両手の握りしめを体の前で振って主張する。 「……なぁ、ユウ」 「なんでしょう?」 「俺にセクハラしたとか言ってたよな?それはいい人なのか」 「じゃあ、ハールさんはセクハラするけど心配してくれるいい人にしますね!」 「……墓穴掘ってしまった気がする」
2017-10-03 22:38:05「じゃあ、同じ部屋でもいいですね!」 「お前がいいならいいよ……」 「じゃあそういうことで、よろしくお願いします!」 ハールさんに向けて一礼する。 「ところでハールさん!お腹空いてませんか!」 「めちゃくちゃ減ってる」 「私もです!」
2017-10-03 22:41:10「確か一階が酒場になってるんだっけ?」 「そうです!ステーキが美味しいらしいですよ!」 「テンション高いな」 「だってステーキですよ!?お肉ですよ!?」 「放浪してると、そこらへんの動物捕まえて主食にするからなぁ……」 「ワイルドですね!」 「多分、褒めてくれてるんだろうなぁ」
2017-10-03 22:45:04「ワイルドなハールさんには、きちんと料理されたものはそれはそれで新鮮だとは思うんですよ!」 「まるで、俺の料理までもワイルドだと思ってる?」 「え?料理できるんですか?」 「当然だろ」 自信満々に答える。だけど、疑わしい。あまりにも疑わしい。
2017-10-03 22:49:24「本当なんですか?」 「ほー、疑うならそれでもいいさ。覚えてろよ。いつか作って、美味しいって言わせてやるからな?」 「……うわー、楽しみだなぁー」 「本当に信じてねぇのな?」 「お肉を魔術でこんがり焼いて料理って言い張りそうな気がしてなりません」
2017-10-03 22:52:00「……よし、その話はまた後日だ。今日は酒場で飯を食うぞ」 「そうしましょー」 そう言って私とハールさんは、なぜか拳を天井に向けて突き上げた。
2017-10-03 22:56:02席に着いた私はメニューを見ながらふと質問した。 「そういえばハールさんはお酒飲めるんですか?」 …………。 返答は返ってこなかった。ハールさんの方を向くと、余裕たっぷりな顔はなくすっと血の気が引いたような顔をしていた。 少し考えて固まっている理由を察した。察してしまった。
2017-10-03 23:00:06「もしかして、お酒飲めないんですか?」 「は?飲めるし?勘違いしないでもらいたいですし?さすがにこの年になって飲めないとかないですし?」 心なしか早口である。 「ハールさんが分かりやすく動揺しています……!」 「むしろお前こそ飲めるのかよ!?」 「え、余裕ですよ?」
2017-10-03 23:02:34「はー、強がりだわー。そういうのユウの悪いとこだと思うわー」 「じゃあ、麦酒二つ頼みますけどいいですか?」 「無理しなくていいんだぜ?ジュースとかでいいぞ。さすがに飲めないユウの前で酒を飲むとかできないから、ノンアルコールで手を打とうぜ!」 だんだん焦りが見えてきている。
2017-10-03 23:06:27なんかだんだん可哀想になってきた。流石に救いの手を伸ばしてやるべきかもしれない。 「ハールさん」 「何?」 「引くなら今のうちですよ。本当に麦酒を頼みますからね」 「…………」 数十秒の沈黙の後、ハールさんが口を開く。少し目が潤んでいるような気がするのは気のせいだろうか。
2017-10-03 23:09:26「飲ーみーまーすー!」 「えぇ……」 ここまで意固地だったのかこの人は。 「あんまり俺をナメないほうがいいぞ、ユウ。引くなら今のうちって言うのはこっちのセリフだ。泣くことになるのはお前だからな?」 「あーはいはい。すみませーん、注文いいですかー。まず、麦酒一つ!」
2017-10-03 23:11:56ハールさんは料理にほとんど手をつけることなく、机の上に突っ伏していた。 「グぅ……」 顔がすごく赤くなっているものの、気持ちよさそうに寝息を立てている。 「起きてくだーい。ステーキが来ましたよー」 揺すったり叩いたりしても起きる気配はない。 「……ダメだぁ」
2017-10-03 23:21:18改めて席につき、テーブルの上の2人前の料理をみる。 「残すのは勿体ないですよね……。食べきれるかな?」 心配しても無駄だ。とりあえず無理しない程度に食べておこうか。 「それにしても、意外な弱点ですね。ここまでお酒に弱いとは……」
2017-10-03 23:23:54第五話 初めてのクエスト
次の日の朝。 眠い目を擦りながら起き上がると、先に起きていたハールさんが軽く体を動かしていた。 「おはよう、ユウ」 「おはようございます。お酒は残ってないですか?」 「ん?何の話?」 「これは完全に記憶が飛んでるやつですね……!」 「?」
2017-10-04 22:27:41まあ、見た感じでは元気そうではあるし、酔いは残ってないだろう。ハールさんが戦闘中に倒れるなんてことはなさそうだ。 「いえ、なんでもないです。じゃあ、朝ごはんを食べたら二手に別れて情報収集をしまょう!」 「…………ああ、そうしようか」
2017-10-04 22:33:02宿屋に出た後、別々に魔物や魔王のことについての情報収集を始めた。お昼になったら街の中心にあるモニュメントの前で待ち合わせすることにしていた。 そしてお昼。 先に待っていた私の元にハールさんがやってきた。 「……ハールさん?どうでした?」 「収穫はなし。眉唾ものの噂しかなかったな」
2017-10-04 22:38:28「そうですか」 「お前は?」 「なんと大変なことが分かりました!」 「……聞こうか」 「こちらの男の子が言ってたんですが……」 といって私は後ろを振り返る。ずっと私の後ろに引っ付いていた小さな男の子が顔を出す。ぺこりとハールさんに向けて頭を下げる。
2017-10-04 22:42:22