渋谷すばる×朱(あき)3

0
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【1】 年が明けてからも仕事が立て込んでいて、顔を出すことができなかった店に、久しぶりに行ってみた。 店のドアを開くと、 「いらっしゃい…」 あいつの静かな声が聞こえる。 「明けましておめでとう…今年もよろしく」 「こちらこそ」 型通りの挨拶を交わす。

2014-01-09 11:47:47
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【2】 「年明けから忙しかったね。体、大丈夫?」 「そこそこやな。でも、楽しかった。街も少し歩いてきたし」 「それもお仕事絡み?」 「まあな…そっちはどうやってん? 実家、帰ったんやろ?」 「うん…まぁ、いつも通り…ってとこかな…」 「一緒に来ても良かったんに」

2014-01-09 11:47:55
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【3】 「うん…でも、これも一つの親孝行だし。年に一度くらいは顔を見せないとね…心配かけてるし」 「そっか…」 「でもね…表情が明るくなったって言われたよ。自然に笑えるようになったね、って…」 「へぇ…」 「すばるたちのおかげ…」 「なんで?」

2014-01-09 11:48:03
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【4】 「この店を始めた時には、できなくなったら直ぐに閉めるつもりでいた。でも、すばるが来て、他のメンバーの人たちも来てくれるようになって、ここが自然に溜まり場になるようになって」 「別にあいつらは来んでもええのに…」 そう呟くと、あいつはクスッと笑う…

2014-01-09 11:48:10
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【5】 「そうやって毎日を過ごすようになって、私にとってもこの場所が大切なものになった。みんなのためにも、そして自分のためにもこの店を守っていこうと思えるようになった」 「…そうか」 「ありがとう…今まで言えなかったけど、本当に感謝してる」 「何や、いきなり…」

2014-01-09 11:48:17
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【6】 「あの日…私は、すばるを助けたつもりだったけど、本当は自分が助けられたんだ、ってずっと思ってた。私は、もう十分に幸せをもらった。だから…」 そこで、躊躇うように言葉を切る。 それで、何となく言いたいことが分かった。 「そこから先の言葉は聞かん」

2014-01-09 11:48:23
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【7】 「すばる…」 「俺は言うたはずや。いつでも覚悟はできてる、って。忘れたんか?」 「それは」 「俺だって、いろいろ考えた。お前が心配してることも、何度も。何度も自分に問いかけて、それでも離れられへんと思ったからここにおるんや。俺は、そんなに信用ないんか?」

2014-01-09 11:48:30
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【8】 「そんな事言ってない。でも…」 「でももへったくれもない!」 「すばる!」 沈黙が流れる… 「…今日のところは帰るわ…このままおったら、何するか分からん…」 そう告げると、俺は店を出た。 こんな言い争いをするのは実ははじめてのことじゃない。

2014-01-09 11:48:33
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【9】 あいつは、事あるごとに、俺に別れ話を持ちかけようとする。 その理由も、知ってる… あいつが抱えている秘密。 そのせいで、自分は二度と幸せになれないんだと思い込んでいる。 俺が不幸になると思い込んでいる。 それを知っていて、あいつの手を離すことなんてできない。

2014-01-09 11:48:38
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【10】 あいつの抱えている闇ごと、包み込んでやりたいと思っているのに、もうとうの昔に覚悟は決めているのに、あいつは、俺の気持ちがいつか変わってしまうと思っている。 それだけが、ただ哀しくて、虚しくて、俺は重い足を引きずりながら、街を歩き続けていた…

2014-01-09 11:48:44
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【11】 ドアがゆっくりと閉まる。 後味の悪い空気だけが残る… この話を持ち出すのは、今日が初めてではない。 すばるに魅かれていけばいくほど、大切な人になればなるほど、このまま側にいてはいけない、早く離れなきゃいけない、そんな想いばかりが強くなる。

2014-01-25 11:19:46
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【12】 彼を離したくない。 だけど… 離れなければいけない。 離さなければならない。 相反する想いが、私の中を占める。 すばるに幸せになって欲しい。 だから…でも… そうして、やっとの事で絞り出した答えは、真っ向から否定され、今に至る。

