ビー・ギブアップ・オール・ホープ #3

0
えみゅう提督 @emyuteitoku

マンモスは約束通りコールドレインを待っていた。口からは変わらず白い息がふき出している。「グウッフッフ、来たかミジンコめ。ガネーシャのカラテパヤットから無傷で逃げてきたことだけは褒めてやる。だが俺は奴のように手加減はせんぞ、一撃ですり潰してくれるわ!」1

2017-08-06 19:43:23
えみゅう提督 @emyuteitoku

マンモスは鼻息荒く拳を握りしめる。二人の身長差はおよそ二倍、その体格差はまさしく古代に生きたケナガマンモスと人間の対峙である。鍛えたカラテがあってもこれでは質量で押しつぶされてしまう。だが、コールドレインの心に恐れは一切なかった。(インストラクション…)2

2017-08-06 19:44:31
えみゅう提督 @emyuteitoku

「死ねい!ミジンコ!潰れてしまえ!」(手加減しない、か。ならばこれがマンモスの真髄。真なる隙だ!)驚異の速度で迫りくるビッグ・パンチをコールドレインはなぞるように回避し、懐に飛び込んだ。「イヤーッ!」コールドレインはクロスレンジでマンモスの腹筋に平拳を打ち込む。3

2017-08-06 19:46:40
えみゅう提督 @emyuteitoku

「無駄だ!そんなチンケな攻撃で、この俺を倒せると思っているのか!」剛毛のクッションの下にある異なる感触、じゃりじゃりとした何かに阻まれコールドレインの平拳が止まる。(硬と柔が入れ替わる装甲…謎は解けた!)コールドレインの平拳の先端からは、冷気が流れ落ちていた。4

2017-08-06 19:48:01
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ハァアア…イヤーッ!」コールドレインは平拳を支えていた手首の力を抜き、冷却されたマンモスの腹筋に掌底を打ち据えた!「グ――グヌグググ?!グワーッ!」マンモスは腹を抱え悶絶!「やはりな」チェルノボグのカラテさえも防いだマンモスの装甲がなぜ容易く貫かれたのか?!5

2017-08-06 19:49:16
えみゅう提督 @emyuteitoku

「膨大な運動量は熱を生み、動きを鈍らせる。お前の白い息は蒸気ではなく冷気。体内を直接冷却することにより間接的に心肺機能を激増させ、さらには肉体を氷山めいた硬さと、シャーベット状の柔に瞬時に切り替える。セルフ・コリ・ジツ、それが貴様の装甲の正体だな、マンモス!」6

2017-08-06 19:50:09
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ナヌ!そうだったのか!」「…自分で気付いていなかったのか」セルフ・コリ・ジツはコリ・ジツの使い手の中では禁忌とされている。数多のタツジンがその習得を目指し、過冷却でその身を砕き、命を落としていた。精妙にして繊細、マンモスにはまるで似合わぬコリ・ジツの奥義が一つである。7

2017-08-06 19:51:20
えみゅう提督 @emyuteitoku

その実、マンモスはシベリアの永久凍土の底に眠っていた氷漬けのケナガマンモスが深海棲艦化した生ける化石である。1万年に及ぶ氷の中での眠りが、下品でバカで、カラテを理解する知能すらないマンモスに天性の素質を与えてしまったのだ!ブッダよ!貴方はスカタンか!? 8

2017-08-06 19:52:39
えみゅう提督 @emyuteitoku

無論その事実をコールドレインは知らない。知る必要はない。今の彼女のカラテは盾の重圧とドクロメンポの死神を退けたマンモスを倒す事ができるのだ!「冷えたシャーベットで衝撃を包み込むのならば、より冷やし氷塊に変え押し込むまで」「ならばその前にすり潰してくれるわ!フンヌー!」9

2017-08-06 19:54:44
えみゅう提督 @emyuteitoku

マンモスは平手を豪快に振り下ろす、ビッグ・ハエタタキだ!カラテとは言い難いただの力任せであるが、マンモスの巨躯と噛み合う広範囲の圧殺は実際驚異。天が落ちてくるようなマンモスの一撃を前に、コールドレインは冷静であった。(何たる蛮力、これも加減のない攻撃だが…)10

2017-08-06 19:56:10
えみゅう提督 @emyuteitoku

(これは真髄ではない。逃げる相手を打つための布石!)頭上を覆う巨大なマンモスの左の掌、通常であればそれに視界を奪われる。されど、コールドレインは飽くまで冷静、彼女の瞳はその奥、マンモスの硬く握られた右の拳を見据えていた。「布石ならば受け流す!イヤーッ!」11

2017-08-06 19:57:41
えみゅう提督 @emyuteitoku

コールドレインが海面を叩く。瞬時に海水がコリ・ボーとなり、コールドレインの傍らに伸びあがった。コリ・ボーがマンモスの親指の付け根を捉え、平面だったビッグ・ハエタタキはチョップめいた角度へ受け流された。「バカナー!!」避ける相手を打つはずのマンモスの右拳が行き場を失う。12

2017-08-06 19:59:39
えみゅう提督 @emyuteitoku

想定外のカラテの前にマンモスは狼狽、隙だらけだ!ヒサツワザを打つのは今!(違う!!これは用意された隙だ。マヌケなマンモスでも、ガネーシャ=サンと並び立つ理由、何かがある!)コールドレインは目の前に差し出された最大のチャンスを捨てバク転!何とモッタイナイ!13

