近くて遠くてでも近い

ぺちか @pechika_udon

126 え？と思う間もなく、その手は離れた。 「...忠義...？」 「何でもない。ちょっと亮ちゃん見てくるわ」 出て行く忠義をただ黙って見送るしかできなかった。 ...今のは何？ 何で手を取ったの？ 忠義は何が言いたかったの？ わからないよ。 #近くて遠くてでも近い pic.twitter.com/z83N34cBOh

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127 忠義の行動の真意がわからなくて、１人でモヤモヤしてると美香ちゃんが戻ってきた。 「...おかえり。亮ちゃんは？」 「何か大倉くんが話があるって連れてった」 「ふーん...」 「...茜、また何かあったでしょ」 ...さすが美香ちゃん。 #近くて遠くてでも近い

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128 「また大倉くんはそんな気を持たせるようなことして...」 はぁ、と美香ちゃんも頭を抱える。 だよね！こんな思わせ振りなことばっかりされたら勘違いもしちゃうよね！ 「もういっそのこと告っちゃえば？」 「...それができたら苦労しないよ」 #近くて遠くてでも近い

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129 告白できるもんならとっくの昔にしてるよ。 十何年も拗らせてない。 「...イケると思うんだけどなぁ」 「ん？何か言った？」 「いや、別に？」 美香ちゃんはにこっと笑って否定する。 ...何か言ったと思ったんだけどなぁ。 #近くて遠くてでも近い

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130 「まぁ、旅行も今日で最後だし、後悔しないようにね？」 美香ちゃんの言葉に小さく頷く。 この短い旅行の間にいろいろあったなぁ。 忠義と喧嘩したり仲直りしたり、丸山くんに告られたり。 #近くて遠くてでも近い

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131 ...何かいろいろ思い出してたら頭ぐるぐるしてきた。 「茜！？」 美香ちゃんの声が遠くに聞こえる。 ぐらり、と視界が揺らめいた。 「茜！」 ...忠義の声が聞こえる気がしたけど、それを確認する間もなく、私の意識は途切れた。 #近くて遠くてでも近い

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132 ひやり、とした感触に意識が浮上する。 「ん...？」 「あ、起きた？」 目を開けたそこには忠義の顔。 「うわぁ！？」 思わず後ずさる。 そんな私の様子を見て忠義は苦笑いした。 「...そんだけ元気やったらもう大丈夫やな」 #近くて遠くてでも近い

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133 「え？あれ？私...」 「熱出してぶっ倒れてん。旅行来て熱出すとか子どもか」 「あー...」 テンション上がって、と言うよりは知恵熱的なもんだな。 この何日か私の周り目まぐるしかったし。 「ごめん...ありがとう」 「別に」 #近くて遠くてでも近い

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134 何か忠義、態度が変...。 「忠義...？」 「なん？熱下がったんなら、もう大丈夫やろ」 そう言って部屋から出ていこうとする忠義の腕を思わず掴んだ。 「...なん？」 溜息混じりに見られる。 ...そう言われても、自分でもわかんない。 #近くて遠くてでも近い

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135 何で忠義の腕掴んだんだろう...。 わからないけど、この手を離しちゃ行けない気がする。 「...行かないで」 「...はぁ！？」 「あの...まだ傍にいてほしいってゆーか、離れたくないってゆーか...」 ...あぁもう！何言ってんの！？ #近くて遠くてでも近い

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136 「...はぁ」 忠義は大きな溜息を一つ零して、ベッドサイドに腰掛けた。 「やっぱり子どもやな。昔と同じ」 ふは、と笑う。 ...あぁ、私の好きな忠義の笑い方だ。 「昔っから熱出すと俺に傍おって〜、て言うてたもんな」 「そうだっけ？」 #近くて遠くてでも近い

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137 「せやで。しかもおばさんやとダメで、俺やないとあかんかった」 昔を懐かしむように目を細めた。 優しいその目に心臓がどきどきする。 「...そうだっけ」 「そ。ほんで手ぇ繋いでくれなきゃ寝ない！とか言うてた」 そう言って私の手を握る。 #近くて遠くてでも近い

