【ミリマスSS】Aroma Romance #4(完結)【篠宮可憐】

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

「どうしてあなたにそんなことがわかるんですか？」「オレは篠宮可憐だからだ」屍香さんは木樽に再び座り込む。「姉ちゃんのことならなんでもわかるのサ」馬鹿げた嘘だ。屍香さんと私とでは、年齢も性別も、性格も、何もかも違う。そもそも屍香さんはあの日、私が……　22

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

「ぜんぶ幻覚、か」私はつぶやく。目の前にいる屍香さんは幻覚なんだ。私の心が生み出した幻覚。そうに違いない。屍香さんも、木樽も、存在しない。ここにいるのは私ひとり。ひとり芝居だ。「わかりました」屍香さんの瞳を見つめ、そう言う。「飲みます」飲んだってどうせ何も変わらない。　23

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

「姉ちゃんいけるクチだな」屍香さんは茶化すように言った。「嬉しいのお～」私は一息に瓶を傾け、飲み干した。「まだ残ってるぞ」屍香さんはにやにやと笑っている。もう一度瓶を傾けると、世界が少しずつ傾いていった。「え……？」ぞわぞわぞわっ、と、肌が粟立つ。　24

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

髪が逆立つ。地面が柔らかい。世界がふらふらと揺れている。背中に服が貼りつく。「な、な……」「どうだ？　『ふわふわ』してるか？」「私に何をしたんですか」「姉ちゃんの望んでた生き方だろ。ずっとふわふわし続ける。それが望みだろうが」踵が地面から離れる。「う、わわっ！」　25

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

バランスを崩し、尻もちをつく。お尻が地面をバウンドする。びっくりするほど痛くない。「重力がなくなってくだろ。そういう薬だ。上も下もないってのはこういうことだ。姉ちゃんはもうどこにも行けない。漂うだけの存在になる」「も、元に戻してください」「これがお望みだったんじゃないのか」　26

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

「上も下もないってのはこういうことだ。姉ちゃんはもうどこにも行けない。漂うだけの存在になる」「も、元に戻してください」「お望み通りだろ？」「私はグッシュさんのいる場所に行きたいんです、どこにも行けないなんてダメなんです」「そっか」屍香さんは枝を食む。「じゃあこれを飲め」　27

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

屍香さんから深緑色の瓶を受け取り、飲む。「うっ！？」まばたきすると、全てが消えた。765タワーも、街も、空も、私の体も、光も、影も、何もかもが消えた。「グッシュのいる場所はここだ」屍香さんの声が脳に響いた。「姉ちゃんはここに行きたいのか？」「グッシュさんがどこにもいません」　28

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

「そういう場所だ、ここは。場所とも呼べないな。そういう世界なんだ。すべてが一つになって、一つはゼロになってる。グッシュはここにいるし、いないとも言える」「意味が、わからないです」「『死』だ、ここは」屍香さんは言い切った。「すべてが交じり合い、消えゆく場所。『死』だ」　29

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

暑さも寒さもない。喜びも恐怖もない。匂いもない。「ここが『死』……」「怖い場所じゃない。何にもないんだから。本当にここに行きたいのなら、最後の鎖を断ち切る。オレとの鎖を切って、姉ちゃんをここに置いていく。それで終わりだ」「……終わり、って、何が終わるんですか」「すべてだ」　30

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

屍香さんは淡々と続ける。「すべてが終わる。始まりはない。死ってのはそういうことだ。でも……輪廻転生を信じるなら、信じてみてもいいかもしれない。もしかしたらそういうことも起こりうるかもしれない」「ひどく曖昧な言い方ですね……」「オレは死んだことないからなぁ～」　31

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

じゃらじゃら、と、鎖を引きずるような音が脳に響く。「それで、どうする。死ぬか？」「死にたくないです」「ほう即決だな！　てっきり悩むかと思ってたけど」おほほほ、と笑い声が響く。いつの間にか、元の場所に戻っていた。765タワー特設ステージ。目の前には木樽に座り込む屍香さん。　32

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

体がずっしりと重い。「魂の重さだ、それは」屍香さんが笑っている。「それで？　次はどうする」「グッシュさんのいる場所を探します」屍香さんは枝を指に乗せくるくると回す。「いや、だから、グッシュはさっきの場所にいるんだって」「いえ、いません」はっきりとした声で、私は言う。　33

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

「グッシュさんはあそこにはいなかった。グッシュさんのいる場所を突き止めるまで、私はここにいます」「そうなっちゃうかぁ」屍香さんは頭を掻いた。「ま、それも本音っちゃ本音なのかな……」

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

――――屍香は、ステージ上に座り込む可憐を見つめ、呆れたようなため息をついた。「じゃ、オレはここらで退散しましょ」木樽を担ぎ上げ、鼻歌交じりに特設会場入り口ドアへ歩く。振り返ると、可憐は身じろぎもせずステージに座ったままだった。（次はもうちょっと手荒に行くしかないか……）　35

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

「うん、それでね……」屍香がタワー内部へ向かう通路を歩いていると、前方から声が聞こえてきた。「そう。カレンちゃんね、歌ってくれたんだ！　もうすぐ来ると思うから、また話してみるね」春香だ。携帯電話を耳に当て、通話している。（……この姉ちゃんに任せてみてもいいかもしれねぇな）　36

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

屍香は春香を通り抜ける。春香はぶるっと身じろぎした。「ちょっと寒いかも。カレンちゃん大丈夫かな。迎えに行った方がいいかな」「行ってやれ」「うん、行ってみる。当たって砕けろ、だもんね。ふふっ。ありがとう、亜利沙ちゃん」春香は足早に特設会場へ向かう。　37

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

屍香は木樽から瓶を取り出し、呷った。「大樹にしがみつく哀れなサナギを羽化させ飛ばすのは誰か……ふふ……競争だなァ」『枝』がざわざわと揺れている。「生きてりゃ成長できるんだぜ、可憐。東を向いて光を浴びろ。……太陽は東から昇るんだ」瓶から立つ煙が、細く、空へ昇っていった。　38

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

【Aroma Romance】 終

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

【Calling You】へ続く

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

感想・応援はハッシュタグ #shomupopo へ！罵倒はちょっと……心が死ぬので嫌です

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

【ミリマスSS】Aroma Romance #1【篠宮可憐】 - Togetterまとめ togetter.com/li/1061951 @togetter_jpさんから はじまりの1。