逆理飛旋③(6/20)

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

#真秩序回復戦争 #反英雄との遭遇 その龍は満身創痍であった。 レオンハルトと共に幾度も攻撃に晒され続け、しかしレオンハルトよりは劣る混沌の質により、その命は尽きかけていた。 @gc_luyin →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 既に旗色は悪い。 レオンハルトの再生能力すらも超える攻撃の嵐だ。ウィズもほぼ宣戦を離脱している。 本来なら撤退を選ぶところだが――自分達は、ここを終の住処と決めた身だ。ただ愚直に英雄達に抗するしかできない。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin こちらを攻め立てる波が少し収まった頃、横で辛うじてヒトの姿を保っている存在に声を掛けた。 「ルゥイン」 レオンハルトの動きについてくるだけで精一杯なのだろう。 混沌を極限まで削った青年は、レオンハルトと同様に一部が透けている。 「……もう終わるか？」 珍しく、そんな言葉が漏れた。

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 邪紋の渦が輪郭を浮き立たせているが、到底人のものとは言えぬ様の左腕。影そのもののように色を失い、槍を握るためだけに実体を残している。 人のものに見えはする右腕は、既に幻影に近い。 そこに在るように見えるのは、ただ男が「在る」と無意識に認識しているからであって、無いに等しい。 →

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 横薙ぎに奔った槍の切っ先から噴き出した、もう炎には見えぬ、何なのか分からぬ混沌の塊で英雄の攻撃を防ぎ猶予を作ると、どう見ても視力を残していないであろう、闇のような眼で声の元、「主」の方を見やる。 認識できる気配がひどく薄い。 レオンハルトの限界の近きことを、龍は悟った。 →

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart ――もう終わるか。 その言葉の意味を二度三度考えて、己の身体のもう助からぬを鑑みて。 「……撤退するならば、一刻も早くウィズと離脱しろ」 答えながら、もう物を視ていない目を「敵」に向けもせず。黒の槍で誰かの剣を弾き返す。光弾を混沌で迎撃する。止めきれずに、男の右腕が消し飛ぶ。 →

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart ㅤ 腕はもう戻の形を成さない。 それでもその口元が、緩んだ。 「撤退、せぬのだろう？」 言葉を継ぐ間にも英雄たちの攻撃は止まない。先程の防御が限界だったようで、とうとう左腕に握る槍までが崩壊を始めた。 「ならば、レオンハルト――貴様が死ぬまでは、何も終わらない」 ㅤ

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 貴様が死ぬまでは。 そう言われて、小さく頷く。 「そうか。そうだよな」 わざわざ言われずとも分かっていたことだ。この戦いはレオンハルトを殺すための戦いで、レオンハルトが死ぬか、でなければ英雄全員を殺し尽くすまでは終わらぬ戦争だ。 死ぬか、生きるか。 １か、０か。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin この戦いには、きっとそれだけしか結末が無い。 これは生存闘争なのだから。 「……とはいえ、これは九割がた負けるな」 ルゥインと同じく敵の攻撃を弾きながら、男が言う。冷静な分析だった。 よくもまぁここまでの戦力を残していたと思う。どれほど殺してきたかもう覚えていないというのに。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 残されたのは僅か１００名程度の英雄達。それだけしかいないのにここまでやれるなら、最初から全力で倒しにかかればよかったものを。 おそらく、自分は負けるだろう。 死はまだ遠いが、このままでは押し負ける。負ければ待つのは肉体の死だろう。あるいは、それまでに己の混沌に負けるやも。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin いずれにせよ、敗残の末に尊厳のある死を迎えられるかはかなり怪しい。古来より戦争の敗者は貶められると決まっているからだ。 「……、」 一瞬の間に、色々と考えた。 そうして、結論(こたえ)を出した。 「ルゥイン」 名前を呼ぶ。 これまで何度も呼んできた名前だ。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 己が殺し、生かし、縛って呪った破壊の諱。だがその名前を呼ぶのも、これが最後になるだろう。 「テメェはここまでだ。下がれ」 それは、決別の文言。 「残りの奴等が俺が殺る。テメェが俺の下につくのはここまでだ」 突き放すように、男は別れの言葉を突きつけた。

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart まだまだ。私は引き下がらない、レオンハルトの最期を見届けるまで、最後の一瞬まで、最後の一撃まで隣に――そう告げるには、あまりにも男の姿は無様であった。 今にも消えそうな身体が、腕が保たれているのは、ただ男の最期に残った自我が強烈に足掻いているからに過ぎない。 →

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart レオンハルトのせめてもの望みが叶うところを見届けたかったが、限界だ。己自身を崩して使える混沌も残っていない。 崩れ落ちる槍を、最後に炎に変えて。 それを無数の弾に変えて、宙に浮かべながら。 肩が、髪の先が、表情までもがやがて透け始めるその身体で男は微笑んだ。 →

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart ㅤ 「嫌だね」 ――いつか、レオンハルトが己にそう告げたのと同じ言葉で。 →

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 宙に留まる混沌の残滓が、一つずつ英雄たちへと放たれる。その一発ごとに、宙からいくつかの黒弾が消えてゆく。 「私は私の意思で、勝手に……あなたの隣にいるだけだ」 緩慢に、身体に刺さる攻撃の数々をただ受ける。口から黒い血液がこぷりと零れた。 「……私は、あなたも愛しているから」 →

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 宙に残る黒い弾は、男が生きている残りの時間を秒読みするかのように徐々に数を減らしていく。 「だから、先にいって待っている」 その最後の一つは、レオンハルトに向けて放たれていた何かを弾き飛ばして、霧散した。 「ここまで、よく、頑張ったな」 もうなにも残っていない。 →

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 一歩、近づいて手を伸ばした。 もう少し早く告げていればよかったか。戦場の喧噪にかき消されずに、私の手が、私の声が、とどいていれば。 「あなたとの時間は楽しかったよ、レオン、ハル、ト……」 私の意識はそれきり、金と黒とを認識できなくなった。

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 楽しかった。 確かにルゥインはそう言った。 そうして消えゆく身体で最期に手を伸ばし、しかしその手はレオンハルトに届くことなく力尽きて地に落ちた。 どう、と足元に斃れ伏した男を、レオンハルトが見下ろす。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 感傷を抱いている暇は無い。ここは戦場、敵は休みなく襲ってくる。 それでも、ほんの一瞬、レオンハルトは目を閉じて。 「……」 ルゥインのために、祈った。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 一週間、昼も夜も無く休みなく戦い続けていた。 一度殺され、蘇生され、レオンハルトに気紛れで生かされた男は限界を超えてまで青年の無謀に付き従い続けた。 どこまで走り続けても辿りつけない頂を目指す困難の道を、共に歩いた。 けれど、それももう終わりだ。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin ルゥインは力尽きた。長き戦いの果てに、ついにレオンハルトに追いつききれなくなって。 道理だ。 レオンハルトですら限界を突破して稼働させている。その果てに、誰もついてこられるわけがない。 この黒龍もそれが分かっていたから、最期に労いの言葉を遺して逝った。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 「ルゥイン」 最期にもう一度、その名を呼んだ。 「これが最後の命令だ」 もはや聴こえているかも分からぬその異形の存在に、祝福を。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin . 「……お前は生きろ」 . →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 生きて、そして、俺の死に様を見届けろ。 そう、命じた。 その言葉には何の混沌も籠っておらず、一切の強制力もない。 ただの、男の独り言。 あるいはルゥインとレオンハルトに再び縁があれば、天運が最後に残っているならば。 いつか、叶う願いだろうか。 →