【ブルックリン】福間健二 #k2fact173

7月9日から18日まで。しばらく音信のなかった二人の若い詩人とつづけて電話で話す機会があり、そのひとりはアメリカ留学中に「大きな体験」をした。それが心に残り、「アメリカの緑茶」という詩を書いて、手ごたえをおぼえた。下地としては、六月に柴田元幸さんと対談して以来、アメリカ文学、アメリカ文化への受けとめ方に変化がおこったということがある。そういう状態のなかで浮かんだのが「ブルックリン」というタイトル。実際にブルックリンを訪れたのは二〇一三年十二月。グラウンドゼロに行ったあとに足をのばして数時間滞在した。そのときのわずかな体験と、詩人ハート・クレインと去年見た映画『ブルックリン』のことを思って書きはじめた。  音楽、ブルックリン出身のLil' Kimの「Whoa」。これは十年くらい前によく聴いた。 https://www.youtube.com/watch?v=SQpE-4VLolA
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福間健二 @acasaazul

わかっただろう。ふだんはあまりよく機能しない耳にも。分厚いマスクをしたかれらが岸辺で言ったこと。外出許可がやっと出たとか裕福な家のバスルームでしたいこととか。笑いながら渡って我慢の列になり、荷物検査。見るべきだとされたプールを見るために。(ブルックリン1)#k2fact173

2017-07-09 09:06:55
福間健二 @acasaazul

魂が吸い込まれていく気がする。言葉は聞きとれたが、どういうことだろう。ひとつではなく、ほぼ同じものがふたつ。何を安心させるのか。通った橋を確かめられないままブルックリンに戻る。反駁しなくていい月が出ている。ひとつだけ、いま生まれたみたいに。(ブルックリン2)#k2fact173

2017-07-10 11:10:17
福間健二 @acasaazul

一瞬おいしいが、だんだんそれほどでもなくなる。そして安くはない。食べ物もビールも笑顔も。待つ時間を考える時間にしたこの箱、何でできている。紙でできている。死者でも生者でもないこの世を縫う手のじゃまをしないように。ペアルックなんかで来るなよ。(ブルックリン3)#k2fact173

2017-07-11 09:25:07
福間健二 @acasaazul

見えない手とともに鎮魂の水を追いながら、あいさつのキスからの世間話。ここにある手はすぐに使いたい道具を修理する。とりはずせる部分、とりはずせない部分、それぞれ規定どおりの触り方でも、望んでそうしたと言う。自由の国。そう言うことになっている。(ブルックリン4)#k2fact173

2017-07-12 10:07:23
福間健二 @acasaazul

明滅する光のなか、交代制の作業。役割の終わった「死体」をくつろがせる。音が鳴って水が流れつづけるのもそのためだ。その仕掛けの底にある人差し指。弁のはたらきを助けながら、逃さないつもりだ。これをまた思い出して鳥にも子どもになれないぼくの明日を。(ブルックリン5)#k2fact173

2017-07-13 10:49:09
福間健二 @acasaazul

【訂正二つ】 そう言うことになっている。 → そう歌うことになっている。 (ブルックリン4)#k2fact173 鳥にも子どもになれない → 鳥にも子どもにもなれない (ブルックリン5)#k2fact173

2017-07-13 11:19:20
福間健二 @acasaazul

冷たい空気のなかに出て泣いた。それから遠くに行き、ここに戻る船から海に身を投げた。きのうの詩人の「明るい反論」。曇らない目とカティサーク。ちょっとうるさいかなと思いながら、通りで買ったものを食べる。彼もこのサンドイッチもここではヒーローだ。(ブルックリン6)#k2fact173

2017-07-14 12:02:08
福間健二 @acasaazul

線はゆるみ、柱は疲れをかくさない。夜も、距離も、古い使用法ではこうなって、自分のものじゃない夢の時間、夢の空き地だから、入ってこられても文句は言えないわけだ。サンドイッチじゃない方のヒーローが仲良くした三十人の船員。人生の悩み、聞きますよ。(ブルックリン7)#k2fact173

2017-07-15 10:02:01
福間健二 @acasaazul

ほんとうにわかろうとしたら。一九三〇年代と一九五〇年代の写真。どちらにも遠くからやってきた人。自分をどうしたいのか。自分という道がない者どうし、前からいる人も新しい影を追う。不安がすわりこんでいる。たぶん縫う手の正体。むこうの木立ちのそばに。(ブルックリン8)#k2fact173

2017-07-16 14:33:02
福間健二 @acasaazul

別れぎわの吐き気は箱にしまって彼女は戻った。故郷アイルランドには、もういられない。生きる。考える。変化する。半世紀以上前の話だ。多くの人が拍手したのは、姿勢のいいその意欲に対して。劇場の入口。ここなら、だらりと垂れさがる骨も旗にかくされる。(ブルックリン9)#k2fact173

2017-07-17 11:14:20
福間健二 @acasaazul

黙り込みがちの左辺からブルックリンハイツ方向に。一緒に歩くのが楽しかったその人は留守。彼女の娘さんと話した。似てない後姿を見送っていると大粒の雨。いらない箱が音を立てる。メキシコ料理店の前。ここのサーヴィスはいいときとわるいときがある。(ブルックリン10)#k2fact173

2017-07-18 16:03:06