逆理飛旋③(6/20)

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 言葉を落とした先にいる青年が、なおも動かないことを確認して。 レオンハルトは、背を向けた。 紅の腰布が翻る。 そして、歩いていく。戦場の中心へと戻っていく。 剣を再び創り出し、構えて。 もう二度と、ルゥインの方を振り向くことはなかった。

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

伸ばした手は間に合わず、男もまた意識を失った――それは負傷のせいばかりでなく、混沌に呑まれることによって。 この瞬間に意識がないことは、男にとって幸いだったかもしれない。 この瞬間に意識がないことは、男の最期の一瞬を恐怖と苦痛から解放したかもしれない。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

死ぬことができる、その思考すらも半竜に抱かせぬまま。 混沌は静かに辛うじて人の姿をしていたものの内側で渦巻き、膨れ上がっていく―― #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

これまで黒の混沌に混沌核を呑まれずにいられた、その理由たりうる枷は三つあった。 己の身体に、数百年にわたって混沌を吸い続けていた竜神の半身が宿っていること。 いつか黒狼が譲渡してくれた混沌が、己の混沌を保つ壁になってくれていたこと。 それから。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ㅤ 「死ぬなら、俺の目の前で」 「絶対に生きて戻ってこい」 ――皮肉にも、レオンハルトにかけられた呪詛、その言霊。 そして、その言葉の主が死んだ。 言葉は死なぬが、その言葉をより根強く男に影響させていた混沌の主が、死んだ。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

男の身体が溶け始める。 いつかレオンハルトの身体の一部がそうなっていたように、腕のあったところには黒い靄が、脚のあったところには黒い靄が、伸びていた髪のあったところには黒い靄が、そして、辺りは闇に閉ざされるように――真っ黒な世界に。魔境に変貌していく。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

黒の炎が踊り咲く黒の沼。 それは大陸の一部を覆いつくすのではないかという勢いで広がっていく。 男の姿はもうどこにもない。 沼から無限に湧き出す沼。 空を覆い隠す黒泥の天井。 混沌が。無限に増殖する混沌が。 男の混沌核を取り込んで、形を失って、広がっていく。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ㅤ これは逆理でも逆説でもない。 ㅤ だって、ほら、この男の名前は、初めから破壊を運命づけられて。 ㅤ #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

――半竜は、夢を見ていた。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

それほど古くもない、しかし懐かしい時間を。 思い返すように、甘く、時に苦い記憶を辿っていた。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ㅤ 出会った、たくさんの人々を。 ㅤ #逆理飛翔

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ジェイ。 月の夜に出会って、語らった隻腕の男。 彼がレオンハルトに致命傷を与える一撃を、離れたところから目にしていた。 「今より更に、強くなってやる。そして、また闘り合う時には。その時こそ、あんたを倒すよ、ルゥイン」 ――きっと今なら、軽々と私を殺せるに違いない。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

レオノーラ。 いつか竜と共に出会った、心優しい騎士。 黒の混沌に苦しんでいた斑の竜を、労るように撫でてくれた。 「また見つけ、気付いてあげます。必ず」「あなたは、これからどうなってしまうのでしょう……」 ――まさか、己の意思で敵となってしまうとは……すまない。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

シン。 「悪人」をまとめあげている、人徳のある男。 非常に親切で、彼の住むところに落ちたときにも、戦場でも、世話になった。 「どこかで、ねえ…」「ま、縁がありゃあそういうこともあるかもな」 ――今もあの場所にいるのなら、いつか万全な身体で会いに行ければよかった。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

リュドミーラ。 私を助け、案じ、言葉をかけてくれた。 秘めたるは叶わぬ恋。彼女は一途に慕っていた。 「貴方は、生き抜かなければ」「その苦しみを、私が少しでも肩代わりすることは……出来ないのでしょうか」 ――彼女こそ、今どうしているのだろう。メイジスローターは…… #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

シアン。 穏やかな目の清廉たる水に愛されし武人。 衝動に呑まれた私を目覚めさせてくれたこともあった。 「しっかりしてください！」「暴れたくなったら、私の処にいつでもいらしてください。また投げ飛ばして差し上げますからね」 ――真摯な彼の姿が、今も眩しく思い出される。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ナーシャ。 弟と旅をしていた、白衣の魔法師。 ひょんなことから一緒に食事をさせてもらったのが懐かしい。 「お友達でしょ？呼び捨てでも何でも良いよぉ？」「……反英雄さんが居なくなったら、みんなでご飯作ろうねー」 ――その日は近いというに……約束、果たせていないな。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

シイルク。ミアン。 馬車で運搬の仕事をしていた、兄妹のような二人。 私を助けてくれた姿と笑顔は、一瞬だったがそれでも鮮明に焼き付いている。 「どうか。どうか生きてください」「またここにきてもいい？」 ――寂しそうな表情をさせたまま、別れてしまったことが気がかりだ。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

シリウス。 何度も立ち止まりながらも、前進し続けていた踊り子の青年。 敵になってしまった私を見て、約束通り殺そうとしてくれた。 「見ててくれよ、ルゥインさん。どこにいても、俺、貴方の事も照らしてみせるから」 ――真っ白な姿を見せるという約束、果たせなかったな。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ノーツァ。 毒の霧を纏う花のような女性。 誰にも触れることができないと孤独に佇む姿を見ていると、心が痛むようだった。 「……すごく怖くて、でもルゥインさんの声が聞こえて、安心したんです」 ――そう言ってくれた彼女に、私は、襲い掛かってしまった…… #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

篝。 戦場で共に活路を切り開いた。 他人想いで、人として頼りになる青年だ。 「何かあったら俺に言ってくれ！出来ることがあるなら力を尽くすからさ！」「つか、何だよそんな、別れの挨拶………みたいな」 ――何かできねぇのか、と叫んでくれた声に、応えられたらよかったのに。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ランプの魔人。 心優しい彼女は、いつも誰かの願いを問うて。 問うばかりでなく、時に己が傷つくことも顧みずに。 「……呑まれて、くれりゃあな。白き翼の子」「鱗の一枚ぐらいで、どうにかなりゃんかな」 ――最後まで、私の願いを問い続け。そこに私がないことを怒ってくれた。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

ヴィータ。 知る中で誰よりも純粋で、誰よりも平穏を愛して。 赤い目はこの残酷な世界で何度濡れてきたのだろう。 「ルゥインさんが寂しくなったら、いつでもなんかその辺にボクは居ますからね！」「ボクに貴方の魂を護らせて」 ――私の死が、彼に伝わらぬよう……無理だろうな。 #逆理飛翔

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

キザリー。 最後に会った時には魔境になっていた。 無垢で一生懸命に、様々な姿で私と関わってくれた半獣の少女。 「……生きることが、明日を迎えることが……恩返し」「……ねぇ、寂しくない？一人で待つの、つまらなくない？」 ――またあの声を聴けることがあったのだろうか。 #逆理飛翔