こじらせていたリーマン不定期更新4
- tsutsujishika
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3月の最終週は年度末ということもあって忙しくて、僕らは二人ともくたくただった。何がプレミアムフライデーだ。ケツ毛燃やすぞ。その疲れを引きずっていたから、昨日はほぼほぼ寝て過ごした。
2017-04-02 00:50:57夢の欠片はどんどん輪郭がぼやけて、遠ざかっていく。どんな内容だったか、もうわからない。けれど、ものすごく幸せだった気がする。きっと、ぼくが思い出せないだけで。確かな幸福が、あの場所にもきっとあるんだろう。
2017-04-02 00:51:25「今日入社式だったんだなあ」 「ああ、そうそう。すっかり忘れてたよね。年度末で忙しかったから」 うん。忙しかったから、二人でこうやって弁当を食べるのもちょっとひさびさ。はーチョロ松の卵焼きはやっぱり美味い。
2017-04-03 12:12:03入社式に出るのは新入社員と、あとは役職のついたお偉いさん方がほとんどだ。手伝いも無い俺ら一般社員には、後からよろしくどうぞって形で紹介される。多分明日辺りだろう。 新入社員はこれから研修やら何やらで、教わることも学ぶことも盛りだくさんだ。やー大変だね。がんばれがんばれ。
2017-04-03 12:13:04ぴかぴかのスーツと、切ったばかりの髪。昔の自分を思いだす。 「そういえば、チョロ松ってどんなんだったの?」 「僕?」 「新入社員の頃。ほらお前、ちょっとだけ別の所に勤めてたんだろ?」 チョロ松は中途入社で、少しの期間別の所で働いていたらしい。思えば詳しく聴いたことはなかった。
2017-04-03 12:14:02「んん…」 あんまり楽しい話じゃないけど。とチョロ松は前置きする。 「怒られてばっかりだったよ。ずっとね……。今思えば、むちゃくちゃな会社だったってわかるんだけど。ちゃんと教えてくれない、でもできなかったら怒る。けなす…」 「…ごめん、あんま聴かない方がよかった?」 「いいよ」
2017-04-03 12:15:05「ブラックってほどじゃないけど。人間関係もひどいものだったよ。あの頃は自分がだめだ、できないんだって、悩んでた。悩んで、どんどん落ち込んで。……結局色々あって、辞めることになった」 「そっか…」 そんなことが。あったのか。なんで俺、そのときチョロ松の傍に居られなかったんだろう。
2017-04-03 12:16:02「なんでおそ松がそんな顔すんの」 チョロ松はからりと笑う。俺、どんな顔してる? 「いいんだよ。もう。辞めて正解だった。運よくこの会社に拾ってもらえたし、おそ松にも会えたからね」 チョロ松が、自分のお弁当箱におさまっていた卵焼きをひとつ、俺の方にくれる。
2017-04-03 12:17:02「この話、自分からしたのは、おそ松がはじめてだよ」 「そーなの?」 「そうなの。だってほら、ちょっと情けない話でしょ。逃げ足したみたいで。でも、お前になら。いいかなって」 「ありがと」 意図せずに、心の柔らかいところに触れてしまったけれど、チョロ松がそう言ってくれるなら。
2017-04-03 12:18:03チョロ松は、自己評価が低い部分がある。それはもしかしたら、前の会社の影響なのかもなあ。と、少しだけ思った。 頭をぐりぐり撫でてやると、やめろよ会社だぞ、なんて怒られる。えー社員同士のスキンシップとしては普通じゃね?むしろもっと甘やかしてやりたいくらいなんだけど。
2017-04-03 12:19:01こいつが躓いたとき、傍に居れなかったのは悔しい。でも、失敗したって逃げたって、情けないなんてことはない。前を向いて、ここまでたどり着いてくれて、良かった。 今までだって大事にしてきたつもりだけど、これからはより一層、支えていけたら。なんて、密かに決意を新たにした。
2017-04-03 12:20:06「あっつぃ!」 おそ松はそう唸りながら、どかっと椅子に座った。 「最高気温28度だって」 「何それもう夏じゃん。クーラーいるやつ」 「一昨日くらいは寒かったのにね」 「温暖化ってーのかなー?はーあちい」
2017-05-12 12:24:25昨日に続いて今日も気温が高くて、日差しも元気だ。昼休みになってから外へ出てきた僕は、少し暑いなあと思うくらいだけど。営業で外回りをしてきた彼は、動いた分汗をかいているらしい。
2017-05-12 12:25:15二人でたまにくる、昔ながらの定食屋。さすがにクーラーはまだ働いていなかったが、壁に据え付けの扇風機がブゥンと首を振っていた。風がこちらに来る度、おそ松の前髪が揺れる。
2017-05-12 12:26:05彼はその風に目を細めると、自分のシャツのボタンをひとつ開けた。すでにスーツの上着は脱いで、袖は二の腕まで捲ってあるし、ネクタイも若干緩めている。いつもよりも露わになった肌。定食屋の、外とは違うむわりとした空気。頼んだ昼食はまだ来ない。汗が首筋を伝って、鎖骨に流れていくのが見えた。
2017-05-12 12:27:52「チョロ松。見すぎ」 こつん、と額を指ではじかれる。 「は!?なにも見てねえし」 「嘘はよくないなあ」 おそ松はわざとらしい表情を作って、「俺の夏の魅力にくらくらしちゃった?」なんてふざける。うるせーバカ。その通りだから否定できねーよバカ。
2017-05-12 12:28:51むかつくから、手を伸ばす。二の腕の筋を、つぅっと指でなぞった。一瞬、だけど、これは夜と同じ触れ方。 「うひ、っ?」 「あはは、変な声」 「チョロ松が変な触り方するから!」 おそ松も負けじと僕に手を伸ばしてきたけど、そこへ丁度店員さんがやってきた。
2017-05-12 12:29:29「おまたせしましたー。チキンカレーと日替わり定食になりまーす」 割って入られるような形で、トレイがドンと置かれる。ちなみにおそ松がカレーで、定食は僕。 「残念だったね、おそ松」 反撃の機会を失ったおそ松の手は、少し迷子になった後スプーンを握った。
2017-05-12 12:30:16「くそーあとで覚えてろ」 「はいはい。ほら、食べよう。いただきます」 「いただきまーす」 今日の日替わり定食は、茄子のはさみ揚げ。おいしそうだ。おそ松のカレーもおいしそうだけど……なんで暑いって言ってるのに、わざわざ熱くなりそうなものを。なんて、すこし思った。
2017-05-12 12:31:15