ライオンハート・ザ・ブレイブハート #4

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えみゅう提督 @emyuteitoku

彼はそれ以上言葉を繋げる事はできなかった。この暗く寂れ果てた酒場がフッドの願望そのもの。こんな悲しい結末を望み、最後まで走り抜けた王にどんな言葉をかければいいというのか。フッドは奪い尽くし、与え尽くした。世界一不幸な、幸せ者。二律背反のエゴを纏った圧制者。26

2017-09-17 00:26:33
えみゅう提督 @emyuteitoku

決して許せないはずなのに、ライオンハートにはフッドの想いが理解できた。己のエゴを成すために、自分自身すらも虐げた恐怖の王。彼女こそが偉大なる、真の王。「なんと…救いがたいことか」ライオンハートは断頭台で首を垂れる罪人めいてうなだれる。彼の姿を見てフッドは眉を下げる。27

2017-09-17 00:27:45
えみゅう提督 @emyuteitoku

「なぜ悲しむ?良いではないか、我は望みを――」「良いはずがない!こんな、悲劇が、あっていいわけがないだろう!」ライオンハートの胸中で様々な思いが駆け巡る。彼の想いか、それともフッドの胸中に揺らぎがあったのか、電灯がチカチカと点滅した。「悲劇か…そうかもしれんな」28

2017-09-17 00:29:00
えみゅう提督 @emyuteitoku

フッドは背筋を改め堂々と腕を組む。「確かにもっと良い選択はあっただろう。だが、我はこの道を選んだ。王が選んだのだ、悲劇であろうとこれが是だ。――我が選んだこの世界に、そなたは何を想う、ライオンハート」フッドが意を求めた。予想外の問いにライオンハートは困惑する。29

2017-09-17 00:30:18
えみゅう提督 @emyuteitoku

「フッド…」彼の目の前で、打ち倒すべき圧制と、手を差し伸べるべき悲劇が混在していた。「――わからない」「何?」「今の世の在り方に疑いがあるのは確かだ。だが、私達が生きている理由が、お前の決断なのだとしたら…」「それを塗りつぶそうとする輩も我が生み出したことになるな」30

2017-09-17 00:31:43
えみゅう提督 @emyuteitoku

「黙っていてくれ、フッド」フッドにとってはとうの昔に過ぎたことだが、今を生きているライオンハートに取っては、解き難い問題だ。「…すまないフッド、今の私ではいくら考えてもわからない。――だから、待っていて欲しい」「ほう、王に待てと指図するか!」フッドの目がギラリと光る。31

2017-09-17 00:32:38
えみゅう提督 @emyuteitoku

ライオンハートは王を真っ直ぐ見つめ返す。今この時は、王から目を逸らしてはいけない。「きっと答えに辿りついてみせる。それまで待っていてくれ。そして、答えを見つけた時に、真っ先に伝えられるように、私達と共にいてくれないか?最善ではないかもしれないが…私はそうしたい」32

2017-09-17 00:33:55
えみゅう提督 @emyuteitoku

「甘えた選択だな…許す!」フッドは膝をパシと打って立ち上がる。「いいだろう、その望みに応えてやろう。だから、早く目を覚ませ」「……目?」ライオンハートは首を傾げ、まるでその動きに引っ張られるが如くフッドの体がズルッと傾いた。「童ァ!貴様自分がどうなったのか忘れたか!」33

2017-09-17 00:35:25
えみゅう提督 @emyuteitoku

影に隠れていても分かるフッドの剣幕に、ライオンハートは思わずたじろいだ。「あー、…どうなったんだ?」彼は両の掌を上げる、お手上げポーズだ。「すまない、皆の無事を確認して、その直後にここにいたと認識している」彼の正直な意見にフッドはため息をつく。「はぁ…まあいい、許す」34

2017-09-17 00:36:27
えみゅう提督 @emyuteitoku

「貴様は死んだ」フッドの口からシンプルな答えが飛び出す。自身の死を告げられても、ライオンハートに疑問はなかった。「確かに、死んでもおかしく無かったな」「たわけ、納得するな。我の命令を忘れたか」「死んではならん、か」ライオンハートの記憶からフッドの言葉がするりと引き上げられた。35

2017-09-17 00:37:32
えみゅう提督 @emyuteitoku

「王権に不可能はない。王の命令だ、死神であろうと、この世の理であろうと逆らう事など許されん。――これは皆の願いだ。体はアルキドクセンが修理し終えている。もう一度言う、さっさと目を覚ませ」フッドはくるりと背を向ける。「伝える事は以上だ。そろそろ城を閉じよう」36

2017-09-17 00:38:47
えみゅう提督 @emyuteitoku

「待ってくれ」去り行く王の背に、ライオンハートが声をかけた。「何用だ、童」「まだ、お前の顔を見ていない」それは些細な望みだった。友となったからには、その面貌を知っておきたいという単純な理由。「だめか?」ライオンハートの弱々しい問いにフッドは振り返るが、その姿は光の外にあった。37

