ライオンハート・ザ・ブレイブハート #3

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えみゅう提督 @emyuteitoku

変幻は未来を否定する、フューリアスは決められたはずの死を排除する。フッドは声に怒気を込めた。[ぺらぺらとよく喋りおるわ…!]「ここで真相を全て話すということは――」ライオンハートがいち早くフューリアスの意図に気付いた。しかし、道化師はすでに準備を整えていた。26

2017-09-16 21:47:04
えみゅう提督 @emyuteitoku

「そうとも!逃げるのさ!」フューリアスは飛び退くと同時に、振袖から艦載機を投げ捨てるように発艦。「逃がさんぞフューリアス!」[戯け、上だ!]王剣が独り手に動き空を薙いだ。すでに追撃の姿勢に入っていたライオンハートは、自分の右腕に動きを取られ仰向けに倒れ込んだ。27

2017-09-16 21:48:09
えみゅう提督 @emyuteitoku

KABOOM!ライオンハートの眼前で、フッドに切払われた爆弾が爆発した。上空には複葉機が編隊を組んで待機している。「あのおしゃべりは、このための時間稼ぎか!」[次!二時の方角構え!露払いだ!]フッドの激励に突き動かされ、ライオンハートは即座に体制を立て直す。28

2017-09-16 21:49:58
えみゅう提督 @emyuteitoku

「イヤーッ!」ライオンハートは投下された魚雷を海ごと叩き割る。夥しい量の飛沫が彼の姿を隠し、一瞬の猶予が生まれる。「フューリアスは!」[かなり離された。やはり敗走が上手い…次!十一時の方角爆撃隊!]「己…!イヤーッ!」ライオンハートは海を切り裂き水柱のカーテンで身を隠す。29

2017-09-16 21:50:38
えみゅう提督 @emyuteitoku

追撃戦だというのに防戦一方。ただ走るだけならば、ライオンハートの速力があればフューリアスに容易く追いつける。それを知っているからこそ、フューリアスはそれをさせない。「おーい!そろそろ声も届かなくなるだろうから、先に言っておくよっ!バァーカ!!アッハハハハ!じゃーねぇー!」30

2017-09-16 21:51:48
えみゅう提督 @emyuteitoku

フューリアスが逃げていく。艦載機に阻まれているこの状況では、もはや追いつくことはできない。ライオンハートは足を止める。偏差投下された爆弾が彼の目の前で海を抉った。滝のような飛沫を浴びながら、ライオンハートは、剣を左手に持ち替えた。「フッド…」彼は王に呼びかける。31

2017-09-16 21:54:04
えみゅう提督 @emyuteitoku

[やるんだな]王は――いや、フッドは飾らない声で応えた。ライオンハートは小さく、されど固く頷いた。恐れはある、だが迷いはない。「私の主砲、お前に預ける」[いいのか?後継を命じず、民を捨て置くなど畜生の所業だ]…それは違う。「黙れフッド」ライオンハートの声に決意が満ちる。32

2017-09-16 21:55:25
えみゅう提督 @emyuteitoku

「私はお前とは違う。私に民はいない、いるのは友達だけだ。臣下は王がいなければならない。だが、皆は私がいなくても、一緒に考える。皆で生きて行く」[――許す。同盟国への信頼、強国を統べる者のあるべき姿よ!ムアッハッハ!]フッドの高笑いと共に、ライオンハートはその背に紫雲を纏う。33

2017-09-16 21:56:32
えみゅう提督 @emyuteitoku

彼の背に四基八門の主砲が現れる。幻ではない確かな形を持つ戦艦の主砲を、己が奥義の構えの如く左腕に巻き付ける。(やはり、重いな)ライオンハートは願った、『己の命を力にしたい』。左腕に王剣と共に纏うのは己の魂、装填されているのは生命そのもの。放てば何が起こるか想像に難くない。34

2017-09-16 21:57:45
えみゅう提督 @emyuteitoku

フッドの言う通り、これは無責任な事かもしれない。だけど、きっと、皆は、歩き続けてくれる。「…ハッ…ハッ」ライオンハートの息が荒れる。駆逐艦の身に、戦艦主砲四基という過重積載。その重さを支える体に残っている命は残り僅か。自分自身の願いを、自分が支えきれないのだ。35

2017-09-16 21:59:18
えみゅう提督 @emyuteitoku

「あの時と、同じか…」彼は友達を助けたいと願った。しかし体は動かず、愛する友は目の前で、殺された。「今度は…今度こそは――!」願いを叶えてみせる。フューリアスは射線にいる、放てば届く。距離は関係ない、破壊の塔を凌駕する必殺の奥義。フッドの砲を用いての八連主砲。36

2017-09-16 22:00:51
えみゅう提督 @emyuteitoku

命と引き換えに放つ奥義を!「…あ」ライオンハートの膝が崩れる。「そん…な」必然だった。魂のない体では命の輝きを支えきれない。彼は奇跡を起こしすぎた。ここまで彼に味方し続けていた奇跡すら、力尽きていたのだ。星を穿つ者に挑むなど無謀だった。一人では届かない、過ぎた願いだったのか。37

