- RiverInWestern
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慌てて視線を戻すと、目があった。思わずたじろいでしまうくらいに鋭い視線。「あ、す、すいません」反射的に謝りつつも四季は数歩下がり、改めて相手を見やる。自分と同じ年頃の少女のようだ。眉根を寄せ、黙ってこちらを見下ろしている。空気が重い。7 #4215tk
2017-08-29 21:55:44「えっと、こちらにお住いの方ですか?」間の抜けた質問が口から飛び出る。見て分かるだろうにそれくらい。四季は心中で自分を罵った。「ええ。今日からだけど」少女は短く答え、不思議そうにこちらを見た。「あれ、見えてたんだ」「え? ……あ」彼女の言葉に、四季は思わず呻く。8 #4215tk
2017-08-29 22:00:09少女の言う『あれ』とは、間違いなく先ほどの黒い靄……すなわち『怪異』に他ならない。いわゆる霊感を持っている人間だけが認識できる、あの存在。四季にとっては子供の頃から馴染み深い存在だ。良くも悪くも、いつもそばにいるものだった。9 #4215tk
2017-08-29 22:05:05「ええと、その」「まあ、別にいいけど。見られて困るようなものじゃなし」少女は淡々と言葉を紡ぐ。そして困ったような顔をした。「霊感あるんだね。じゃあ大変だと思うよ、ここに住むの」「やっぱり……いえ、大丈夫です。慣れてますから」「慣れてる」少女が繰り返す。10 #4215tk
2017-08-29 22:10:19この少女の方は、怪異を掃除する事が出来るくらいの力があるんだな。四季君はいるだけで怪異が寄ってくるタイプだから、四季君よりもこの少女の方が大変な事になりそう #4215tk
2017-08-29 22:13:00会話が途切れ、またあの空気が戻ってくる。「え、えっと!俺、日条 四季っていいます!」「……へえ?」少女が驚いたように眉を上げた。「日条さん。日条、四季、さん。……ふうん」そして首をかしげる。「なにか?」「いや、昔同じ名前の友だちがいたから。つい」11 #4215tk
2017-08-29 22:15:51四季は呆然と眼前の少女を眺める。同じ名前。単なる偶然? いや、もしかして。「……怜(れん)?」「え?」不意をつかれたように、少女の顔に戸惑いが浮かぶ。その反応で、四季にはわかった。「やっぱり怜だ! びっくりしたぁ、こんなとこで会えるなんて!」「え、え?」12 #4215tk
2017-08-29 22:20:06少女の……怜の顔に困惑が浮かぶ。「なんで私の名前を」「昔遊んでくれた相手だもの、そりゃ覚えてるよ」「昔? 遊んだ? ……えっ?」上から下、下から上。彼女は何度も視線を往復させる。その反応をいぶかしんでいた四季は、ふと今の自分を思い出した。13 #4215tk
2017-08-29 22:25:13昔の自分と今の自分は違う。そう、何もかも違う。髪の色も、目の色も。そして。「……う、嘘でしょ?」少女が愕然と声を絞り出す。「だって、あなた……女の子じゃない」「うん、そのう……いろいろあって」14 #4215tk
2017-08-29 22:30:13あんぐりと口を開けた少女が、なにか理解できないようなものを見る目でこちらを凝視している。しばらくの間、鳥のさえずりだけがあたりに響いた。さて、どう説明したものか。少女が叫び出すまでの十数分間、四季は額に手を当てて考え続けるのだった。15 #4215tk
2017-08-29 22:35:26