逆理飛翔(6/23)

GC大戦有志異聞『絶望ノ極大混沌再来期』、後日談ソロール
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ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ㅤ あの戦いから数日が経って。 「それ」がやっと目を覚ましたのは、憶えのある小屋の中でだった。 ――私は死んだはずでは。 いつかレオンハルトに一度「殺された」時の記憶が、続いてレオンハルトの声が蘇る。 #逆理飛翔

2017-06-23 00:59:40
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

もうどこも痛まない。 全て清々しいほどに。 そうだ、あの邪紋は。 男の姿をした「それ」は腕を見ようと身体を動かすが、しかし思うように力が入らない。 己を削って混沌を放ち続けた代償は大きかった。己の命を守るものが働いたとはいえ、決して回復したというわけではない。 #逆理飛翔

2017-06-23 01:00:25
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

それにしても私は何故ここに。 一度目を覚まして倒れたのは最後の戦場、全てが済んだらしい風景の中でのことだった。 それが何故か世話になっていた村の小屋に、私はいた。 もう一度身体を動かそうと必死に力を込めていると、扉がきぃと音を立てて開いた。 #逆理飛翔

2017-06-23 01:01:33
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

「起きたんですか」 素っ気ない声。 「動けないでしょう?放っておくとあなたは無理しかしませんから……それに、何故約束を反故にしたと問い詰められるのも嫌なんで。まあでも、良かったですよ。知ってます?どれだけあなたを心配する人がいたか」 #逆理飛翔

2017-06-23 01:02:03
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

言われて初めて、私は身体が何かで押さえつけられているかのように固定されていることに気付いた。 私自身の消耗が回復しきっていないことと、この縛めに聖印の力が込められていること。 動けない理由を理解すれば、私はただ、横たわったままでいることしかできなかった。 #逆理飛翔

2017-06-23 01:02:44
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

時に己を、時に誰かを助けてくれたアーチャーの仕業らしい。 レオンハルトの死後、私が死に損ねることがあれば私を殺すように仕向けるよう頼んでいたのだが――どうやら、私の願いが叶ったことは誰にでも分かる形で示されていたらしい。 でなければ彼が私を生かしておくはずがない。 #逆理飛翔

2017-06-23 01:04:18
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

彼の言葉から私はそこまでを察した。 それから戦場から私を運んだか、或いは運ばれた先から此処へ連れてきたのが彼であるということも。 「……かたじけない」 長らく声を出さずに眠っていたせいか、それだけの言葉を発するにも妙な疲れが全身を襲う。 #逆理飛翔

2017-06-23 01:04:45
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ぴたり、頬に男の指先が触れてそこから温かいものが広がっていくのを感じた。これは聖印による癒しだ。これは随分と久しぶりの感覚であった。 そう、聖印の光が私に痛みをもたらしていない。 それは私の身体を構成するものが、レオンハルトの混沌ではなくなっている証―― #逆理飛翔

2017-06-23 01:05:17
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

私はその光を浴びながら、再び眠りに落ちた。 目を覚ましては再び眠りに引き戻される日々が、数度、十数度、繰り返された。 少しずつ会話ができる時間は長くなり、少しずつ私の意識もはっきりしていった。 #逆理飛翔

2017-06-23 01:05:49
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ㅤ ――そして、ある日。 君主が水汲みのために、村の手伝いのために、少し長い時間外出して、夕刻に小屋へと戻ってきたときのことだった。君主は扉を開けて悲鳴のように叫ぶ。 「ちくしょう、相変わらず出鱈目なことをしやがりくださる!」 それの姿が、そこになかった。 #逆理飛翔

2017-06-23 01:06:46
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

それの荷物と言えるものが一切ない。 それにしか触れられぬ剣も、短槍も。 「ああもう……分かってましたけど。分かってましたけど!」 何処へ姿を消したのかは、これまでの会話から見当がつかないこともない。 「はぁ……」 溜息が大きくなるのも必然であった。 #逆理飛翔

2017-06-23 01:07:10
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ばらばらに壊された枷の残骸。 どうせ強引に壊したか、混沌が安定してきたのをいいことに吹き飛ばしでもしたのだろう。 「くそっ、これだから邪紋使いという人種は!」 扉の外へと引き返す。空を見れば、あの時から一日たりとも薄れることのない虹。 そしてその手前に、青い空に。 #逆理飛翔

2017-06-23 01:08:08
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

悠然と揺蕩うのは、蛇のような身体、長い尾、一対の翼に二対の手脚。 そして、一点も翳ることない。 「ああ……そんな姿だったんですね、あなたは」 全ての色を映して光り輝く雲のような、純白の龍の姿がそこに在った。 #逆理飛翔

2017-06-23 01:09:20
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

唯一悪、皇帝邪紋は撃破され、魔術師虐殺者も封印された。 花畑と虹が残る世界は、余韻を残して平穏を取り戻した。 まだまだやることはある。復興、救済、たくさんの葬儀。 ふらりと現れてそれを手伝いながら、またどこへともなく消えていくものがあった。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:21:04
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

左目の下に邪紋とは違う朱の印、長い黒髪、人のものでない耳。 どうあっても目立ちすぎる男の外見をしたそれは、独りであちらこちらへ歩き続けていた。 特定の何処かに長居することはなく、特定の誰かの元に留まらず。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:21:12
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

それは時に人の姿を借りて、それは時に龍の姿を借りて。 金の眼でただ一点を見つめて空を、地面を、進み続ける。 その旅は終わりの見えない、果てしないもの。 追えども追えども未だ遠い、果てしない場所。 それは諦めきれないただひとつを、ただひとりで探し続ける。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:21:22
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ㅤ ――ひとりの、はずだった。 いつしかそれの隣にはもうひとつの姿を見られるようになった。 それは時に人の姿で、それは時に狼の姿で。 互いの居場所を互いの隣と定めた、遥かなる時を歩み続けるふたつの影が地面に伸びる。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:21:48
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

「なぁ、キースクリフ」 それは歩みを止めて、隣の存在に語り掛けた。 「もう随分と遠くまで来てしまった」 ひょう、と、風が吹き抜ける。もうこの先は人が住んでいるかどうかも分からない。 振り返って遠くに見えるのもただ山と空だけ。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:22:18
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

狼の脚を以てしても、龍の翼を以てしても。 戻るにしても、進むにしても、永遠に限りなく近く思える縹緲たる旅路。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:22:34
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

目指すところは遠く。まだまだ遠く。 本当に存在するのかすら分からない。 「……まだ私に着いてきてくれるか?」 そんな幻のような場所へと求め続ける。頷き答える言葉を聞いて、それは微笑む。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:22:57
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

それは笑って、手をとり、再び足を前へと進めた。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:23:20
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

陽の沈む茜色と闇色が広がる美しい空の下、歩きながらそれは思い出す。 まだ己が龍神の、混沌の憑代でこそあれ人であった、かつての日々のことを。 たくさんの縁のことを。 恐れ、苦しみ続けた時間を。 喜び、怒り、哀しみ、楽んでいた時間を。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:24:00
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ㅤ そして、この旅の目的を。 改めて心に刻む。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:24:45
ルゥイン(跡地) @gc_luyin

――私の目指す場所は、誰も追い求めぬ孤独な場所。 しかしきっと美しくて、輝きに溢れ、幸せと平穏に満ちている処。 #逆理飛翔

2017-06-23 02:25:08