#すばるとハロウィン

ひぃ∞ @hi_chan8er

1 『《ウェディングドレス？》』 常連のその女の言葉に 俺も安田も声を合わせた 「そう！ Amazonでポチしちゃった。 仮装用のがあってね 安いヤツだよ、 大層な代物ではないの」 えらい寒そうやな…10月やで？ #すばるとハロウィン

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2 話に相槌を打って、鏡越しで彼女の様子を伺いつつ パーマの落ち具合とカラーリングの色の変化を見ながらコームで髪をかきわける 「すばるくーん、ハロウィンの日 ここ 何時から開ける？」 #すばるとハロウィン

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3 『ええっ、、なんも決めてへんよ なんなん？ はよ来い言うんやったらできるけど、、なぁ安田？』 《お…おん、俺らだけの店やし都合つけるで》 この美容院は俺と後輩の安田で10年前にopenした 安田みたいにいつもニコニコできる奴が一緒でありがたい #すばるとハロウィン

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4 俺みたいな愛想笑いが愛想笑いと気付かれるような下手くそだけやったら、とっくに路頭に迷うてるはず 髪型もいろいろ好きにやりよるしなw #すばるとハロウィン

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5 「ハロウィンの日だけ、髪を青にしたいの そういうのできる？」 『洗ったら落ちるやつ？ ワックスとかムースとかいろいろあるで、クレヨンとかな』 「クレヨン？へぇー」 全体を揃えて梳きながら 鏡越しの彼女に答える #すばるとハロウィン

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6 『色こんなんて言うてくれたら、買うとくで。精算は当日で構わんし』 「うん、それで決まり！ 聞いてみてよかったぁ…」 『なぁ、なんでウェディングドレスなん？ や、あの、答えたくなかったらええねんで… あいつ…のことか？… なんか、あったか？』 #すばるとハロウィン

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7 シャンプー台に彼女の髪を広げて 目の上にガーゼを置きながら 耳元で尋ねた 安田がちらっと振り返る気配を感じた 「……答えがほしくて、ね？」 『こたえ？…え、なん…全然わからん…』 #すばるとハロウィン

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8 「いつまでも死んだ人を悔やんでも キャンセルした結婚式に泣いていても 答えが見えないでしょ？ 私はどうしていたらいいか 正解がほしいの 何かのきっかけになるかなって 一人でも ウェディングドレス着ることにしたの みんな仮装する日ならいいでしょ？」 #すばるとハロウィン

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9 【答え】 なんやそれ まだ手探りで生きとんのかい あ…おい、泣くなって 『あー、もうそのガーゼやるわ』 涙も思い出も全部拭いてしまえ シャワーひねって シャンプーして お前の抱えてる辛さも 全部洗い流せたらええのに #すばるとハロウィン

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10 2年前、俺とヤスは 友人を病気で亡くした 持病の発作だった 家で倒れているのを発見したのが 当時婚約者の彼女 今ここで泣いてるヤツ その時友人は既に息を引き取っていた #すばるとハロウィン

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11 彼女のことは 俺もヤスも 気にかけて見守ってきたつもり でも いつも危うくて儚げで 心配ばかりしているうちに 好きになった 俺が笑わせてやりたいと思うようになった 客と友達の間みたいな関係を 焦れったく感じていた #すばるとハロウィン pic.twitter.com/BZFStzCYvG

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12 ───ハロウィン当日 予約時間に走って店のドアを開ける彼女 膝に手をついて前かがみで息をきらしている 『そんな走ったん？』 「…遅刻しそうだったから」 LINEでも一本くれりゃ待っててやるのに #すばるとハロウィン

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13 秋らしい赤のスウェードのトートバッグから 小説らしき本を取り出すと バッグとフェイクファーのボレロを俺に預ける 『なんや、官能小説か？』 「 ち が い ま す ！」 彼女が着ているのは 血糊のついたウェディングドレス #すばるとハロウィン

