【ミリマスSS】僕の部屋に真壁瑞希がいる #1

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

【YEAR:10】

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「なんだか、実感が湧きません」瑞希はそう言ってうつむいた。壁一枚隔てた向こうの、五万人の観客のざわめきが、ここまで伝わってくる。「本当に、ドームライブなんですね、トウゲP……正直、逃げたいぞ」「おいおい、そりゃないだろ、ここまで頑張ってきたんだ」僕――トウゲPはそう返す。　01

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「もちろん、冗談です。ですが、半分、本心です」瑞希は……少し手が震えているようだった。本当によくできた挙動だと思う。「トウゲP。私のどこがそんなにいいんでしょうか。五万人のみなさんに認められたのは、私のどの部分なんでしょうか」目の前に半透明の手が浮かび上がる。　02

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僕は迷わずその手を瑞希の胸に伸ばす。「ひゃっ」瑞希は少しすくんだ。「心だ」トウゲPがもっともらしいことを言う。「みんな、瑞希のことが好きなんだ。ありのままの瑞希のことを。心を隠さずパフォーマンスすれば、絶対に大丈夫」瑞希は胸をさする。「心……」「そうだ」　03

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「わかりました、トウゲP」瑞希は目を上げる。それは決意の目だった。絶対にライブを成功させてみせる――そういう目。「絶対成功させてみせます。……真壁ショータイム、開幕だぞ」瑞希はステージへ駆け出していった。「ライブは大成功だった。瑞希は最高のパフォーマンスができたみたいだ」　04

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『パーフェクトコミュニケーション』という金色の文字が、目の前にでかでかと現れる。「ふぅ」息を吐き、VRヘッドセットを取り外す。代り映えのしない薄汚れた部屋。「まさかπタッチがパフェだとは思わないもんなぁ」達成感に全身を浸し、ベッドの上へ倒れ込む。「これで全コミュ制覇、か」　05

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天井の真壁瑞希ポスターが目に入る。相変わらず、かわいい。「どうしよう……実質全クリみたいなもんだよね」天井に手を伸ばす。届かない。「僕はこれから、何を目指して生きていけばいいの、瑞希？　新作を待つしかないの？」ポスターの瑞希は何も答えてくれない。当然だけれど。　06

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「お呼びでしょうか」瑞希の幻聴が聞こえた。最近、よくある。「呼んだよ、瑞希」「お菓子ですか。それは胸の発育にいいですか」たいてい会話は成立しないけれど、僕は、新しいコミュを見るような感覚で、この幻聴と付き合っている。「知らないけど、いいんじゃないかな」「お呼びでしょうか」　07

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「うん、呼んだよ、瑞希」「楽しかったです。……また、来たいぞ」「そうかそうか、また来ようね」カップラーメンはまだあったかな、なんて考えつつ、僕はベッドから立ち上がる。視界の端に、何かが見えた。青白く、ぼうっと光る何か……「お呼びでしょうか」人型の何かの口元が、静かに動いた。　08

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「う、わわっ！？」僕は思わず尻もちをつく。その『何か』は――明らかに瑞希の形をしていた。160㎝43㎏、スリーサイズは73-54-77……そのデータ通りの大きさの、瑞希。「わ、わ、わわわあああっ！！！」「お呼びでしょうか」『瑞希』の視線が、僕を捉える。「――プロデューサー」　09

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【僕の部屋に真壁瑞希がいる】 #1

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なにがなんだか分からなくて、僕は思わず家を飛び出し、ユウの家へ走った。玄関をドンドン叩くと、二階の窓から不機嫌そうなユウの顔が出てくる。「なんだ、トウゲか」「ユウ！　ちょっと、こっち来て！」「あぁハイハイ」ユウは寝間着姿のまま玄関を開ける。「で、今日はどうしたよ」　10

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「ちょちょちょっと、聞いて驚かないでほしいんだけど」僕はうるさい自分の心臓の音に負けないよう、言葉を続ける。「僕の部屋に真壁瑞希がいる」「は？」「信じて、本当なんだ」「あのなぁ、お前」ユウは指をつきつけてくる。「そういう報告のときは『聞いて驚け』っつーんだ」　11

