ブラインド・ボトムズ #3(再放送)(完結)

神通さんは今日も元気に中破浴衣姿で魚雷投げてます 2:https://togetter.com/li/1152928
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劉度 @arther456

蔵王艦長、東郷優月は佐世保鎮守府第1地区にいた。優月が話しているのはこの地区の提督、そしてこの鎮守府を治める最高権力者である河沙(がしゃ)元帥だ。「計画書は後ほど提出しますが、ガ島前線基地建設に関する大規模輸送作戦の承認を、今ここで頂きたくあります」22

2017-09-22 22:03:18
劉度 @arther456

「いいだろう。深海棲艦に対する楔を打ち込みたまえ」「ありがとうございます」鋭い目つきの男に、優月は深々と頭を下げる。「それと、報告にあった所属不明潜水艦についてだが」「何でしょうか」「これは深海棲艦ではないと、どうして君は判断したのかね?情報不足にも思えるが」23

2017-09-22 22:06:17
劉度 @arther456

「我が艦隊に同行していた、あきつ丸の分析です」「陸軍の悪魔召喚師か。深海棲艦は我々の管轄だ。外部の人間の判断は当てにならんぞ」「もちろん、それだけではありません。深海棲艦にしては、引き際が早すぎるのも、要因の一つです」「……ふむ」24

2017-09-22 22:09:13
劉度 @arther456

鬼や姫と呼ばれる深海棲艦は高いレベルでの戦術・戦略知識を備えているが、人類よりも対象に強く固執するという特徴があるのは、海軍内ではよく知られている。そのため引き際を誤り、総攻撃を受けて倒された深海棲艦も少なくはない。25

2017-09-22 22:12:04
劉度 @arther456

「駆逐水鬼と名乗ったあの怪物は、私の指揮艦を目前にしながら撤退しました。普通の深海棲艦なら攻撃を続行するはずです」「交戦のダメージが、君が考えるより深かったのかもしれないぞ?」「だとしても、主砲の射程内に収めておいて、全軍撤退という判断は深海棲艦にはありえません」26

2017-09-22 22:15:09
劉度 @arther456

「……つまり君はこう言いたい訳か」河沙元帥は軽くため息をつくと、言った。「何者かが深海棲艦を操る力を持っていて、奴らを利用していると?」「はい」「ありえん。……いや、そんな話はあってはならん。深海棲艦は一匹残らず絶滅させるべきだ」佐世保元帥の表情は全く変わらない。27

2017-09-22 22:18:03
劉度 @arther456

「この件については、私の方で調査しよう」「……そうですか。畏まりました、後ほど遭遇時の状況をまとめた報告書と、データをお送りいたします」それでは」優月は踵を返し、部屋を出ようとする。「待ちたまえ」それを河沙元帥が止めた。「まだ、何か?」ゆっくりと、努めてゆっくりと振り返る。28

2017-09-22 22:22:12
劉度 @arther456

「もし君が深海棲艦を自由に操れるようになったら、どうするかね?」はふ、と笑いにも似た溜息。「またまた、ご冗談を」「冗談だ。気軽に答えろ。深海棲艦を飼っている君の意見を聞きたい」佐世保元帥が冗談を言ったことなどない。「……そうですね」少し考えてから、優月は言った。29

2017-09-22 22:24:05
劉度 @arther456

「服を着てもらいます」「……服?」「真面目に目のやり場に困るんですよ、あの子たち」「……横須賀の元帥なら喜びそうなものだが」「そんなわけないでしょう!見えないものを恥じらいと共に見せてくれるのが至高であって、普段から丸見えだったらありがたみも何もありませんよ!」30

2017-09-22 22:27:02
劉度 @arther456

「もういい」その答えに、河沙元帥は呆れたようだった。「……失礼しました」優月は顔を真っ赤にして、足早に執務室を出た。外に出ると、不知火が早速白い目を投げかけてきた。「声量は抑えて下さい」「すまん。誤魔化すにはアレしかなかったんだ」二人は並んで歩き出す。31

2017-09-22 22:30:15
劉度 @arther456

「で、提督。仕留めますか?」「パス。ノー。っていうか揚げ足すら取れてない。あとせめて建物出てから言おう?」「警備を欺くならこのタイミングが最善ですが」「まずそんな物騒な手段でどうにかできる話じゃないから……」提督は誰かに聞かれていないか、せわしなく辺りを見回している。32

2017-09-22 22:33:09
劉度 @arther456

今回の輸送作戦を33地区に任せた張本人は佐世保元帥だった。そしてその作戦の最中に、艦隊ではなく提督を直接狙いに来る未確認勢力が現れた。何らかの関係性を感じ取り、元帥に直談判してみた提督であったが、佐世保元帥の鉄面皮を引き剥がすことはできなかった。33

2017-09-22 22:36:13
劉度 @arther456

「今回の敵は、水鬼を名乗りました。以前トラック島に来た戦艦水鬼、そしてあの研究施設と何らかの関わりがあるとは思いますが……」その作戦でも所属不明潜水艦が現れたことと言い、同一勢力だと考えるのが自然だ。「ですが、深海棲艦を嫌う佐世保元帥と関係があるとは思えません」34

2017-09-22 22:39:03
劉度 @arther456

「でも何かあるはずなんだよ、あの元帥なら」「……提督」不知火は、前々から思っていた疑問を遂に口にした。「佐世保の元帥と、昔何があったのですか?」途端に、ブツブツ呟いていた独り言が止まった。「……あったのですね」「ごめん、不知火。今は言えない。いつか言うから」35

2017-09-22 22:42:04
劉度 @arther456

「構いません。不知火は提督を信じます。ですから、必要だと思ったら、いつでも不知火にお申し付け下さい」「……ありがと」疲れた様子の提督とともに、不知火は佐世保の門を出る。もうすぐ冬になる季節の風は、二人の体を骨まで冷やすように吹き荒んでいた。36

2017-09-22 22:45:04
劉度 @arther456

【ブラインド・ボトムズ】おわり

2017-09-22 22:46:03