- emyuteitoku
- 666
- 1
- 0
- 0
世界に開いた穴は、遠く離れていたコールドレインからは円柱として見えていた。何が起きたら空があんな形になるのか、円柱はフューリアスの砲弾が通り抜けた全てが消し飛ばされた空虚、破壊の塔。「なんだあれは…っ!」コールドレインの全身が恐怖でわなわなと震えだす。1
2017-08-07 21:09:02震えているのはフューリアスの部下であるはずのマンモスも同じだった。「グフフ…あれがボスのタンソウホウだ。怖くて動けんだろう、俺だって怖い。恐ろしくてたまらんのだ。だがな――」マンモスが突進!「俺の方が早く恐怖を忘れる!俺はバカだからな!フンヌー!」「なっ!グワーッ!」2
2017-08-07 21:10:53マンモスの全体重が乗ったビッグ・パンチが直撃!コールドレインは海面を転がり、たった一撃でボロ傘めいた姿となった。「ウ、ウカツ…」コールドレインのメンポの隙間から青黒い血がだらだらと流れ出す。彼女に油断はなかった。世界に穴が開く様を前に動きを止めぬ者はいない、それだけの事。3
2017-08-07 21:12:18マンモスが先に動いたのは飽くまでも、常識を超えるバカだからである。バカとハサミは使いよう!「死ね!氷河期小僧!ハイクは問わん、よくわからんからなぁ!これで止めだ!フンヌー!」マンモスは力なく海面に倒れるコールドレインにビッグ・ハエタタキを繰り出す。絶体絶命!4
2017-08-07 21:13:43「インスト…ラクション…」コールドレインが朦朧とした意識でつぶやいた。「真なる隙…ヒサツ・ワザ!」コールドレインが最後の力を振り絞り立ち上がる。「これまでジツに頼っていた日々は、恥であれども無駄ではない!イヤーッ!」コールドレインが繰り出したのは氷を纏った一本貫手!5
2017-08-07 21:15:43「グヌ!」マンモスの掌が指一本で支えられている、否、支えているのではない。マンモスの体が、一本貫手から送り込まれる冷気で凍り付いている!「さ、寒っ!グムー!ならば貴様の冷気を利用してもう一度鎧を――」「イイイヤアアアーーーー!!」喉を焼くような極大のシャウトが響く。6
2017-08-07 21:17:46次の瞬間、マンモスは驚嘆の声を上げる間もなく、グレイシャーブルーの氷塊に閉じ込められた!青く澄む氷はより純度が高く硬固である証。これこそが、コリ・オリのように衰弱を待たず、瞬時に心臓まで凍り付かせるコールドレインのヒサツ・ワザ。コリ・コフィンである!7
2017-08-07 21:19:54「無駄遣いかとずっと思っていたが…役に立つとはな」コールドレインは膝をつく。マンモスの拳の直撃に加え、立て続けにコリ・ジツの全てを吐き出したのだ。今の彼女には自身の体重を支える力さえも残っていなかった。氷の棺の中でマンモスがコールドレインへ悔し気な視線を送る。8
2017-08-07 21:21:16――そう、マンモスの眼球が動いている、まだ生きているのだ。「わかっていたさ…体温を変化させるセルフ・コリ・ジツがある以上、ただ冷やすだけでは通用しない。だが今はそれで十分だ、しばらくそこでじっとしていろ」コールドレインは一つ大きく咳き込んでから、リンクスに通信する。9
2017-08-07 21:22:40「ゴホッ…リンクス、こっちはうまくいった。ライオンハートとナバルの方はどうだ?」コールドレインはしばしの間応答を待った。いつまでたっても返答はない。それどころか、リンク・ジツの繋がりさえも、消え失せていた。「リン…クス?」コールドレインは咄嗟に予備の通信端末を手に取る。10
2017-08-07 21:24:12しかし、予備端末はマンモスのビッグ・パンチを受けた時に砕けてしまっていた。コールドレインの手から端末の破片が零れ落ちる。「おのれ!マンモス!」コールドレインはマンモスを睨みつけた。彼女の位置から見たマンモスの表情は、氷の屈折により歪み、嘲笑っているかのように見えた。11
2017-08-07 21:25:48「行かなければ…急がなくては――グヌウ!」立ち上がろうとしたコールドレインの膝が真逆に曲がる。マンモスから受けた損害は、余りに大きすぎた。「かくなる上は…イヤーッ!」コールドレインは自分の命を省みず、自身の体内にコリ・ジツをかけ全身の骨折した部位を凍り付かせ接着する。12
