山本七平botまとめ【空気の研究⑥】空気支配が相対主義者を排除する/~周恩来から「言必信、行必果」的小人・おっちょこちょいと思われていた日本人~

山本七平著『「空気」の研究』/「空気」の研究/62頁以降より抜粋引用。
1
山本七平bot @yamamoto7hei

①植村の論法の基本は、対象の対立概念による把握いわば相対化の一種であって、勅語と不動明王の神符、御真影と水天官の影像という形で対象を相対化している。 相対化された対象は、その臨在感的把握の絶対化ができないから、対象による被支配はなくなり、従って″空気″は消失してしまう。

2017-09-15 20:42:07
山本七平bot @yamamoto7hei

②これは空気への抵抗の一つの基本型である。 そしてそのことは、空気を醸成して″空気支配″を完成しようとする者にとって、あらゆる手段で排除すべき者は、対象を相対化する者であることを示している。 前述の吉田信美氏は次のように言っている。 (~引用省略~)<『「空気」の研究』

2017-09-15 21:12:16
山本七平bot @yamamoto7hei

③…氏はその「大過」の基本的原因を…「経済の発展」と「公害問題」という相対立するものを対立概念で捉える事を拒否し、相対化されていた対象を、一方を削除する事により「公害」の方を絶対化してこれを臨在感的に把握して「熱し易い」即ちブーム的絶対化を起した、という点においているのである。

2017-09-15 21:42:07
山本七平bot @yamamoto7hei

④問題はここなのだ。対象の相対性を排してこれを絶対化すると、人間は逆にその対象に支配されてしまうので、その対象を解決する自由を失ってしまう、簡単にいえば、公害を絶対化すると公害という問題は解決できなくなるのである。そしてこの関係がどうしても理解できなかったのが昔の軍部なのである。

2017-09-15 22:12:19
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤吉田氏もここで軍部に言及し、さらに続けて 「僕は自分が日本人だから、今更好きだ嫌いだといっても始まらないのだが、こういう環境行政のおっちょこちょいぶりをみていると、それが日本人の気性の一面に基因しているような気がして、実に嫌な気分に襲われるのである」 という。

2017-09-15 22:42:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥だが、公害問題に取り組んだ人たちは、みな、まじめで真剣なのである。 また昔の青年将校も、実にまじめで真剣であった。 それは否定できない。 だが、氏の言う通り「おっちょこちょい」なのである。 なぜか、私はここで周恩来首相が田中元首相に贈った言葉を思い出す。

2017-09-15 23:12:19
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦「言必信、行必果(言は必ず信あり、行いは必ず果たす)」(これすなわち小人なり)と。 この言葉ぐらい見事な日本人論はない。 この言葉は恐らく全日本人への言葉だと思うが、これを「小人(おっちょこちょい)」と読めば、何と鋭く日本人なるものを見抜いたものだろうと、思わず嘆声が出る。

2017-09-15 23:42:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧「やると言ったら必ずやるサ、やった以上はどこまでもやるサ」で玉砕するまでやる例も、また臨在感的把握の対象を絶えずとりかえ、その場その場の”空気”に支配されて「時代先取り」とかいって右へ左へと一目散に突っ走るのも、結局は同じく「言必信、行必果」的「小人」だという事になるであろう。

2017-09-16 08:12:17
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨大人とはおそらく、対象を相対的に把握することによって、大局をつかんでこうならない人間のことであり、ものごとの解決は、対象の相対化によって、対象から自己を自由にすることだと、知っている人間のことであろう。

2017-09-16 08:42:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩だが非常に困ったことに、われわれは、対象を臨在感的に把握してこれを絶対化し「言必信、行必果(註:言は必ず信あり、行いは必ず果たす)」な者を、純粋な立派な人間、対象を相対化する者を不純な人間と見るのである。

2017-09-16 09:12:13
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪そして純粋と規定された人間をまた臨在感的に把握してこれを絶対化して称揚し、不純と規定された人間をもまた同じように絶対化してこれを排撃するのである。この基準でいけば植村正久もまた実に不純な人間という事になり、そしてそれへの排撃の”空気”を恐れる者は皆、口をつぐんでしまうのである。

