ビー・ギブアップ・オール・ホープ #5

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えみゅう提督 @emyuteitoku

「何だ、これは…一体どうしたっていうんだ」氷が溶けかけ、砕け散りそうな体を引きずり、ようやくライオンハートの元にたどり着いたコールドレインの目に飛び込んできたのは異様な光景。飛び交う艦載機、巨大な砲を構える軽巡、そして、怨嗟を吐きながら海面を這うライオンハートの姿。1

2017-08-10 21:37:06
えみゅう提督 @emyuteitoku

敵の名を叫びながら、動かない腕をだらりと垂らし、芋虫じみた姿で敵へと這い進むディープオーダーのリーダー。その傍らに、白い戦艦の姿はない。「ライオン…ハート」呆然と歩みを進めるコールドレインに、フューリアスの眼差しが向く。「ありゃ?マンモスやられたかー。仕方ない」2

2017-08-10 21:38:19
えみゅう提督 @emyuteitoku

フューリアスは単装砲の砲身を海面に突き立て、袖を広げながら舞台の上へと飛び乗った。「お別れをする時間は欲しいだろ?装備換装の間に済ませるといい」目の前で軽巡が空母へと変化する、フューリアスの常軌に当てはまらない挙動も、今のコールドレインにとっては、些細な事だった。3

2017-08-10 21:39:52
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ライオンハート…」彼は負けない、彼は倒れない、そう信じていた。疑う余地のない実力で指し示す道筋を信じ、コールドレインは彼に付き従ってきた。だが、彼は今、海に頬を擦り付け、獣じみた唸りを上げながら、海に這い蹲っている。今の彼の姿がコールドレインにとっての世界の穴だった。4

2017-08-10 21:42:21
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ライオンハート…!」コールドレインは崩れ落ちるよう倒れ、ライオンハートの肩に手を置いた。友の手が触れた途端、怨嗟の声は止む。「コールド、レイン?」「ライオンハート…私は何もできなかった。なんの役にも、立てなかった!」彼女の大きな単眼から涙が零れ落ちる。5

2017-08-10 21:44:14
えみゅう提督 @emyuteitoku

フューリアスは二人の無力を嘲笑うように舞台の上でくるくると舞いながら、両袖で艦載機の発着艦を繰り返し、次の攻撃の準備を進めていた。「悲鳴よりも遠くまで届く誘蛾灯はない。負傷兵はバチリと鳴って仲間を殺す。さあ、また光につられてやってきた。飛んで火に入るなんとやら」6

2017-08-10 21:45:39
えみゅう提督 @emyuteitoku

コールドレインの次に、異様な戦場にたどり着いたのはスクトゥムだった。「アイエ?!艦載機だと!てか、何だあいつ、フューリアス=サンなのか?!」スクトゥムは一瞬足を止めた。しかし、彼女はディープオーダー最古参の一隻、歴戦の艦。些細な疑問は放置して仲間の守りに入る。7

2017-08-10 21:48:00
えみゅう提督 @emyuteitoku

スクトゥムはコールドレインとライオンハートを抱えフューリアスから距離をとる。「おいこらコールドレイン!何があった、ボロボロじゃねーか。それにナバルはどうした?マンモスの相手をしてるのか?」ナバル、その名を聞いてライオンハートの体がスクトゥムの腕の中でビクついた。8

2017-08-10 21:49:38
えみゅう提督 @emyuteitoku

ライオンハートらしからぬ動揺、それだけでスクトゥムはナバルの身に何があったのかを察することができた。彼女の奥歯がギチリと鳴る。「撤退だ!いいよなライオンハート!」スクトゥムは両脇に二人の友達を抱え、エンジンの出力を全開まで上げる。彼女は飽くまで軽巡、速力には自信があった。9

2017-08-10 21:51:25
えみゅう提督 @emyuteitoku

「すまねえな…だけど今は逃げの一手だ!とにかく――」「逃げるのん?」「アイエエエ!?ナンデ!?フューリアス=サン?!」何たることか、逃げるスクトゥムにフューリアスが追従している!軽巡であるスクトゥムが、バルブが焼け付く直前まで、限界まで速力を上げているのに!何故隣にいる!10

2017-08-10 21:53:05
えみゅう提督 @emyuteitoku

「君軽巡、ボク軽巡、ね?不思議な事じゃないのサ!いっくぞー!ホームラーン!」フューリアスが単装砲の砲身を持ちスラッガーじみたフルスイングを繰り出す。二人の友達を抱えている状態では十分なアティチュードは取れない。スクトゥムは素の装甲でフューリアスの攻撃を受け止める。11

2017-08-10 21:54:41
えみゅう提督 @emyuteitoku

BAAANG!ホームラン・ケツ・バットが直撃!「いってええええ!!!ごっほぁ!何だこりゃ!マンモスのパンチの方がまだ軽かったぞ!」悶絶!だが、速度はそのままに走り続ける。逃げるために、友を守るために。しかし、全速力を出しても「振り切れないよねー?お荷物抱えてちゃサ!」12

2017-08-10 21:56:00
えみゅう提督 @emyuteitoku

「くっ…そ」荷物、気に入らない物言いだが事実だった。フューリアスはずば抜けて速いわけではない。コールドレインとライオンハートを抱えるスクトゥムと同速程度。だからこそ、二人に止めを刺さなかった、助けようとする者に追いつくために。「いくぞー!もいっぱぁーーー!!」13

