#ダークエルフ王国見聞録　その１７　～エルフ連合と新たなオーク禍～

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

戦場に到達すると、既に川を越えていたゴブリンの小部隊を蹴散らし、エルフの軍勢が左翼に、ダークエルフの軍勢は右翼に展開した。西から東へ、我々にとって左から右へと流れる川の水量は夏季のためか少なく、六間程の幅であり、手前側には草地が川向うには森が広がる #ダークエルフ王国見聞録

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目前の戦を前に、ライトエルフ達は戦場となる土地の森と川の精霊に対して祈りの儀式を始める。その聖句が響き渡る中、ダークエルフの軍勢では従軍司祭の一団が、護衛の神殿騎士や僧兵を引き連れ、陣の中央に台座を置いてその上から諸兵に向かって説教を始める #ダークエルフ王国見聞録

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「我ら、母の中の母、混沌と豊饒を司る黒の女神の血族にしてその将官なり！諸種族を束ね、黒の女神の軍勢を率いる者なり！それに従わず、黒の女神を裏切ったものは誰ぞ！」 オークだ！ゴブリンだ！トロルだ！と司祭の檄にダークエルフの諸兵が声を上げる #ダークエルフ王国見聞録

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「その通り！黒女神の御名の下に、彼らを如何にするのが我らの使命ぞ！」 「殺せ！」「殺せ！」「皆殺しにせよ！」「裏切り者に死を！」 ダークエルフの司祭と兵達の掛け合いにより、異様な熱気が場を支配していく #ダークエルフ王国見聞録

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司祭達が掲げる長い柄の先にある金の翼を持つ黒歌鳥が兵達に向けて下ろされ、兵達はその黒歌鳥の彫像に接吻する。興奮作用のある薬酒がかわらけに注がれて戦士達に回され、それを飲み終えると、杯を地に投げて割る。黒の女神を讃える聖句が全員で唱和される #ダークエルフ王国見聞録

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また、顔料でその肌に戦化粧をしたオーガ達は戦女神に死後戦士の館へと招いてくれる様に希うための儀式を行い、リザードマンの兵達は太鼓を叩き、笛を吹いて互いの尾をぶつけ合う儀式を行っていた。川向うからも戦太鼓を叩く音や具足を叩いて鳴らす音が響く #ダークエルフ王国見聞録

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双方の戦前の儀式が終わるや、森の中からオーク達が木の首枷をしたエルフの女性数名を引きずってきて、おぞましいことであるが、我々の目前で凌辱を始めた。おそらくは斥候に出たエルフの兵と思われるが、不思議なことに彼らの装束は男性のものにように私には見えた #ダークエルフ王国見聞録

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すると、ダークエルフの戦士達が長弓を持ち出して、これを的に毒矢を射出した。 「よし、目を射抜いたぞ」「次は私だ、豚鬼の男根に当てて見せようぞ」 狙い通りにオークに矢が命中すると、改心の笑みで手を上げる射手に彼女らは具足を叩いて称賛を示す #ダークエルフ王国見聞録

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ライトエルフの側から味方に当たったらどうするのかと詰問する使者が来たが、士気を高めるためとダークエルフの側は一蹴した。次々と射手が変わるのを見ながら、私はこの行為は、オーク達の挑発行為であり、そうであるならば知略を以てこの戦場に望んでいると感じた #ダークエルフ王国見聞録

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次いで、ダークエルフの兵数騎が華やかな錦の母衣と色とりどりの旗をたなびかせて河原を何度も横断し、時に川の中に入って射られるのであれば射てみよと挑発をする。小鬼の印地打ちやオークの槍投げ戦士がこれに呼応して遠戦を挑むが、騎兵たちはこれを華麗に躱す #ダークエルフ王国見聞録

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痺れを切らしたオークやゴブリン、トロルの一群が森の中から駆け出して両エルフの陣に向けて横列で寄せてきた。咆哮を上げ、トロルの持つ鋼の大盾を先頭に統一感の無い鎧兜で身を固め、略奪品と思しき戦斧や大剣を持ったオークの戦士達が駆ける。戦が始まった #ダークエルフ王国見聞録

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私は宝石公が座する本陣に居たのだが、エルフの軍勢からは矢と竜巻のような風の魔法が、ダークエルフの軍勢からは毒矢と炎の魔法が雨霰と敵に向かって降り注ぐのが見えた。オーク達の具足が矢を弾く音、直撃を受けて上げる断末魔の響きが戦場に響き渡る #ダークエルフ王国見聞録

