愛を一輪

刀×花屋というお題で呟いた燭へし。
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天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

「特に赤のチューリップ。そのものズバリ『愛の告白』が花言葉だよ。カスミソウの花言葉だって、『無垢な愛』に『清い心』、あとなんだったかな…まあいい。彼にはおそらく想い人がいるんだ」 がぁんと頭を殴られた心地だった。

2017-08-20 22:53:46
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

それから歌仙とどうにか閉店の支度を終え、ふらふらと自室に戻って布団を敷くと、その上にどさりと横になった。燭台切に、想い人。あいつが願っているのは、恋愛成就だったのだろうか。 ぐるぐると色んな想いが渦のように脳内を回る。なんで。どうして。それなら俺は、どうしたら。

2017-08-20 23:19:30
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

次の週、俺は宗三に頼み込んで店当番を代わってもらった。どうしても燭台切と平静な状態で顔を合わせられる自信がなかったからだ。 夕方、出陣を終えて主への報告をしに執務室へ行く途中、廊下に宗三が立っていた。「長谷部」「…何だ宗三。お前、店番は」「薬研に任せて来ましたよ。それより、」

2017-08-20 23:27:40
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

「例の燭台切から、花束の注文が来ましたよ。真っ赤な薔薇の花束を来週の同じ日に作って欲しいそうです。作り手は貴方指定で」いくら俺でも、赤い薔薇の花束の意味を知らない程野暮ではない。燭台切はきっと来週の今日、とうとう想い人にプロポーズをするのだ。きっと、今まで花を渡してきた相手に。

2017-08-20 23:33:44
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

「…わかった。わざわざ悪かったな。礼を言う」「貴方、それでいいんですか」「いいも何も、注文なら受けるまでだ」「…長谷部、」「俺は所詮、あいつにとってただの花屋の店員に過ぎないんだ。最後まで店員に徹してみせるさ」そう言って何もかも振り払うように執務室へと足を進めた。

2017-08-20 23:40:39
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

それから一週間、俺は目の前の事だけに集中した。普段は主に任せている畑の花の選定作業も自ら行い、花束に相応しい咲き頃の花を選んだ。 約束の日の朝、俺は丁寧に棘を落とし水切りした満開の薔薇達を花束に仕立てていく。心は切り裂かれたように痛むのに、手は慣れた手順に沿って淡々と動いた。

2017-08-20 23:47:12
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

顔が見られるだけで、あいつの幸せを祈っているだけで満足だなんて嘘だ。あいつに触れたい。好きだと言って欲しい。抱きしめて、キスをして、それから。 でも、今更気づいたってもう遅い。 俺は血の色をした大輪の薔薇の花束を用意し終え、燭台切を待った。指定の時間は開店直後だった。

2017-08-20 23:52:09
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

カチリと秒針が12を刻むと同時に、燭台切の姿が店先に現れた。いつもの戦装束ではなく、黒に近いグレーのスーツに、胸ポケットに金の刺繍の入った白いポケットチーフを入れている。ああ、こいつは本気なんだ。本気でこれから好きな奴にプロポーズに行くんだ。ズキズキと胸が痛む。

2017-08-20 23:57:09
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

でもこれが、俺の仕事だ。 深呼吸をひとつして、「注文の品はこれだ。振込は確認してある」花束を見せると、燭台切は嬉しそうに顔を綻ばせた。「オーケー。ありがとう。見事な出来栄えだね、想像以上だよ。流石長谷部くんだ」「…俺は俺の仕事をしたまでだ」「そうだね、うん、君はそういう刀だ」

2017-08-21 00:00:31
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

燭台切に花束を手渡す。指先がちらりと掠めて、それだけで泣きそうに嬉しかった。これから、この男は他の奴にプロポーズして、きっと俺の知らないところで幸せになっていくのだろう。「…その花、収穫から俺が選んだんだ」「そうなんだ?嬉しいなぁ」「…お前に、幸せになって欲しくて」

2017-08-21 00:05:53
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

「…じゃあ、僕も頑張らないとね」「ああ、頑張ってくれ」どうか。せめてどうか幸せになってくれ。こんなどろどろの想いを抱える醜い俺の事なんて忘れてくれ。そうして静かに俯いた俺の視界が、突如真っ赤に染まる。「……え?」 気づけば燭台切が俺に花束を差し出して、にこりと笑ってこう言った。

2017-08-21 00:10:03
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

「長谷部くん。君の事が大好きです。僕と付き合って下さい」

2017-08-21 00:10:39
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

「……は?」俺が思わずぽかりと口を開けると、燭台切は驚いたように目を丸くした。 「…ええと、長谷部くん?どうしたの?」「…お前、好きな奴がいるんじゃ、ないのか?」「君だけど?」「はぁ?」「えっ、だって僕ずっと君の事口説いてたじゃないか。最初に言ったよね。毎週君に会いに来るよって」

2017-08-21 00:16:46
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

「そうしたら君、勝手にしろって言うから、僕なりに花言葉でずっとメッセージを送ってたつもりなんだけど…えっ?まさか伝わってなかったの?一度も?」 伝わっていた。途中から伝わってはいたのだ。相手がわからなかっただけで。それに、最初の会話なんて緊張しすぎてろくに覚えてなくて、それで。

2017-08-21 00:20:12
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

「この間ようやく君から花を貰って、すごく嬉しくて。早速今までの花と同じように押し花にして保管してあるんだよ」「…いや、待って、待ってくれ、頭が追いつかない。えっ、お前は俺のことが好きなのか?」「そうだよ。半年前に演練で見かけてからずっと君に恋してた。ねえ、君は僕の事、好き?」

2017-08-21 00:23:47
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

嬉しさと困惑と驚きが渦巻いて纏まらない思考の中、俺はとりあえず花束から震える手で薔薇を一輪抜き取ると、無言で燭台切の胸ポケットに差したのだった。 おしまい

2017-08-21 00:26:07
天城🔞蜜藤ナ27b @amagi_skhs

(注釈:ヨーロッパの古い慣習で、プロポーズでブーケを渡された時、OKの返事の代わりに一輪取って相手に飾ってあげるというものがあります。ブートニアの事です)

2017-08-21 00:28:41