2017-09-16 22:02:16
えみゅう提督 @emyuteitoku

…一人では届かないなら、誰かが支えればいい。彼の肩を黄金に煌めく鎧が抱えた。金色の鎧を纏う偉大なる王が、ライオンハートを支えていた。「フッド…?」「我が同盟を認めた身分でありながら、見苦しいにも程があるわ。童、奴は見えているか」「ああ、見えているとも。この先の未来までな」38

2017-09-16 22:04:38
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ムアッハッハ!この期に及んで演劇か。介添えは不要だったか?」「いや、支えてくれ…共に行こう」ライオンハートの腕に、フッドの右腕が添えられた。今、二人の王が並び立つ、この星に生きる者のためにその力を解き放つ。「お前に伝えよう、この剣の真の名を、未来を開闢する至宝の名――」39

2017-09-16 22:06:17
えみゅう提督 @emyuteitoku

「星剣――」二人の王が剣の名を呼び覚ます。「「クラウ・ソラス!!!」」八門の砲から放たれた輝きが、星剣が指し示す先へ収斂し一筋の光となる。打ち倒すべき敵はフューリアスただ一つ。それ以外、何一つ傷つける必要はない。光は希望の道筋となり、海を走った。40

2017-09-16 22:08:07
えみゅう提督 @emyuteitoku

希望の塔は空の果てを越えて、その輝きを宇宙にまで示した。だが、海は何事もなく静かに波打ち、貫かれた雲も、変わらず風に任せて千切れ行くだけだった。未来を示した虐げられし者達の王は、海に膝を着き今にもバラバラに砕け散りそうな姿で、呆然と空を見上げていた。42

2017-09-16 22:10:00
えみゅう提督 @emyuteitoku

その傍らにもう一人の偉大なる王の姿はない。しかし、彼の手には、王のための至宝剣が握られている。この手は解くわけにはいかない。これは、友達から貰った、大事な宝物なんだ。[童…おい童!]声が聞こえる。応えなければ、友達を――フッドを、安心させてやらないと…43

2017-09-16 22:11:37
えみゅう提督 @emyuteitoku

「…あり、がとう」彼が体に残る魂の残渣をかき集めて紡ぎ出したのは、感謝の言葉。ライオンハートらしい優しい言葉だった。[礼は当然のことよ。感謝など慣れておるわ…だが有難く受け取ってやる]フッドもまた毅然と答える。彼女らしい厚かましい言葉。[だが、今は礼はいい。早く立て…]44

2017-09-16 22:13:10
えみゅう提督 @emyuteitoku

[まだ、終わっておらんぞ!]「――!」ライオンハートは耳を疑った。彼は視線を戻そうとして、自分の頭の重さを支えきれずに顔から海に倒れ込む。[立て、立たんか童!フューリアスは、まだ生きておる!]塩辛い海を舐めながらライオンハートは顔を上げる。彼の視線の先に、奴は立っていた。45

2017-09-16 22:14:27
えみゅう提督 @emyuteitoku

「【変幻】……!」クラウ・ソラスは世界に傷一つ付けずフューリアスを倒した。欠片も残さずに消滅させた、“空母”フューリアスを消し飛ばし、“軽巡”フューリアスを再びこの世界に引きずり出した。切り裂かれた傷をそのままに、フューリアスが立っている!「ラァイオンハァトォオオオ!!」46

2017-09-16 22:16:01
えみゅう提督 @emyuteitoku

蒼の血潮と共に猛烈なる怒りを噴き出しながら、フューリアスは王を睨みつける。「気が変わった。お前はココデ殺ス!」軽々と振り回していた極大単装砲も、今や重過ぎる得物となっていた。フューリアスは緩慢な動きで砲門を引き上げる。「いい演目だったよ。観客の飛び入りモいイもんダ!」47

2017-09-16 22:17:06
えみゅう提督 @emyuteitoku

割れたスピーカーから響くようなフューリアスの憤怒の絶唱。彼女は一発限りの主砲を放とうと、震える右腕で単装砲の狙いを付けようとしている。揺れる照準から逃れる力は、もうライオンハートに残っていなかった。[諦めるというのか]フッドが問う。「私達に、できることは…尽きた」48

2017-09-16 22:18:07
えみゅう提督 @emyuteitoku

「だがなフッド。私は、まだ諦めない」「レオ!」友達の声が聞こえた。マンモスを撃破したチェルノボグが追いついたのだ。これがディープオーダーにとっての最大の好機になる――はずだった。[愚か者がァ!チェルノボグ、敵を見ろ!]フッドの叱責はチェルノボグの耳に届かない。49

2017-09-16 22:19:15
えみゅう提督 @emyuteitoku

「そんな、レオ…っ、レオ!」倒れたライオンハートの姿に気を取られ、チェルノボグには戦局が見えなかった。後一撃で殺せる敵よりも、後一撃で死んでしまう友の姿が彼女の意識を奪う。[大馬鹿者め…!一体何のため戦ってきた!何のためにッ――!]フッドははたと気付く。50

2017-09-16 22:20:06