2017-08-06 20:00:47
えみゅう提督 @emyuteitoku

観戦者がいたのならブーイングが飛んでいたであろう行為だが、コールドレインの判断は正しかった。「ムウーッ!フンッハー!」鼻、口、耳、果ては毛穴まで、マンモスは全身から膨大な量の冷気を噴出した!マンモスの周囲、二四畳間に届く範囲が一つの瞬きもない間に冷気に包まれ凍り付いた!14

2017-08-06 20:02:11
えみゅう提督 @emyuteitoku

海がマンモスの故郷であるシベリアの永久凍土めいて白く染まる。もし、コールドレインが止めの一撃のために踏み込んでいたのならば、臓腑の芯まで凍り付き、マンモスのビッグ・パンチでカキゴーリにされていたであろう。「ただ噴いただけでこの威力か。やはりバカだが油断ならぬ」15

2017-08-06 20:03:36
えみゅう提督 @emyuteitoku

カラテ無きジツ偏重の戦いを見て、コールドレインは自嘲する。「こんなバカとは重ねたくないが、私も数十分前はこうだったのか。“弱い”と言われて当然か」マンモスとの距離は得意のコリ・チャクラムが生きるミドルレンジ、しかしコールドレインは両の拳を握りしめ体重を前へ傾ける。16

2017-08-06 20:05:20
えみゅう提督 @emyuteitoku

(チャクラムではシャーベット以前に、あの剛毛を斬り裂けない。今は――)「打撃で押し込む、とか考えているんだろう。グフフフ!」白く広がる冷気の中からマンモスの声。「ボスと一緒に大西洋を走り回った俺が、お前のような氷使いと出会っていないと思っているのか?おめでたい奴だ」17

2017-08-06 20:07:28
えみゅう提督 @emyuteitoku

「貴様が冷やしてくれるというのならありがたい、久しぶりに、全力を出せるわ!」おお!見よ!マンモスの全身が氷に覆われているではないか!これこそがマンモスの真の戦闘形態、コリ・ヨロイ!「この鎧を纏うのも久方ぶりよ。ムフー、実に久しぶりでな……凍らせすぎた。動けん」18

2017-08-06 20:09:14
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ちょっと待っていろ。関節は肘と、膝と…ムヌー?妙だな。あ、そうだ手首足首に、えー他はどこだ?……腰だ!捻りが無ければパンチも打てぬし、タンソウホウも撃てぬな、ウム」「イヤーッ!」「グワーッ!」コールドレインのドロップキック!鎧とは名ばかりの氷の塊が海面を転がった!19

2017-08-06 20:10:57
えみゅう提督 @emyuteitoku

「強いのかバカなのか…いや両方だな」『コールドレイン!コォオルドレイィィン!』マンモスに呆れるコールドレインの意識をイクサに引き戻したのは通信端末から割れるようなスクトゥムの声。(やっぱり来た…どうしよ、言い訳全然考えていなかった)『こらぁー!返事しろー!』20

2017-08-06 20:12:14
えみゅう提督 @emyuteitoku

リンクスの通信ではなくわざわざ予備端末を使って音量を上げるあたり相当なオカンムリである。「どうしたスクトゥム」『どうしたも、こうしたもあるか厄介押し付けやがって!滅茶苦茶強いぞコイツ!』「…知ってる」『この野郎!』コールドレインは諦めてスクトゥムの叱責を受ける。21

2017-08-06 20:14:08
えみゅう提督 @emyuteitoku

「だって、手加減して貰ったし…」『手加減なら俺らもして貰ってるよ!ガネーシャ=サンの奴、一歩も動きやしない。ベンケイの方がまだ足取り軽いってもんだ』動かない、コールドレインは自分の言葉を思い出した。(動かないでいてくれとは言ったが、そこまで律儀に受け取られるとは…)22

2017-08-06 20:16:05
えみゅう提督 @emyuteitoku

『ちい!余裕かましやがって――アイエ!?いや今のは全力出せって意味じゃなくてグワーッ!あー!砲塔が!』「…がんばれ」コールドレインは一方的に通信を終了。「何とかなっているようだな、たぶん」ガネーシャが恐るべき使い手であるのは百も承知。だが、同時に安心もあった。23

2017-08-06 20:17:29
えみゅう提督 @emyuteitoku

スクトゥムとチェルノボグの二人ならば、ガネーシャの魔技を前にしても通信する余裕があるのだ。ならば、コールドレインが向かうべき場所は一つ。「すぐにライオンハートの加勢に――」「フンヌー!」マンモスのシャウトが轟いた!コールドレインの頭上目がけ巨大な氷山が降ってくる!24

2017-08-06 20:18:38
えみゅう提督 @emyuteitoku

「イヤーッ!」コールドレインはマンモスが力任せに振り下ろした氷山を四連続バク転で回避、脅威から距離を離した。氷山はマンモスが冷気を噴出したときにできた副産物だ。叩きつけられた氷山が巻き上げた飛沫の瀑布から鎧を捨てたマンモスが歩み出る。「ムフー、やはりいつもどおりが一番だな」25

2017-08-06 20:20:40