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14 『化けて出たような花嫁やなぁ』 「w パレード行けば浮かないよ」 ケープをかける前に しげしげと鏡越しの彼女を見る 青のムースで全体を染めていく 『色どうや？』 「いい感じ、明る過ぎず暗過ぎず」 『雨でも落ちんねん、濡れへんようにな』 #すばるとハロウィン

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15 「ねぇ…」 『んっ？』 「誰と行くの？とか聞かないの？」 俺に聞いてほしいんか？ 『あ…えっと…誰と行くん？』 「一人で」 『へぇ…一人なんや』 「寂しいもんだよ」 ため息ついて そんな顔するなよ #すばるとハロウィン

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16 『…寂しなったら 戻ってこいよ』 「？」 『お前帰ってくるまで、店開けといてやるよ』 「すばるくん…」 『そないな顔すんな。ええ女が台無しやぞ』 俺 本気やから 「お世辞…」 『お世辞ちゃう』 驚いた顔の彼女と 鏡越しに目が合った #すばるとハロウィン

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17 《おはよ〜、渋やん早いやね あっ、いらっしゃいませ ♪ 》 ああ、もう！ ええとこでヤスが来てもうた！ 《あれ？タイミング悪かったんちゃう？ ちょっ、どっかで時間潰して来るわ》 『ちゃうって、ええねん、ヤス 気のせいやって、な！』 #すばるとハロウィン

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18 空気を読もうとしたヤスの肩を 両手でぐっと引き戻す 彼女は何事もなかったかのようにヤスと話し そのままパレードにでかけてしまった その日は平日でも定休日前やから お客は途切れず 気づけば閉店の時間になっていた #すばるとハロウィン

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19 ヤスは俺に何か聞きたそうやったけど 何も聞いてこんかった そして気を使うかのように ゴニョゴニョ言い訳しながら 早く帰って行った ごめんな、、ヤス 午後から降り始めた雨は アスファルトを黒く染め 街灯の下で光っていた #すばるとハロウィン

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20 髪の色 落ちひんかったかな 彼女 店はcloseの看板だけ出して 外で煙草を吸う 何気なく駅のある方の道を見ていると ヒールの靴を脱いで 自販機に寄りかかり 素足をハンカチで拭う彼女がそこにいた #すばるとハロウィン

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21 灰皿に煙草を押しつけて 急いで彼女に駆け寄った 『お前…なにしてん…』 「すばるくんのお店に行こうとして…」 恥ずかしそうに 情けなさそうに 俯きながら笑うと 「靴が痛くて、、 マメがそこらじゅうにできて 血が出ちゃって……」 #すばるとハロウィン

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22 手には点々と赤く染まったハンカチ 染めた青は全部落ちて ドレスとボレロに染み込んでいた 『あああっ、もう、！』 俺は彼女に背を向けてしゃがむ 『よしっ、ほら、ええから！乗れ！』 「…おんぶ？」 #すばるとハロウィン

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23 『おい、はよせぇ！！』 「重いからっ！」 『ごちゃごちゃ言うな…ほれ…』 冷たい腕が左右の首元に触れると 彼女の体幹が俺の背中に凭れた 濡れたウェディングドレスのひんやり感 そして彼女のぬくもり #すばるとハロウィン

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24 立ち上がって両手で膝の裏を支える おぶって歩きながら 後ろの彼女に 『送ってやるから、、とりあえず車行くで』 有無を言わせないように断言した 「……ごめん、すばるくん…」 重くないやん…ちゃんと食ってんのか #すばるとハロウィン

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25 『仮装して、どうやった？』 「みんな楽しそうでさ、浮いちゃったかな」 『あいつのこと、ちょっとは精算できたか？』 「……」 『答え…は？見えたんか？』 「…どうだろ」 なぁ、これだけは答えて 『あいつじゃなきゃ…あかんか』 #すばるとハロウィン