2017-08-10 21:58:48
えみゅう提督 @emyuteitoku

フューリアスが単装砲を振り上げる。傷付いた二人は満足に走れない、その二人を抱えるスクトゥムでは振り切れない。スクトゥムは次の攻撃に備える。彼女が奥歯を噛み締める理由は耐えるためだけではない。悔しいのだ。今この時に、ディープオーダーで最速のあいつがいれば…14

2017-08-10 22:00:37
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ホォームラぁ――あらぁ?!!」フルスイングが空を切る。何者かがスクトゥムの体を担ぎあげ、フューリアスを振り切ったのだ。「なぁっ?!」スクトゥムも、コールドレインも、ライオンハートも、三隻が同時に目を丸くした。彼女らの下に、どんな重荷も物ともしない、輸送艦がいた!15

2017-08-10 22:02:23
えみゅう提督 @emyuteitoku

「アンダーテイカー!てめっ、沈んだんじゃ?!」「勝手に沈めないでよ!いや、実際一回沈んだけど…」この苦境を振り切れる唯一の友達が、アンダーテイカーが生きていた!「逃げているんだろ?説明は後でいいだろ?無茶なことはいわないでくれよ?!」アンダーテイカーは涙目で訴える。16

2017-08-10 22:03:49
えみゅう提督 @emyuteitoku

「生きて戻って来る以上の無茶はねえ!逃げろ!」「わかった!…わかったからごめんスクトゥム、自分で走れ!お前は重い!」アンダーテイカーはコールドレインとライオンハートを奪い取り、スクトゥムを放り出した。「OH!NOOOO!薄々わかっていたけどね!」走れスクトゥム!17

2017-08-10 22:05:32
えみゅう提督 @emyuteitoku

乱入者はこれで何人目か、沈んだはずの敵の復活にフューリアスは苦虫を噛み潰したように表情を歪める。「まいったね――ねえガネーシャ、終わった演目の出演者がまだ生きているんだけど?」応答はなかった。だが倒された可能性はない。マンモスはともかくガネーシャの敗北はありえない。18

2017-08-10 22:07:29
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ふーん、ガネーシャが通信する暇もないのか。いい部下雇っているねライオンハート君。ま、全部無意味にしてあげるけどね~」フューリアスは足を止め、単装砲を構える。距離がいくら離れても、フューリアスの主砲の射程は無限。「真っ直ぐ逃げるんじゃあダメダメダメ、変化がないとね」19

2017-08-10 22:09:28
えみゅう提督 @emyuteitoku

主砲の照準が逃げる四隻にロックされた。「フィナーレだ。ばいばーい、ディープオーダー」破壊の塔が撃ち出されんとしたその刹那、一体これで幾度目か、奇跡は、運命は、未だライオンハートに味方する。海面が盛り上がり、クジラめいた巨大な潜水艦が撤退する四隻を高く打ち上げた!20

2017-08-10 22:11:40
えみゅう提督 @emyuteitoku

「なにぃぃいい!!」驚き叫んだのは宙を舞うスクトゥム。海から飛び上がった巨大な潜水艦が、正しくクジラじみた大口を開けた。艤装の喉奥で舵を取るのは、ボトムレスだ!「私も、友達を!守るんだあああ!」ボトムレスは四人の友達を飲み込むように収容し、極大の飛沫を上げて海へダイブ!21

2017-08-10 22:13:09
えみゅう提督 @emyuteitoku

「何だよ、悪あがきを!ボクを舐めるな!潜ったところでどうするってのサ!――僕の射程は、潜水艦も捉えているんだ!」フューリアスの姿が空母へと変化し、爆雷を備えた複葉機が飛び立つ。「何の力もない役立たずが、演目の邪魔をするな!」複葉機が爆雷を投下しようとしたその時――!22

2017-08-10 22:15:43
えみゅう提督 @emyuteitoku

『ヘイ!ボス!すんません!遅れをとりました!』何と!マンモスからの通信!邪魔!「マンモス!この大事に何の用だ!」『ちょっと氷漬けにされちまいまして。いやー、思わず故郷のシベリアを――って、アイエ!も、もしかしてボスじゃなくて団長?!これは大変なシツレイを…!』23

2017-08-10 22:17:56
えみゅう提督 @emyuteitoku

フューリアスが空母の姿である事に口調で気づきマンモスは萎縮する。フューリアスが艦載機の操作に意識を戻した時には、ボトムレスは爆雷を回避できる深度まで潜航していた。「逃したか…」『アイエエエ!許してください団長!尻でもタンソウホウでも何でも差し出しますから命だけはオタスケー!』24

2017-08-10 22:20:47
えみゅう提督 @emyuteitoku

フューリアスは舞台から降り、軽巡の姿に戻る。「――え?そりゃ許すサ。それより氷漬けとかちょー面白そう!今見に行くからそのまんま動かないでよね!」『ハヘ?――ア、アラホラサッサー!承知しましたぜボス!…ふいー』命拾いしたマンモスは特大のため息を残して通信を終了した。25

2017-08-10 22:22:29