ビー・ギブアップ・オール・ホープ　＃3

えみゅう提督 @emyuteitoku

（掌底とキック、どちらも確かな手応えはあったのだが、まだ足りんか）マンモスの真の脅威はセルフ・コリ・ジツによる難解な装甲にあらず、その巨体にみっちりと詰め込まれた純粋なタフネスなのだ。「グフフ、二度目はないぞ、氷河期小僧」「大人しくできないようだな、変態め」26

えみゅう提督 @emyuteitoku

コールドレインは勝利を確信している、だがそれはマンモスを相手にしているこのイクサに限ったことだ。今までどんなイクサの最中にあっても感じたことがない、嫌な予感が彼女のニューロンをきりきりと引き掻いていた。（間に合うだろうか。どうか、無事でいてくれ、ライオンハート）27

えみゅう提督 @emyuteitoku

―――――28

えみゅう提督 @emyuteitoku

コールドレインの予感とは裏腹に、ライオンハートとナバルは、フューリアスを相手に終始優勢にイクサを進めていた。「イヤーッ！」「うわっち！」フューリアスはライオンハートのキックを側転回避！「ナバル！」「オッケー分かってる！行くよー！」ナバルがライオンハートの合図に答える。29

えみゅう提督 @emyuteitoku

ナバルは回避するフューリアスに向け主砲を斉射！「ちょ！やばいやばいって！」フューリアスは極大単装砲の陰に隠れナバルの主砲を防ぐ。縮こまり視界の狭まったフューリアスに、ライオンハートが巨剣を振るう。「イヤーッ！」巨剣が届く前にフューリアスは単装砲ごと飛び上がり再び回避。30

えみゅう提督 @emyuteitoku

「ひゃー！あばばば危ないってば！」ビックリ箱のバネ・オモチャめいてフューリアスは跳ね回る。道化師めいて飄々とするフューリアスだが、ライオンハートは油断しない。いかにふざけていても相手はオールドワン、深海星鬼の支配の鎖を引きちぎった制御不能のモンスターである。31

えみゅう提督 @emyuteitoku

「流石は軽巡洋艦だ。乱れはあれど的確な回避だな、フューリアス＝サン」「乱れて当然サ、滅茶苦茶な選択の中から変化は生まれる。忘れちゃったの？ボクは変幻のオールドワンだよ？」【変幻】、七使徒が持つ世の摂理を砕く権能の一つ。ライオンハートはその意味がどうにも腑に落ちない。32

えみゅう提督 @emyuteitoku

拗けてくねり、ひょろひょろとすり抜ける回避は、確かに変幻自在である。だが、それはカラテでもたどり着ける領域だ。オールドワンの一柱、【堅牢】にカラテをぶつけたライオンハートだからこその疑問。星鬼の最高傑作としては、フューリアスは不自然なほどに弱すぎるのだ。33

えみゅう提督 @emyuteitoku

それが、ライオンハートがフューリアスを仕留めきれずにいる理由だった。正体がわからない、踏み込めばこいつは何かを起こす、ライオンハートは見えない不安と戦っていた。その不安は共に戦うナバルにも伝わっていた。「ねえ、レオ。今なら撤退できるんじゃないかな」ナバルは撤退を提案する。34

えみゅう提督 @emyuteitoku

「これ以上戦っちゃいけない気がする。リンクスの報告だと、スクトゥムとチェルノボグに、コールドレインも今なら余裕がある。だから――」「引けぬ」ライオンハートはナバルの提案を退けた。「今引いても、アンダーテイカーは帰ってこない…報いを受けさせるまでは、引けんのだ！」35

えみゅう提督 @emyuteitoku

友を失った悲しみは、ナバルも同じだった。彼女の視界の隅には砕かれた棺が漂っていた。「…わかった、そうだよね、仇を討たないと引き下がれない！」決意新たに構える二人に、フューリアスは無邪気に笑いかける。「ヒヒャ、それなら一つ提案。ちみたち、これが気になっているんでそ？」36

えみゅう提督 @emyuteitoku

フューリアスは単装砲をゴンゴンと叩く。「君らは早くボクを沈めたくて仕方ない、んでボクはそろそろサーカスの名物を見せたくて辛抱たまらない」極大の単装砲が空に向けられた。「一発撃たせてよ、君らだって間合いが分かれば戦いやすいっしょ。見てみない？ボクのタンソウホウ」37

えみゅう提督 @emyuteitoku

「むう…」ライオンハートは提案を精査する。単装砲の砲身は空に向けられ、今は驚異ではない。威力と反動が把握できれば、砲弾を受け流し、フューリアスに止めを刺す事ができる。正体がわからぬまま戦いを長引かせては、埒があかない。「…いいだろう」「よしゃー！そうこなくっちゃ！」38

