「こち亀コラ」から考える「著作物のパロディ」の法的扱い(特に同一性保持権)について

水戸芸術館が「こち亀コラ」を投稿し指摘を受け削除した件について、コラと著作権法の関係(特にコラで問題になりがちな同一性保持権)について調べたら案外面白かったので連続ツイートしました。 ※20170917:タイトルに「(特に同一性保持権)」を追加しました
69
波島想太 @ele_cat_namy

「こち亀」を無断改変、ツイッターに投稿 水戸芸術館:朝日新聞デジタル asahi.com/articles/ASK9G… 「著作権侵害の可能性を外部から指摘され」 親告罪であり権利者が申し立てなければ侵害は成立しないとはいえ、ねえ。コラなど改変物の法的扱いは再編されないのかなあ。

2017-09-15 08:45:24

水戸芸術館(水戸市)の職員が、人気漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(こち亀)の作品を無断で改変し、ツイッターで同館を宣伝する内容の投稿をしていたことが14日、朝日新聞の取材でわかった。著作権侵害の可能性を外部から指摘され、同館は投稿を削除した。
 問題になった投稿は「こち亀」の8コマの絵の中に、同館のシンボルであるタワーの写真計10枚を合成した画像。同館では昨年10月にタワーのライトアップを始めており、職員が「多くの人に魅力を伝えたかった」と独断で公式アカウントで投稿したという。
 同館から経緯の説明や謝罪を受けた出版元の集英社(東京)は「著作権の侵害に当たる行為だが、今回は法的な対応や損害賠償の請求は考えていない」と、同館に説明したという。著作権に詳しい中谷寛也弁護士は「個人であっても出版された漫画に無許可で手を加えてネットに投稿し、公衆の目にさらす行為は、著作権法違反の可能性がある」と指摘している。
 同館の公式アカウントでは14日、「今後は著作権者の権利保護に十分留意し情報発信をしてまいります」と投稿した。(以下略)

波島想太 @ele_cat_namy

著作権各種報告(懇談会・検討会議・調査研究)|文化庁 bunka.go.jp/tokei_hakusho_… 海外における著作物のパロディの取扱いに関する調査研究報告書(平成24年3月)(PDF) bunka.go.jp/tokei_hakusho_…

2017-09-15 08:52:38
波島想太 @ele_cat_namy

「そもそも「パロディ」とは何か(いかなるパロディを著作権 法上で許容するのか)、現行著作権法の解釈による許容性や、表現の自由(憲法 21 条)や 同一性保持権(著作権法 20 条 1 項)との関係等について、我が国では議論が十分に進んで いるとは言えず」 ですよねぇ。

2017-09-15 08:54:01
波島想太 @ele_cat_namy

アメリカにおいて、パロディとは「上品である必要はない」とされている。「というのも、裁判所が、何が優れた芸術かを判断する能力がないのと同じように、何がよいユーモアであるか、ということを判断する能力もないはずだからである」 こういうところアメリカは情緒的でなく冷静やね。

2017-09-15 09:00:45
波島想太 @ele_cat_namy

同一性保持権については、「パロディや風刺が成功するためには、原作品のアーティストの名誉・声望を害するような方法で原作品が歪められたり改変されたりする必要がある」そのため「原作者からの許諾を得ることが困難であるという問題点を指摘」している。

2017-09-15 09:05:44
波島想太 @ele_cat_namy

ただここではパロディを「その作品そのものを論評・批判する(狭義のパロディ)」と「原作品そのものを論評・批判しない(風刺)」を区別している。今回話題になったこち亀コラは、他の多くのコラと同様に後者に該当しそうではある。

2017-09-15 09:09:04
波島想太 @ele_cat_namy

日本の同一性保持権に関しては、加戸守行「著作権法逐条講義」P172に「パロディ形式あるいはもじり形式のものについては、既存の原作をパロディ化したり、もじったことが一見して明白であり、かつ誰にもふざけ茶化したものとして受け取られ、原作者の意を害しないと認められる場合については」→

2017-09-15 09:15:40
波島想太 @ele_cat_namy

→「形式的には内面形式の変更にわたるものであっても、同一性保持権の問題は生じません」と述べており、元ネタが明らかなコラは同一性保持権の侵害には当たらないとしているようではある。うまくできすぎて原作と勘違いする人が出てくると危険かもしれない。コラじゃないけどドラえもん最終回かしら。

2017-09-15 09:18:49
波島想太 @ele_cat_namy

元ネタのタイトルや作者を表示しない氏名表示権の侵害については、「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる」(著作権法19条3項)としている。

2017-09-15 09:24:28
波島想太 @ele_cat_namy

著作権法113条6項「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす」とあり、著作者の社会的名誉を低下させるようなパロディには要注意と。田中圭一氏の下品な手塚ネタとかかな。

2017-09-15 09:27:54
波島想太 @ele_cat_namy

へえ面白い。二次創作する人は、96ページ以降の論点整理だけでも読んだらいいと思う。

2017-09-15 09:31:15
波島想太 @ele_cat_namy

追記。染野啓子「パロディ保護の現代的課題と理論形成」(法律時報55巻7号41頁、1983年)に「同一性保持権が実質的に損なわれないパロディ化が認められる可能性」についての記述がある。その条件として①利用される原著作物が、社会的共有財産と考えられる程度にまで著名となっていること

2017-09-15 15:08:14
波島想太 @ele_cat_namy

②利用する側の著作物が、原著作物それ自体を揶揄、嘲笑するものであってはならないこと、③原著作物を通じて社会的に形成されている固定的観念を破壊、風刺、揶揄するものであること、④利用する側の著作物が単なる笑いを引き出すためのものではなく、芸術的、思想的な問題提起を目的とするものである

2017-09-15 15:12:58
波島想太 @ele_cat_namy

こと、⑤利用する側の著作物が「独立性」を持つもの、すなわち、パロディスト自らの個性をあらわすものとして内容および形式上完成されたものであること、⑥利用する側の著作物が、芸術的、思想的に優れたものであること、⑦パロディの目的を達成するために必要最低限の、やむをえない改変であること

2017-09-15 15:15:59
波島想太 @ele_cat_namy

以上を挙げている。「芸術的」「思想的」とか「問題提起を目的」「優れた」というのは価値判断であり法的に行うのは難しいように思うが、①の指摘は興味深い。これによればこち亀や横山三国志、はだしのゲンはパロディできても、知名度の低い作品ではNGという判断もありうる。

2017-09-15 15:20:44
波島想太 @ele_cat_namy

ただ何をもって「知名度の低い」とするかは難しいところで、「キモーイガールズ」はもともとは(失礼ながら)あまり知られていなかった作品だが、コラやパロディで知名度を上げ、「社会的共有財産(いわゆるネットミームと同義)」になったように記憶している。

2017-09-15 15:23:13
波島想太 @ele_cat_namy

コミケのようなある種のコミュニティ内で慣習的に黙認されている場合、形式上著作権を侵害しても問題にならない場合がある、ともしている。ただインターネットというワールドワイドな環境を「ある種のコミュニティ」などと言えるかどうかはやはりわからない。

2017-09-15 15:27:37
波島想太 @ele_cat_namy

法的知識のない素人としては詳しい法解釈はできないけれども、ともあれ日本においてパロディの法的扱いはまだきちんと議論されてないんではないかしら、という印象を改めて感じた次第です。

2017-09-15 15:29:52