ライオンハート・ザ・ブレイブハート #4

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えみゅう提督 @emyuteitoku

フッドは当たり前のように応えた。そう、こいつはこういう奴だ。王でありながら誰かの元に与する矛盾も気にしない。自分の想いのままに生きる大馬鹿者だ。「全く、どうしようもない奴だな、お前は」[貴様に言われとうないわ、童]ライオンハートは海藻のベッドに腰を下ろし、王剣を床に置いた。51

2017-09-17 00:57:28
えみゅう提督 @emyuteitoku

「疲れた…」[病み上がりに騒ぐからだ、今しばらくは大人しくしている事だな!]「おのれ…誰のせいだと」埒が明かない、こいつはもう放っておこう。すっかり目が覚め、ライオンハートの胸中は澄み渡っていた。それと同時に、一抹の寂しさを覚えた彼は大切な事を思い出す。52

2017-09-17 00:58:49
えみゅう提督 @emyuteitoku

ライオンハートは空いた右手で懐を探る。大事な物をしまう場所だ、気を失っていたが、きっとここに――「あった」ライオンハートの右手が懐から引き抜かれる。その手には、白磁の欠片が乗せられていた。ディープオーダーの勝利の鍵となった、ただ一人助けられなかった、友の形見。53

2017-09-17 01:00:36
えみゅう提督 @emyuteitoku

ライオンハートはしばし欠片を見つめ、皆に向けて一つの頼みを口にしようとした。しかし彼が言う前に、フッドが号令を掛けた。[ボトムレス、上部ハッチを開けい!]「えっ、うん…」ボトムレスは大人しくフッドの指示に従う。[童、いってこい。チェルノボグ以外は船内で待機!よいな]54

2017-09-17 01:02:00
えみゅう提督 @emyuteitoku

ライオンハートは王剣に渋い顔を向ける。「察してくれたのはありがたいが、強引すぎやしないか?」[まあ許せ、強引な方法が好みなのでな]「知っている…少し、一人になってくる」白磁の欠片を手に、赤いマントをはためかせ、ライオンハートは上部ハッチから飛び出していった。55

2017-09-17 01:03:09
えみゅう提督 @emyuteitoku

チェルノボグはライオンハートの背中を黙って見つめていた。佇む彼女にフッドは悪態をつく。[ふん、煮え切らん奴だ]「フッド、質問いいだろうか?」チェルノボグの態度に苛立つフッドの傍らにコールドレインがしゃがみ込む。[構わん、許す]「何故チェルノボグだけが、自由行動なんだ?」56

2017-09-17 01:04:45
えみゅう提督 @emyuteitoku

呆れた質問である。[コールドレインよ、正気か?]「いや…何で一人だけって」[よし、スクトゥム]「オーケー、マイティ・キング。イヤーッ!」フッドの号令でスクトゥムがコールドレインにコブラツイストを掛けた。「グワーッ!ナンデ!?気になっただけなのに!」「気付けよバーカ!!」57

2017-09-17 01:05:34
えみゅう提督 @emyuteitoku

艤装を失い、同じ体格になったからこそのサブミッション!スクトゥムは満足気に笑う。「だっはっは!一回やってみたかったんだよな、こういうジュージュツ!」「ジュージュツじゃないだろこれ!」「るせー!それがわかるならチェルの考えくらいわかれってんだ!」「グワーッ!ギブアップ!」58

2017-09-17 01:06:37
えみゅう提督 @emyuteitoku

「全く…フッドの奴め」ライオンハートはボトムレスの装甲を貫く大騒ぎに額を押さえる。だが、それも束の間の事、水平線から上がろうとする太陽と紫色の星空、そして冷たい風が彼の意識を引き戻す。「ここは、北極圏に近いようだな。…そういえば、寒いのは嫌いと言っていたな、ナバル」60

2017-09-17 01:08:03
えみゅう提督 @emyuteitoku

明るく大らかに振舞うため、ネガティブな言葉を避けていたナバルの口から出た『嫌い』という言葉は、ライオンハートの中に印象深く残っていた。「こうすれば、寒くないだろうか?」白磁の欠片が、二つの掌に包み込まれた。「ナバル…お前に伝えられなかったことがあるんだ。聞いてくれ」61

2017-09-17 01:09:36
えみゅう提督 @emyuteitoku

ライオンハートは両手で包み込んだ白磁の欠片を高く掲げた。ナバルは消えた、その魂がどこにあるのかはわからない。しかし彼は、その手を自然と空へと近づけた。安息を祈るために、白磁の欠片を朝日の中に煌めく、星の輝きに掲げた。62