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138 「ほんま、茜は昔っから変わらんなぁ...」 ...覚えてないなんて嘘だよ。 私が熱出すといっつも忠義が傍にいてくれたの覚えてる。 お母さんでもお父さんでもダメで、忠義とじゃなきゃ寝付くこともできなかったんだ。 忠義がいてくれたら安心できた。 #近くて遠くてでも近い

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139 「...まだ熱あるから手握ってて？」 「やっぱり子どもやなw」 いつもの馬鹿にしたような笑い方じゃなくて、昔みたいに優しい笑い方。 ふんわりと甘くて。 ...勘違いしちゃうよ？そんな顔されたら。 #近くて遠くてでも近い pic.twitter.com/PPXDSDK4sY

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140 「大倉くん、こっちこっち〜」 テラス席から手を振って呼ぶ男、丸山隆平。 この間の旅行から何故か俺に絡んでくる。 ...何やねん、ほんま。 「...他のみんなは？」 「まだ来てへんよ」 てことは、コイツと２人きりか。 #近くて遠くてでも近い

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141 はっきり言うて気まずい。 コイツはどう思うてるんかわからんけど、俺は居心地悪ぅて仕方ない。 「ちょっと話聞いてもろてもえぇかな？」 「何？」 「僕なぁ、この前茜ちゃんに告ってん」 ...知ってますけど。 俺らもその場におったから。 #近くて遠くてでも近い

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142 「でも振られてしもた」 それも知ってる。 て言うか、コイツは何がしたいんやろう？ わざわざそんなこと報告せんでもえぇやん。 「茜ちゃん、好きな人がおるんやって」 「...は？」 茜に好きな人？ そんなん断るための嘘やろ。 #近くて遠くてでも近い

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143 「言うとくけど、嘘ちゃうよ。誰が好きなんかもちゃんと聞いたし」 ...ほんまに？ 全然知らんで、俺。 「もしかして、大倉くん知らんかったん？」 にやにや笑いながら聞いてくる。 ...何やねん、その顔。 ムカつくわぁ。 #近くて遠くてでも近い

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144 「...そんなこと話さへんし」 「そうなん？幼馴染みって言うてもそんなもんなんやね」 「...何が言いたいねん」 「別に？大倉くんって意外と茜ちゃんのこと知らんのやなぁ、て思って」 からから、とコーヒーを掻き回しながら笑う。 #近くて遠くてでも近い

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145 「...やったら何やねん」 「別にからかってるわけとちゃうよ。ただ素直な感想」 上げた顔は確かに馬鹿にしとる風ではなくて、どっちか言うたら真面目な顔やった。 「大倉くんは茜ちゃんのことどう思うてるん？」 「どうって...幼馴染みやん」 #近くて遠くてでも近い

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146 「ほんまに？」 やから、何が言いたいねん。 何かを含めたような言い方にイライラする。 「...茜ちゃん、かわいそ」 ぼそ、と呟かれた言葉にとうとうキレた。 「お前...何が言いたいねん！お前こそ茜の何を知ってるって言うんや！」 #近くて遠くてでも近い

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147 ばん！と机を叩いて立ち上がる。 ここがどこかなんて考えてへんかった。 「ただの幼馴染みやったら、もう手離したげたら？」 「は？」 「茜ちゃんは大倉くんの持ち物やないってこと、わかってるやろ？」 その言葉に俺は何も言い返せんかった。 #近くて遠くてでも近い

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148 茜が俺の物やない？ そんなことわかりきってるやん。 ...やのに、何で...。 「なぁ、ほんまはわかってるんちゃうの？自分の気持ち。何でブレーキかけてんの？」 俺の...気持ち？ 俺は茜のことどう思ってるんやろう...？ #近くて遠くてでも近い

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149 「大倉くんはさ、茜ちゃんに甘えてると思うわ」 俺が甘えてる？ 「茜ちゃんはずっと自分と一緒におると思ってるやろ？別々の人間なんやからそんなことは有り得へんよ」 そんなことはわかってる。 ...わかってる、つもりやった。 #近くて遠くてでも近い

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150 「なぁ、大倉くん。ちゃんと茜ちゃんと向き合ってよ。そんで自分の気持ちとも。そうしてくれな、僕が振られた意味ないやん」 丸山はへらり、と笑った。 その顔はいつものちゃらけた顔で。 でも言うてることは正論やと思った。 「俺は...」 #近くて遠くてでも近い