エリミネイト・アナイアレイター #5
「野郎」スーサイドがツカツカと歩き出した。他の二人も後に続く。彼らが見たのは……見間違えようもない……金色の瞳を闇に光らせる影だった。廊下の奥の闇から彼らを見つめ、踵を返したのだ。ざわざわと行く手を塞ぐ鉄条網を、スーサイドは煩わしげに打ち払う。「イヤーッ!」 24
2017-09-18 23:49:20廊下の突き当りには、昇り階段があった。スーサイドは鉄条網で満たされた階段を見上げ、舌打ちした。手をかざす……「待て。そっちじゃない」フィルギアが制した。「風の流れってやつ」彼は呟き、階段の裏側へ回った。「……これ」フィルギアはしゃがみ込み、床に正方形の切れ込みを見つけ出した。25
2017-09-18 23:51:41それはどうやらマンホールめいた蓋である。手を掛けると、容易に外れた。そして下へ通ずるハシゴが現れた。彼らは顔を見合わせた。この下に「奴」が?なんと回りくどい事だ。いや、そもそもさっき彼らが見た姿は本当に実物だったのか?誰ともなく舌打ちし、三人はハシゴを降りていった。 26
2017-09-18 23:54:29ハシゴを降り切ると、地上階とは異質な空間が広がっていた。そのアトモスフィアはなんとも異様だった。黴臭い空気に彼らは辟易した。塗装されていないコンクリートの壁は重苦しく、地面には亀裂が生じ、その亀裂に沿って鉄条網が蠢いていた。スーサイドはそれを蹴散らし、先に立って進んだ。 27
2017-09-18 23:56:38カーブする通路の壁には「耐汚染」「重点警戒」などの物騒な漢字が書かれていた。その先では、閉まりかけた状態で開きも閉まりもしなくなっているシャッターフスマの空間を通過した。タタミ2枚ほどのその空間の床には「除染確認」と書かれていた。フィルギアは空気の臭いを嗅ぐ。「平気だ」 28
2017-09-18 23:58:58「オイ」スーサイドは壁に寄りかかるように座って動かないものを示した。死体だ。ケンドー・アーマー姿。鉄条網に絡め取られ、壁に押し付けられるようにして、死んでいる。「ワオ」フィルギアは無感動に驚嘆した。彼らは死体をまたぎ、「管理」のノレンをくぐり、廊下から室内へエントリーした。29
2017-09-19 00:02:08確かにそこは管理オフィスだ。床、天井、壁に鉄条網が黒々と這い、引き裂かれた死者が縫い留められたままになっていたが。オフィスの奥には別室が見える。ガラスが張られ、こちら側から確認できるようになっている。何を?ガラスの付近にはUNIXデスクがある。いや、そういうのは後でいい。30
2017-09-19 00:07:23三人の視線はオフィスの中央の柱にくぎ付けになっていた。柱を背にして動かないものに。その者は自らも鉄条網によって柱に縛り付けられたようになっている。鉄条網はここを中心に、部屋中を這い、エアダクトや配管伝いに外へ伸びている……「……ブッダファック」スーサイドは呟いた。 31
2017-09-19 00:10:09それは確かにアナイアレイターだった。少なくとも、アナイアレイターだったものだ。鉄条網の中から覗く金色の瞳は、確かに彼らを視認している。スーサイドは掌に力を込め、白い光を宿らせた。そして、アナイアレイターに近づいた。「手間かけさせやがって」「……」金色の瞳の瞳孔が微かに動いた。32
2017-09-19 00:12:39ほんの一瞬の静寂は、対峙するガンマンめいていた。スーサイドの踵が床に擦れ、ジャリと音を立てた。ドクン。部屋中の……否、恐らくサキモノシティ全体の鉄条網が、脈動した。「イヤーッ!」スーサイドが踏み込む!「AAAARGH!」アナイアレイターが叫ぶ!鉄条網が跳ね飛んだ! 33
2017-09-19 00:15:28