2017-09-17 00:40:16
えみゅう提督 @emyuteitoku

電灯の下でライオンハートは頭を振る。「王に頼むような事ではなかったな、忘れてくれ――」ライオンハートが席を立とうとしたその時、酒場の全ての電灯が一斉に灯りを付けた。白熱灯の暖かい色の中に、短く切られたゴールデンブロンドの髪の、少女が立っていた。38

2017-09-17 00:42:21
えみゅう提督 @emyuteitoku

「これでいいか?」あどけなさが残る顔に似つかわしくない、フッドの枯れた声。この小さな体で、民のために、どれほど叫び続けてきたのか。「ああ、ありがとう。きっと忘れない」「忘れる事など許さん。…いや、忘れ得ぬだろう、なにせこれからは共に歩むのだからな!ムアッハッハッハ!」39

2017-09-17 00:43:16
えみゅう提督 @emyuteitoku

フッドはひとしきり笑い、再びライオンハートに背を向ける。「今回ばかりは我も疲れた。少し長い眠りに付こう」「なら、私は目を覚まそう。フッド…本当に、本当にありがとう」フッドが離れて行く。それと共に明かりは輝きを増し、ライオンハートの視界は光の奔流に包まれた。40

2017-09-17 00:44:44
えみゅう提督 @emyuteitoku

背中を包む柔らかい感触の上で、ライオンハートは目を開けた。鈍色の丸みのある見慣れた天井が視界に広がっている。「ボトムレスの、船内か」ライオンハートが海藻のベッドから体を起こした瞬間、「お、お!起きたー!」ボトムレスが叫び、「んな!マジかおい!」スクトゥムが飛び上がった。42

2017-09-17 00:46:39
えみゅう提督 @emyuteitoku

「おお…成功していたか。いや、よかったよかった」アルキドクセンは憔悴気味な反応を見せた。「はあ~生きてた~」アンダーテイカーも疲れ気味だ。「皆今まで心配しすぎてな、大袈裟な反応はできない」「そう言っといてニューロンが花火大会だぞ」コールドレインの横腹をリンクスが突く。43

2017-09-17 00:47:45
えみゅう提督 @emyuteitoku

「随分、待たせてしまったようだな」ライオンハートが立ち上がろうと膝を立てると、彼の前に古傷が刻まれた手が差し伸べられた。「おかえり、レオ」「ただいま、チェルノボグ」友の手を取り、ライオンハートは立ち上がった。「世話をかけてしまったな…ありがとう、皆」44

2017-09-17 00:49:07
えみゅう提督 @emyuteitoku

「なあに大したことはしてねえよ」「確かにスクトゥムは本当に何もしてないね」「なにぃ!」胸を張るスクトゥムにボトムレスがやじを飛ばした。「いいんだよ!盾が何もしてないってことはそれだけ平和ってことなんだからよ」ツーテールをぴょこぴょこ揺らしながらスクトゥムは笑う。45

2017-09-17 00:50:13
えみゅう提督 @emyuteitoku

「素顔を見るのは久しぶりだな、スクトゥム」「ん?あー、そういやそうだな。チェルノボグも、コールドレインも、全員素顔ってのは初めてか」素顔、その言葉でライオンハートは王の心を思い出す。王剣は海藻のベッドの隣に横たえられていた。「…皆、聞いてほしい事があるんだ」46

2017-09-17 00:51:27
えみゅう提督 @emyuteitoku

ライオンハートの神妙な表情を見て、船内が静まった。彼はメンポを下げ、素顔を露わにする。心の内を明かす決意の行動。「圧制を打ち砕く、その想いは変わらない。だが今は、圧制を悪と断ずることはできない。助ける事、救う事の真の難しさを、フッドは教えてくれた」47

2017-09-17 00:52:30
えみゅう提督 @emyuteitoku

「フッドは、真の王だ。私は彼女を心から尊敬する」[そんなお定まりを今更口にするか]「だから、私は…その…」ライオンハートは右手に王剣の柄を、左手に王剣の切っ先を手にし――「何で起きているのだ貴様ぁぁぁあああ!!!!!」[ヌワーッ!]渾身のチューペット・ブレイク・ニー!!48

2017-09-17 00:53:42
えみゅう提督 @emyuteitoku

「長く眠ると言っていただろう!どうしてあの話の流れで今起きている!」[たわけ童!我も三日は眠ったわ!一週間も眠りこけていた貴様が戯言を抜かすな!]「私は、てっきり眠っていると思って…ぜっ全部話してしまったではないか!」[何の問題がある!我は真の王!敬いは当然のことよ!]49

2017-09-17 00:54:52
えみゅう提督 @emyuteitoku

「グワーッ!黙れフッドォオオ!!」ライオンハートは恥ずかしさに頭を抱えた。[これだけ騒げるなら、もう心配は無用だな。ムアッハッハッハ!]「…心配していてくれたのか」ライオンハートは聞き逃さない。[ディープオーダーを率いるのは貴様だ。一員として気を配るのは当然のことよ]50

2017-09-17 00:56:17