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◇◆◇◆　12

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ユウを連れて僕の部屋に戻ると、青白い謎の――瑞希らしき何かは、まだ部屋の隅に立ったままだった。「驚いたな」ユウは眉一つ動かさず言う。「なんでこんな片田舎にアイドルがいる？」「分かんないよ」「トウゲが呼んだのか？」「分かんないってば」「じゃあなんでいるんだ」　13

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「ユウはどう思う？」「正直なとこ、またお前の幻覚かと」ユウは頭を掻いた。「でもリアルだな」「うん。リアルなんだよ」青白く光る瑞希は、虚空を見つめてまばたきをしていた。ユウは目を細める。「胸も……薄い」「うん」「リアルだ」「うん、現実的（リアル）」　14

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「お呼びでしょうか」瑞希の視線が僕らを捉える。「今、喋ったか？」「喋ったね」「これがお前の言ってた幻聴か」「幻聴じゃないけどね」ユウは深いため息をつき、僕の手を引いて部屋の外に出る。「まとめよう」ユウは冷静に状況把握する。「可能性は二つ。俺か、世界。どっちかが狂ったんだ」　15

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「世界？」「だってそうだろ。こんな片田舎に塔京のアイドルが来るはずない。しかもお前の部屋にはな」「そっ、それはわかんないでしょ！」「いいやありえない」ユウはビシッと瑞希を指さした。「あの『真壁瑞希』は本物じゃない。似た別人だ。そうでなきゃいろいろとマズいだろ」　16

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「そうかな」「そうだろ」「僕は本物なら嬉しいけど」「……とにかく、あいつに直接話を訊いてみよう」そう言ってユウはずんずんと部屋に戻り、瑞希の前に仁王立ちした。どっちの応援をしたらいいものか、迷う。「がんばれ二人とも」「なんの応援だよ」「LIVEバトル？」「アホか……」　17

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「コホン」咳払い。「っと……はじめまして」ユウはぎこちなくそう言った。「俺はユウ。あんたは真壁瑞希か？」「はい」「ああ……ええと……」ユウは首を小さくかしげると、僕の方を振り返った。「やばい。どう話したらいいかわからん」「え？」「よく考えたら俺女子苦手だ」「そうなの！？」　18

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「真壁瑞希と話すならお前の方が得意だろ」ユウはそう言って僕を瑞希の前に突き出した。「わっわっ、こ、心の準備が！」「なにを今更……お前毎日真壁瑞希のおっぱい触りまくってるだろ！」「ちょちょちょ、やめてよなんで今言うの！　毎日じゃないし！」「胸、ですか」瑞希が静かに言った。　19

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ごくり。僕は唾を呑んだ。「そ、そうそう、胸！　じゃなくて、ええっと！」緊張のあまり口が滑る。「瑞希のバストサイズって、いくつ？」何を訊いてるんだ僕は！「バストサイズ、ですか」会話が、成立してる。「知ってるのに言わせるんですか。……プロデューサーの、意地悪」　20

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その言葉を訊いた瞬間、脳裏に稲妻が走った。「ユウ！」思わず叫び気味に振り返る。ユウは目を丸くしていた。「彼女、本物だよ」「……何が？」「彼女、本物の真壁瑞希だ」「……あ？」「僕はこの真壁瑞希を知ってる」確信があった。「この子は、ゲームの中の、真壁瑞希だ」　21

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「は？」ユウは目をしばたたかせる。「じゃあなにか？　その真壁瑞希は、ゲームの中から出てきたとでも？」「うん」「トウゲ、お前……」「だってさ、さっきから瑞希が言うセリフ、全部ゲーム内にあったセリフなんだよ」「……は？」「覚えてるから、わかるんだ」　22

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「……何を……」ユウは開いた口が塞がらないとばかりに呆れかえっている。「……反論が無意味だってのはわかる。お前はきっとゲーム内のセリフを完璧に覚えてるんだろう。でもな」ユウはまた瑞希を指さす。「なんでゲーム内の真壁瑞希がここにいるんだよ」「分かんないってば」　23