2017-08-07 21:27:25それはセルフ・コリ・ジツの一種コリ・ダメージコントロール。一寸ずれるだけで、重要な神経を引き裂き死に至る博打めいたワザ。…その賭けに、コールドレインは勝った。「以外にやれるものだな…マンモスを見ていたおかげかもしれん。バカにも習う所はあるな。一応感謝しておく、変態め」13
2017-08-07 21:28:58コールドレインは凍った足でふらふらと歩き出す。「今行く、だから…どうか」カラテは振るえず、ジツも使い切った体では、良くても足手まとい、悪ければ行き倒れとなる。それはコールドレイン自身が一番よくわかっている。それでも彼女は足を止めない。友達の元に、助けに行かなければ。14
2017-08-07 21:30:34突如現れた世界の穴はチェルノボグとスクトゥムにも苦境をもたらしていた。フューリアスが放った悍ましき破壊の塔の根元にライオンハートがいる、その事実がチェルノボグの判断を鈍らせた。「あそこに…レオがいるのか?」チェルノボグは迂闊にもガネーシャに背を向けてしまった。16
2017-08-07 21:32:45「何やってんだ!前を見ろ!」スクトゥムが叫んだ時には遅かった。無防備な背中を見逃すガネーシャではない。ガネーシャが手で海面を掬うと、海水がガネーシャのカラテに呼応し両刃短剣ハラディとなる。「ハイヤッ!」ガネーシャはチェルノボグの背中目がけハラディを投擲!17
2017-08-07 21:33:59元より目で追えぬ神速の投擲、背を向けていては避けることはできない。「あ…」チェルノボグの背にハラディの刃が深々と突き刺さり、彼女は前のめりに倒れ込んだ。「チェルノボグ!」深手か?心臓を貫いたのか?スクトゥムはピクリとも動かないチェルノボグに駆け寄った。18
2017-08-07 21:35:27「おいどうしたんだよ。ちょっとばかし穴が空いただけだろ、返事しろよ!」チェルノボグに必死に呼びかける無防備なスクトゥムを前に、ガネーシャは攻撃の手を止め、世界に開いた穴に目を細める。「師が力を振るったか。このイクサも、そろそろ幕引きのようだな…ハイヤッ!」19
2017-08-07 21:36:52ガネーシャはシャウトと共にパシンと手を打った。その一拍に応じるようにチェルノボグの背に刺さるハラディが海水へと戻る。「これ以上時間をかけるわけにはいかん。急ぎ、事を済ませよう」「…この野郎!ガネーシャ=サン!イヤーッ!」スクトゥムは振り向きざまにチョップを振るう。20
2017-08-07 21:37:34感情によりタガの外れたスクトゥムの一撃!しかし、怒りに任せたカラテでは、慈母神の名を冠するガネーシャには通じない。スクトゥムのチョップはガネーシャが左手に練り出した盾剣シンガータにより容易く弾かれる。「怒りでカラテを振るう者が、盾を名乗るか。愚か者!ハイヤッ!」21
2017-08-07 21:39:25ガネーシャが振るう右手に持つは柔長剣ウルミ!鞭の如くしなる刃が、ジャラジャラと雷めいた音と共に襲い掛かる。「細い!そんな文字通りの柔な剣じゃ、俺の装甲は抜けないぜ!」「甘いぞスクトゥム=サン!盾とは傷つきいずれ砕けると分かっていても、守り続ける物だと分からぬか!」22
2017-08-07 21:41:01「んな事は言われなくても――」スクトゥムは気付く。ガネーシャの手首の向きが、ウルミの持ち手の角度が変わっている。波打ちしなるウルミは、根元のほんのわずかな変化で大きく軌道を変える。切先は倒れ伏すチェルノボグへ向かっていた!「――やっぱ言われて助かった!イヤーッ!」23
2017-08-07 21:42:31スクトゥムは右手でウルミをキャッチ、盾の務めを果たす。「捕まえたぜガネーシャ=サン!」このまま引き寄せればスクトゥムの間合い。しかし…「ウルミの相手は早かったようだな。ウルミとは“雷鳴”の意!ハイヤッ!」ガネーシャは回転しながら飛び退き、全身で巻き取るようにウルミを引く。24
2017-08-07 21:44:56細い故に装甲は貫けない、細い故に威力はない、細い故に、どんな物でも引き裂くのだ。雷を弾くタツジンがいても、雷鳴を握り続けられる者はいない。スクトゥムの手の中を、雷鳴が高速ですり抜けていく。指を解いても遅い、スクトゥムの右手が無残にもズタズタに斬り裂かれた!25
2017-08-07 21:46:02