2017-09-17 01:10:56
えみゅう提督 @emyuteitoku

「私の…愛しき友よ!」ライオンハートは叫んだ。彼女がたとえどこにいようとも、この声が聞こえるように、常世と幽世の境を越え、彼岸を越え、この想いが届くように。 「ナバル!私は、お前を!愛していた!!」63

2017-09-17 01:12:36
えみゅう提督 @emyuteitoku

暁の輝きに照らされるライオンハートの目蓋に涙が溢れる。目じりから溢れ、目頭から溢れ、それでも足りず涙は三つの筋を作り、彼の顔を濡らした。溶けた悲しみの雫が、流れ零れ落ちていく。歩み続けるために、前へと進むために、悲しみを溶かしていく。心に、思い出だけを残して――64

2017-09-17 01:14:13
えみゅう提督 @emyuteitoku

「レオ…」不意に声を掛けられライオンハートは急いで涙を拭い振り返る。そこには、胸に手を当て艶めいた眼差しを向けるチェルノボグが立っていた。「情けない所を見せてしまったな」「いいんだ…いいよ、レオ。私も、自分に正直になる」チェルノボグはライオンハートの蒼い瞳を見つめた。65

2017-09-17 01:16:00
えみゅう提督 @emyuteitoku

「もう、隠す事はやめる。だから、どうか、私の気持ちに応えて欲しい」右手を胸の上に置き、チェルノボグは左手を差し出す。打ち明けられた彼女の心に、ライオンハートは真っ直ぐに応える。「ああ、もちろんだ。これからも共に行こう、チェルノボグ。お前は、私の大事な友達だ!」66

2017-09-17 01:17:41
えみゅう提督 @emyuteitoku

ライオンハートが差し出したのは、アームレスリングめいた力強い握手の構えだった。「…ふっ」チェルノボグは思わず鼻を鳴らす。そう、レオはこういう奴だ。真っ直ぐに向かい合いすぎて、すぐ隣にある気持ちに気付かない大馬鹿者。「まあ、それでこそレオだ。任せて置け」67

2017-09-17 01:18:50
えみゅう提督 @emyuteitoku

バシン!激しい音を鳴らし、固い握手が交わされた。ディープオーダーは結束を新たに、暁の海を行く。68

2017-09-17 01:20:33
えみゅう提督 @emyuteitoku

【ストレンジ・イリュージョン:オールドワン】 ‐劇[待てぇぇぇええええいい!!!!]69

2017-09-17 01:21:18
えみゅう提督 @emyuteitoku

BOOGRRRRRRRM!!!王剣がボトムレスの船上に飛び出してきた!「あー!ハッチ吹っ飛んだ!」「ちょ!静かに見てるって言っただろ!」「私はもう知らん…」ラッパ状に広がった上部ハッチから他の面々もモグラめいて顔を出す。「ど、どうした一体…」[たわけ!何がどうしただ!]70

2017-09-17 01:21:51
えみゅう提督 @emyuteitoku

[我が御膳立てしてやったというのに!今のは、チューまで行く流れであろうが!]「…は?!」[チェルノボグ!貴様もだ!こやつが朴念仁なのは分かっておるだろう、押し倒せ!]「んな?!」[もはや我が手ずから指揮を取るしかあるまい――これより!両名の結婚式を執り行う!]71

2017-09-17 01:22:59
えみゅう提督 @emyuteitoku

[ボトムレス!お前は式場だ、電飾を出せ!]「ちょっ、ま?!」[コールドレイン!スモークは任せる]「うむ出来なくはない…いやいやいや」[このポンコツ共では初夜も危ういか…アルキドクセン!媚薬を二つ、いや三つ!我が手解きしてくれるわ!ムアッハッハ!]「媚薬…ちょっと興味あるのう」72

2017-09-17 01:23:53
えみゅう提督 @emyuteitoku

勝手気ままに段取りを進めるフッド、チェルノボグとライオンハートは視線を合わせた。「なあ、レオ」「ああ、そうだな――」二人は手を繋ぎ、大きく足を振り上げ、王剣を思いっきり蹴飛ばした!「「黙れフッド!」」「ヌワーーーーッ!!」暁の光を浴びながら王剣は空で一つ輝き、海へ落ちた。73

2017-09-17 01:24:53
えみゅう提督 @emyuteitoku

「……さて、拾いに行ってやるか」74

2017-09-17 01:25:46