えみゅう提督 @emyuteitoku

「ただし！妙な動きを見せた場合は容赦しない」ライオンハートは左腕にうどんめいた触手を巻き付ける。六連主砲の構えだ！「ちょっとくらい信用しようよ～。ほんとに撃つだけだからサ。世界で一番綺麗な花火をね」泉に手を差し入れるが如く、フューリアスの腕が砲塔に沈みこんだ。39

えみゅう提督 @emyuteitoku

勝敗を決める切り札をあえてさらけ出すフューリアスの真意はいかなるものか。「さあどーぞご観覧ください！これが！これぞ！これこそが！星を砕くボクの主砲！その名は――…思いつかないや。そういえば特に考えてなかった！まあいっかヒヒャヒャヒャ！！！とりあえずッドーーーン！！」40

えみゅう提督 @emyuteitoku

それを――なんと例えればいいのだろうか。ライオンハートとナバルは空を見上げていた。彼らの視線の先に、夕刻前の明るい空に、”夜空”があった。丸い夜空に星の煌めきがちりばめられる様は花火と形容しても違和のない美しさだ。「ねーねー！綺麗でしょ！すごいでしょ！怖イデソ？」41

えみゅう提督 @emyuteitoku

ライオンハートは呆然と立ち尽くし、ナバルは膝を折り座り込む。夜空の正体は、主砲の射線にあった塵、空気、有象無象が吹き飛ばされた大気の穴から見える宇宙。「世界に、穴が。こ、んな…」世界に穴が空いた。ライオンハートはコランダムの切り取られたような艤装を思い出した。42

えみゅう提督 @emyuteitoku

（コランダム＝サンの艤装は、切り取られたのではなく、砕かれたのでもなく、消し飛ばされていたのか！）それが真実だった。コランダムはフューリアスとのイクサの時、他のジュエルマスターを見捨てて逃げた。破壊の線から命だけを外し、誇りである艤装を、仲間を、心を消し飛ばされた。43

えみゅう提督 @emyuteitoku

「ちょっとー、見とれてくれるのはとっても嬉しいけどサ。もう次発装填できてるんだよね。撃っていい？」フューリアスは照準をライオンハート達へ向ける。これ程の破壊力を持つ砲が、もう次の準備を整えている。「な！馬鹿な！」「嘘…そんな」二人の反応を見てフューリアスはにっこりと笑う。44

えみゅう提督 @emyuteitoku

「馬鹿も嘘もないよ。だって単装砲だもん、装填は早くてとーうぜーん。じゃあ、ドカンと二発目行ってみよー！」「六連主砲ッ！」ライオンハートは疾風めいて駆けだした。もう撃たせてはならない、今すぐに終わらせなければならない！「斉射！」ライオンハートの奥義が放たれる！45

えみゅう提督 @emyuteitoku

フューリアスは高く跳ね、六連主砲を回避する。（やはり跳んだか！想定済みだ、フューリアス＝サン！）単装砲の装填が早いと言ったのはフューリアス自身。ライオンハートの六門の砲もそれぞれが単装主砲、上に向け二度目の構え！「六連――」「レオ！敵機警戒対空戦闘！急いで！」46

えみゅう提督 @emyuteitoku

ナバルの声はライオンハートの耳に届いていた。しかし、敵に空母は居ない。航空戦力の無いイクサである。余りにちぐはぐな内容が故に、反応が遅れた。「グワーッ！」ライオンハートに爆弾が直撃！「新手か？！リンクス、敵の位置は？！」（…何も、いない。ナンデ？ナンデ艦載機が？！）47

えみゅう提督 @emyuteitoku

「レオ、主砲をほどいて！早く！」ナバルの声がライオンハートの意識を引き戻す。「無念っ！」ライオンハートは左手から触手を外し、必殺の構えを解く。続いて迫りくる雷爆同時攻撃に対し、それぞれ砲を向ける。「イヤーッ！」即座に爆撃隊と雷撃隊は爆発四散！ワザマエ！「くぅ、一体何が…」48

えみゅう提督 @emyuteitoku

上空をのろのろと飛ぶ艦載機は全て同じ形の古めかしい複葉機だ。「こいつら、一種類だけなのか？」しかし、装備が違う。機銃、爆弾、魚雷、そして――爆雷。ライオンハートは引きつるように息を吸った。「リンクス！今すぐ深度を下げろ！」（ごめん、ライオンハート。もう…間に合わない…！）49

えみゅう提督 @emyuteitoku

「リーーンクス！」海中特有のくぐもった爆発音が響き、その後、リンクスからの返事はなかった。ライオンハートの心頭からドス黒い怒りの業火が吹きあがる。「おのれ…フューリアス＝サン！断じて、許さ…？」彼の視線の先に、憎しみをぶつけるはずのフューリアスはいなかった。50