 『えぇっ？！むっ、無理です！！///』 慌てふためく姿は不覚にもカワイイ。

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24 『みんなが“牛乳瓶”って呼んでくれるし、大倉さんは“メガネちゃん”と呼んでくださるから…このままでいいんです…。』 「いやいや…“牛乳瓶”は嫌がろや(笑)」 その時、彼女が自然に笑った気がした。 『では、掃除がありますので、失礼します。』 ペコリとして立ち去った。

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25 その姿を見送り、しばらくして、LINEの通知音。 “おはようございます♡昨日は楽しかったです。今度は２人で食事に行きませんか？” 昨日の合コンの子か…。 早速お誘い…なかなか積極的。 遊ぶにはちょうどえぇのかもなぁ…。 “じゃあ、今度誘うな”