【ある夢の続き】

久しぶりの
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

初夏。吹雪は僅かな手荷物だけを持って、木々が両側に鬱蒼と生い茂る田舎道を歩いていた。梅雨も明けるか明けないかという微妙な季節に普段の着格好で歩くのは流石にしんどかった。汗で服が肌に貼り付く感覚はどうにもし難い気持ち悪さだ。

2017-07-09 22:36:50
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

今日は7/7。瑠奈花の両親の命日である。今年は事情により墓参りに来られない瑠奈花に代わり、吹雪がこうしてやってきたというわけだ。しかしながら、吹雪の気力も限界が近かった。とにかく熱いからだ。

2017-07-09 22:37:36
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

飛空挺が使えればよかったのだが、吹雪はどうしてもあれが苦手だった。以前飛空挺の上で激戦を繰り広げた時のことはなるべく思い出さないようにしていた。吹雪は立ち止まって額の汗を拭い、目に止まった小さな看板を見た。

2017-07-09 22:38:07
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「やっと着いた…」 看板の文字をよく読み、瑠奈花から渡されたメモと見比べた。一字一句間違いないのを確認し、吹雪は歩き出した。この先が瑠奈花の故郷だ。

2017-07-09 22:39:08
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

その町は小さいながらも活気に溢れていた。所々に笹の木が乱立し、色とりどりの短冊が飾られ、子供たちが楽しそうに走り回っている。こんな田舎でも七夕ムードだ。一方で、大した支援も得られていないのか、大戦の爪痕と思わしき破壊された建物なども多くがそのまま残っていた。

2017-07-09 22:40:43
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

無理もない。ここは深海棲艦による地上侵攻の最初の標的だったのだ。当然、迎え撃つことなど出来るわけもなく、瑠奈花の話によれば艦娘も駆けつけられなかったという。あれからそれなりの年月が経っているとはいえ、復興してるだけ大したものだ。

2017-07-09 22:42:05
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪が瑠奈花の使いだと知るや、町民達は盛大に吹雪を歓迎した。世間的にも英雄と持て囃される瑠奈花は、故郷においては伝説のような存在であるようだ。食事や宿のサービスまでされたが、流石にそこは料金の支払いを申し出た。

2017-07-09 22:44:02
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「すいません。お尋ねしたいのですが」「あの子のご両親のお墓かい?そっちを道をね…」 この町についてメディアが話題に取り上げたのはごく僅かな期間だった。何しろ、侵攻から間もなくして深海大戦が幕を開けたのだ。ここは文字通りの忘れ去られた町となっていた。

2017-07-09 22:45:12
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪は町民に墓地の場所を聞き出し、再び歩き出した。瑠奈花の両親の墓は町外れの岬にあるらしい。その岬は高台のような地形で、所謂高所にある。吹雪は辟易したが、まあここまで来れば多少消耗しようが大して変わらない。

2017-07-09 22:46:27
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

墓は吹雪が思ってたよりはしっかりしており、花も供えられていた。おそらく町民が時たま手入れしているのだろう。吹雪は市場で買ったリンゴを供える程度に留め、静かに手を合わせた。 (今はちょっと大変だけど、司令官は元気にやっています。だから心配しないでください…)

2017-07-09 22:48:05
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪はこの場所を知っていた。この辺りは数年前、夢で見た光景とほぼ同じだった。ふと思い立った吹雪は、岬から西の方角、町の沿岸部を見下ろした。あの夢の通りなら、その方角に瑠奈花の家があったはずである。

2017-07-09 22:49:26
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪は岬を下り、町の沿岸部へ足を踏み入れた。こちらは町中よりも大戦の爪痕が色濃く残っており、破壊されたままの家屋が建ち並び、大破した小さな漁船が数隻、砂浜に打ち上げられっぱなしであるなど、散々であった。

2017-07-09 22:50:20
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「あの襲撃で多くの人が命を落としたし、騒ぎが収まった後も若者達はみんな町を出ていってしまってねえ」 すれ違った町民が吹雪にこう洩らした。まあこんなことになった町に残ろうとする物好きはそういないだろう。自分が同じ立場なら吹雪もそうしていただろう。

2017-07-09 22:51:58
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪はある民家跡の前で止まった。直感的に、ここが瑠奈花の家だというのがなんとなくわかった。吹雪はその家にゆっくりと足を踏み入れた。

2017-07-09 22:53:13
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

あの夢の通りなら、この家は火事で燃え尽きている筈だった。案の定、間取りの跡が僅かに確認できる程度で、殆どのものは跡形もなく焼失しており、残っているものも辛うじて原型が確認できる程度だった。大体は風化していたが、一つだけ、存在感を放つ小さな箱があった。

2017-07-09 22:54:54
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪は箱に手を掛けた。手に黒い煤が付着したが、なんと中身は無事に残っていた。箱の中に入っていたのは写真だった。 「これは…」写真に写っていたのは、赤ん坊が1人とその両親と思われる人物だった。流石に写真は風化が進み、はっきりとは写っていなかったが…

2017-07-09 22:55:44
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「これは多分、司令官とそのご両親…」母親に抱かれているのは赤ん坊であり、少なくとも夢で見た時よりは前の時系列だと思われる。吹雪の視線は赤ん坊ではなく、母親の方に向けられていた。父親と比べると結構な低身長であり、ウェーブのかかった髪の童顔で可愛らしい女性だった。

2017-07-09 22:56:48
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「この女性、どこかで見たような…」 割と最近、特徴が似通っている人物をどこかで見たような気がする。だがはっきりとは思い出せない。それにしても、童顔で低身長とは、瑠奈花の体型は母親の遺伝なのかもしれないと吹雪は思った。

2017-07-09 22:57:48
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

都合のいい遺伝に密かに感謝しつつ、吹雪は写真を箱にしまい、誰かが持っていかないよう申し訳程度に隠して、宿へ戻った。一日休んで、明日には帰路につく予定なのだ。遺物は後で瑠奈花と共に来た時に回収すればいい。

2017-07-09 22:58:49
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪の泊まった宿は、かつてはそこそこ立派な旅館だった。以前は観光客も多かったそうだが、大戦以降は殆ど人が寄り付かなくなった。現在は町民達が共同で使用する宿泊施設となっているらしい。

2017-07-09 22:59:45
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

風呂を出て部屋に戻る途中、会話中の町民達のグループとすれ違った。ふと気になった吹雪は、彼らに尋ねてみた。 「司令…彼のご両親ってどんな方でしたか?」「そうだな…お父さんは気さくで人当たりのいい方でしたね。お母さんも大人っぽくて優しい方で…」

2017-07-09 23:00:52
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「大人っぽい…あの子供みたいな外見でかあ」ますます遺伝っぽい、と吹雪は思った。 「子供みたいな?いやいや、お母さんはそんな小さな外見ではなかったですよ」「えっ?」吹雪は聞き返した。あの写真に写っていた瑠奈花の母親は明らかに幼い体型だったはずだ。

2017-07-09 23:02:47
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「あの、彼にお姉さんっていましたか?」「いや、兄弟の類はいなかったと思うが…」吹雪は難しい顔で口元を抑えた。町民達もつられて顔を顰めた。「ああ、でも確か、あの人はただの育ての親だって話を聞いたことがあるような…」「育ての親?」

2017-07-09 23:05:24
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「そう。あいつの本当の母親は昔に行方不明になってて、俺達が母親だと思ってたのは本当の母親の妹さんだかなんだかって聞いたことがあるな」「その話、詳しく教えて貰えませんか?」「そうしたいのは山々だけど、何分昔に聞いた話だしなあ」

2017-07-09 23:06:52