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見たところ、横隊に数歩先んじて進む盾持ちのトロルが少数、その後方の横隊には年若いオークが多く、ゴブリンは少ない様に見えた。その数で魔軍の先陣を担い、数と連携を頼みに押し寄せるのが役割とされる小鬼達の姿が少ないことは不思議な様に思えた #ダークエルフ王国見聞録

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両エルフ側からの矢と魔術の猛射に攻勢がついえると、それらの遺骸を肉の盾として新手のオークの戦士達が迫ってくる。彼らは大きな木盾や竿に幅広い動物の皮を結んだ物を押し出して矢を防ぎ、魔術に切り裂かれ焼かれながらこちらの陣の手前まで迫ってくる #ダークエルフ王国見聞録

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すると、ダークエルフ陣から戦士達が進み出てこれと切り結ぶ。よく見ると、炎が竜巻に渦巻く炎と風の魔術を混成させた魔術を放ってオーク達の軍勢のいくらかを爆ぜさせたザラムドラも敵勢に向かって突進していた #ダークエルフ王国見聞録

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魔導兵が如何なる無茶をするのかと見ていると、魔術杖の先端が伸び、鞭のようになって周囲を切り裂く。紫の燐光を帯びた鎖が幾重にも円弧を描き、その周囲のオークの首を狩っていく。残虐な笑みで落とした首を足先で弄び、宙に放って指先で受けてくるくると回す #ダークエルフ王国見聞録

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彼女らの活躍もあって二度にわたって寄せた敵勢はあっけない程簡単に撃退された 「ふむ、向こうから寄せたということは川中に仕掛けはあるまい。しかし、先程の挑発といい、小出しの寄せ手といい。どうやらこちらを誘っておるようだ。」 #ダークエルフ王国見聞録

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「ふむ、それではやる気を出させてやろうではないか。軍目付殿、そちらの準備は滞りないか？」 宝石公はそのように軍目付に尋ね、彼女が頷いたのを見ると、お付きの魔術師に何やら道具を持ってこさせる #ダークエルフ王国見聞録

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それは石英を六角柱に組んだ容器の中に黄色に輝く針状の構造が入った水晶が浮くもので、台座の引き金を引くと撃鉄が水晶を叩く様な構造になっていた。これに先立ち、軍属の獣使い達が灰色鷹を多数放ち、川向うの森の上を舞わせて敵の位置を探らせる #ダークエルフ王国見聞録

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次いで狼煙が上げられると、南東の方角から二十騎程の竜騎兵が舞い来る。飛竜たちはそれぞれが敵の位置を知らせる灰色鷹の位置まで至ると、その身に下げられた二三の樽を落とす。それには布が結わえられ、風の抵抗を受けながらゆっくりと地面へと向けて落ちていく #ダークエルフ王国見聞録

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飛び去る竜騎兵に続いて灰色鷹たちがその場を静かに離れていくのを見届けると、宝石公は優美な所作で引き金を引き、変わり水晶を叩く。すると、水晶は初めキーンと鋭い音を立てて静かに震えるが、その振動は増幅していき、弾け飛んで中の硫黄がボゥと魔術の炎を上げる #ダークエルフ王国見聞録

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この珍しい風景を眺めていると、物凄い轟音が響いて川向うを眺めると、高い空まで至る炎の柱があちこちから立ち上り、そこから燃え盛る火球が傘の様に広がって地面へと降り注いでいた。硫黄や燐、苦土、油が燃える匂いがこちらまで押し寄せてくる #ダークエルフ王国見聞録

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「ふふふ、思ったよりも威力があるではないか。魔術師どもに工夫をさせた甲斐があるというものよ。これがあれば我らが再び世界を統べる日も遠くはあるまい」 杓で口元を押さえながら、残忍な笑みを浮かべ、喜悦を帯びた声で紅蓮に燃え盛る大火を眺める #ダークエルフ王国見聞録

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粘つく油の塊を必死に振り払おうとしながらオークやトロルの兵が、何人も叶わず火だるまになりながら森から飛び出し、川に飛び込むも魔術の炎は消えることは無かった。生木の爆ぜる音と共に、戦場に立てなかったことへの怨嗟の様に聞こえる咆哮が川向うから響き渡る #ダークエルフ王国見聞録

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宝石公が一掴みの砂を容器の中に入れて硫黄の結晶からの火を消すと、あれほど盛んに燃え、水でも消えなかった川向うの炎がたちどころに消えていく 「玉石の共鳴を利用し、宿った魔術の共感作用によって盛り、失せる炎に依るものだ。珍しかろう、学士殿」 #ダークエルフ王国見聞録