2014-01-25 11:19:53
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【13】 小さい頃から、特に目立ったところは何もなかった。 学生時代も、優等生でもなければ落ちこぼれでもなく、そこそこに校則を守り、こっそり校則を破り、人並みに恋をして、恋を失って。 このまま、可もなく不可もなく、平凡な人生を歩むんだと思っていた。

2014-01-25 11:20:00
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【14】 短大に進学し、それなりの経験もして、普通の会社に就職し、学生時代に知り合った人と結婚した。 二人とも子供が好きだったから、早く生まれるといいねって、よく話していた。 けれど、何年経っても私たちに子供ができることはなかった。

2014-01-25 11:20:07
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【15】 はじめは、授かりものだからとのんびりしていた私たちも、少しずつ心配になってきて、念のために検査を受けてみよう、ということになった。 そして、そこで突きつけられた現実は、その後の人生を180度変えてしまうものだった。 子供を産むことができない… 一生…

2014-01-25 11:20:14
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【16】 何度も夢であることを願った。 でも、いつ目覚めても、何度目覚めても、それは現実でしかなくて。 どんなに泣いても叫んでも変わることはなくて。 そして、追い打ちをかけるように結婚生活は壊れた。 優しかったはずの夫は、家を出ていき、やがて送られてきた離婚届。

2014-01-25 11:20:20
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【17】 やけになって判を押して、提出をして。 毎日、一人で泣き暮らしていた。 夫に捨てられた哀しみよりも、 離婚した悔しさよりも、 自分が子供を産むことができないことが、一番辛かった。 もう、自分が幸せになってはいけないと、言われているような気がした。

2014-01-25 11:20:27
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【18】 このまま人生が終わってくれればいいのに、と思った。 何度も、試みようとした。 でも、結局できなくて、泣き暮らす日々に戻っていった。 どれくらいそうしていたのだろう。 ある日、ふとこのままでは、自分は、ただの可哀想な人で終わるんだな…と思った。

2014-01-25 11:20:31
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【19】 今までの自分に、別れを告げようと思った。 どうせだったら、今までやったことない事をやってみようと思った。 中心地から少し離れた場所を借りて、店を始めることにして。 大きな哀しみを抱えた人が、一人でいられない時の居場所になればいいと、小さな願いを込めて…

2014-01-25 11:20:36
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【20】 最初は、それなりにトラブルもあったが、毎日はそれなりに充実していた。試行錯誤を繰り返しながら、日々は過ぎ、どうにか軌道に乗ったころ、すばるはやって来た。 小さな体に、大きな闇を抱えて、今にも潰れてしまいそうになりながら…

2014-01-25 11:20:41
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【21】 自分の背負う闇に今にも飲み込まれて、儚く消えてしまいそうな彼を、とにかく引き止めておきたくて、気になって仕方がなかった。 知らず知らずのうちに、目が彼を追いかけていた。 無理して強がって、名前も素性も知らない彼を連れて帰って、抱き合って…

2014-02-04 20:48:56
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【22】 今、振り返ってみてもその時の自分が、何故そんな行動を起こしたのかが分からない。 一目惚れなんて言葉では言い表せない、魂の何かが引きつけられた、というのは言い過ぎかもしれないけど。 一夜限りの関係だとしても、後悔することはなかった。

2014-02-04 20:49:02
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【23】 あの夜、私は、彼から何かかけがえのないものをもらったような気がする。 そして、彼は再び私の元に戻ってきてくれた。 少しだけ強くなって、私を包み込んでくれるような大きさを持って。 それでも、救急車のサイレンを聞くたびに耳を塞ぎ、ただひたすら堪える彼がいた。

2014-02-04 20:49:09
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【24】 前の恋人を亡くした時の話を聞いたのは、それからしばらくしてからだった。 仕事で家まで送ることができずに、別れた直後に、脇見運転の車が突っ込んで来たらしい。 知らせを聞いた時には全て終わった後で、彼女の通夜はおろか、葬式にも出席できなかったと…

2014-02-04 20:49:14
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

(・_・)【25】 車の放つ悲鳴のようなブレーキ音と、その後に続く救急車のサイレンを聞きながら、でも、まさか自分の恋人が巻き込まれていると知らず、いつまで経っても帰ってこないメールの返信を待っていたと。 だから、今でも救急車のサイレンを聞くと、彼女に責められている気がすると。

2014-02-04 20:49:19
1 ・・ 7 次へ