2017-09-16 09:42:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫だが、考えてみれば不倒翁・周恩来首相自身、絶対にこの種の″純粋″という概念にあてはまる人間ではない。 一方「経団連をデモで包囲して全工場をとめて公害を絶滅せよ」という玉砕主義を主張する者は、確かに″純粋″である。

2017-09-16 10:12:17
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬だがこれで公害が絶滅したということは「公害という問題が解決した」ことではない。 それは人が死ねば病気はなくなるということと同じで、「病気という問題の解決」とは無関係なのである。 なぜこうなるのか。 問題はまたはじめにもどる。

2017-09-16 10:42:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭この臨在感的把握の絶対化に基づく対象による被支配が、もっとも明確に出てくるのが、「死の臨在による」支配なのである。

2017-09-16 11:12:14
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮帝国陸軍の絶対的支配の基本がこれであったことは『一下級将校の見た帝国陸軍』で詳説したので再説しないが、これが、戦後の民間にも明確に出てくるのが各種の「遺影デモ」およびそれと同様の行き方である。

2017-09-16 11:42:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯御真影であれ故人の遺影であれ、これは、福沢諭吉的にいえば紙と感光液だけの物質であり、足で踏もうが破こうが、物質は物質にすぎない筈である。もしこの教えに忠実ならば、その現場でやってみればよい。 その人が受ける超法規的処罰は、恐らく今でも内村鑑三が受けたそれの比ではないであろう。

2017-09-16 12:12:16
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰三井金属が、超法規的に「憲法で保障された上訴の権利」を放棄させられたときにもこれがあったときくが―― 最初にのべたように、人骨を扱えば原因不明の発熱をするという伝統にある日本民族にとって、この方法は、実に決定的なのである。

2017-09-16 12:42:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱それは、北条氏の記す「自動車魔女裁判」の中に、やはり、NO2とは無関係の交通事故の遺児のことが、一種の「死の臨在」として登場しているので明らかであろう。

2017-09-16 13:12:14
山本七平bot @yamamoto7hei

⑲こういう場合「科学的根拠に関係ないことを持ち出すな」などということは、「遺影は物質で無関係だ」という言葉同様、その言葉を口にしたものが超法規的に処断されてしまうだけのことである。 従って、植村正久的勇気がない限り、だれも何も言えなくなる。

2017-09-16 13:42:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑳そしてその力は、遺影デモの現場にいた者だけでなく、報道を通じてそれを臨在感的に把握させられたすべてのものを拘束してしまって、相対化によって対象から自由になり、それで「問題」を解決する能力を、全員に喪失させてしまうのである。

2017-09-16 14:12:15
山本七平bot @yamamoto7hei

㉑日華事変拡大の発端となった通州事件とその報道は、まさに「遺影デモ」と同じ力、否、それ以上の決定的な力で全日本人を拘束した。

2017-09-16 14:42:06
山本七平bot @yamamoto7hei

㉒当時の新聞記事と遺影デモの記事とを読みくらべ、「遺影デモ」の拘束力を思い返してもらえば、あの時の力がいかに決定的に作用したかが、全ての人に実感としてつかめて、その空気支配に慄然としてくるであろうと思う。 これは、戦艦大和出撃などとは比較にならない。

2017-09-16 15:12:13
山本七平bot @yamamoto7hei

㉓そしてそれは、御真影や遺影デモの写真を″物質扱い″にした者への超法規的処罰の比ではあるまい。 「餓死を覚悟」どころか、本当に殺されてしまう。 それは事件の臨在感的把握を相対化しそうな片言隻句すら許さぬほど物凄かった。

2017-09-16 15:42:07
山本七平bot @yamamoto7hei

㉔だがそうなれば、その対象に支配され拘束されて一切の自由を失い、「言必信、行必果」となって、あらゆる「問題」は解決できず、玉砕して自分も死者となるだけが解決になる。 周首相は我々ほど忘れっぽくはないであろうから、このときの日本人の状態をよくおぼえていたのであろう。

2017-09-16 16:12:18
山本七平bot @yamamoto7hei

㉕そして、日中国交回復ブームの空気支配から超法規的な「日華条約廃棄」までの経過を見、何と変らざる小人ぶりよ、と思ったことであろう。 もっとも、大人でも、小人でもよい、対象の相対化を許さねば、公害問題であれ外交問題であれ、またそれがどの民族であれ、こうなって当然なのだから――。

2017-09-16 16:42:07