ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル ＃７

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「急すぎるだろ！よくねえよ！」「よせよK3」K2が諫めた。「男の度量を見せるんだよ、こういう時は」「泣いてるくせに！」K3が殴りかかった。「うるせえ！」K2が殴り返した。ディスカバリーは彼らを後目に、社長に言った。「俺が街まで送っていく。俺は軽傷だ。スシを食えば平気だ」　47

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「自分で行かれます」コトブキが固辞した。「皆さん、ズタボロですよ……」カンパニーの戦士たちはお互いのありさまを見て、息を吐いた。事実だった。トラック荷台への乗り込みが始まっていた。サワタリ社長は懐からバイオ笹タッパーを取り出した。「我が社のニンジャピルを渡しておく。餞別だ」　48

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「ありがとうございます」「これももらっとけ」ディスカバリーは真鍮製のバッヂをコトブキの手に握らせた。サワタリ・カンパニー社章だ。「……ありがとうございます！」「マナウスについたら、伝書鳩をよこす」サワタリ社長が言った。「その社章を追ってくる。なくさずにおけ」「わかりました」49

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……やがて、数台のトラックはマナウスに向けて走り出した。コトブキは荷台に座り、遠ざかりゆくセメンテリオを見た。K2とK3が走りながら手を振り続けた。コトブキは手を振り返した。「目まぐるしい出来事でしたが……とても素晴らしかった」コトブキは呟いた。「皆、クールでした」　50

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道は悪く、荷台はひどく揺れた。エンゾはコトブキの美しい横顔を眺め、やがて目をそらした。声をかけるのが憚られた。なにか畏れ多い気がした。己と関わりのない世界から、ひと時エンゾの目の前を通過する妖精めいて感じられた。（ありがとう、コトブキ＝サン）エンゾは口に出さず、感謝した。　51

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【エピローグ】

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「キュキューン！」「アバババーッ！」白熱する視界に正面を向いた半透明のピンクのイルカが焼き付き、そのビジョンはスライドしながら、視界の端にいくたびに反射を繰り返した。ファッショニスタは耳や目から出血しながら、必死に走り続けた。1

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「グワーッ！」ファッショニスタは斜面を転がり落ちた。かなりの高さを落ちた。伊達男のスーツは見る影もなく傷つき、汚れ果てていた。しかしそれが幸い、川は彼の逃げる方向から逸れ、イルカの攻撃範囲からも完全に外れた事がわかった。「ハアーッ……！ハアーッ……！チクショウ……！」　2

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草を這い、藪をかき分ける。惨めだった。力そのものであったボスが破れ、手勢も無い。「ギョワギョワギョワ！」「ママカ、ママカ、ママカ……」鳥獣の叫びすらも彼を嘲っているようだった。「チクショウ……！」だが、まだやりようはある。メガコーポ。麻薬組織。身を立てる方法は幾らでもある。3

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胡乱ニンジャ組織の分際で！彼から誇りを奪い、ソンケイを奪った！絶対に復讐してやる！「ハアーッ……！」ジャングルが開けた。ファッショニスタは草地を見渡した。錆びたベンチが置かれていた。そこにニンジャが座っていた。「ンン？お前は」ニンジャはファッショニスタを見た。サイグナスだ。4

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サイグナスは不純エメツの宝珠を両手で弄んでいた。「お前は確か……エル・キケンの」「貴様……！」ファッショニスタのニューロンを殺意が染めた。カンパニーの襲撃への対処に協力しなかったばかりか、セメンテリオから秘宝を盗み、おめおめと逃げ出したのか！「コソ泥めが！」 5

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「お前らにこの価値はわかるまい？」サイグナスはベンチから立ち上がった。「ヘリを待つのに飽きてきたところだ。まったくお前らの不手際で、こうして不便を強いられている……よかろう。遊んでやる」彼は悠然とアイサツした。「ドーモ。サイグナスです」「ドーモ。ファッショニスタです」6

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オジギ終了からコンマ2秒、ファッショニスタは襲い掛かった。「イヤーッ！」サイグナスの目が光った。その姿が霞み、四つに増えた。「な…」ファッショニスタは見開いた眼を血走らせた。「ブンシン・ジツ、アバッ」背中から貫通し、腹から生えたサイグナスの血塗れの手を、ファッショニスタは見た。7

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「手負いで向かってくる度胸は素晴らしかった。自身の組織への忠誠心もいい」サイグナスは手を引き抜き、血をハンケチで拭った。「そのカラテの内容如何で、取り立ててやらん事もなかったが……いや」サイグナスの目が険しくなった。「それは無いな。心底胸糞悪かったからな……貴様らのクソ砦は」8

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「ア…」ファッショニスタは起き上がろうとして震えた。サイグナスはファッショニスタを蹴り転がした。「サヨナラ！」ファッショニスタは爆発四散した。バラララバラララ……風が吹きつけ、サイグナスは頭上に飛来したヘリを見上げた。「何だ。今来たか」彼はベンチの宝珠を拾い、愛おしげに撫でた。9

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UNIXモニタの光を受けるサワタリ社長の表情は険しかった。「また何か問題でもあったか？」ディスカバリーが入って来た。「……問題……」サワタリ社長は低く呟いた。ディスカバリーはモニタを社長の肩越しに見た。エル・キケンと「過冬」のやり取りのログである。　11

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「アラスカのロシアン・マフィア」ディスカバリーが呟いた。「どうかしたか。それが」「……」サワタリ社長は腕を組んで、唸った。ディスカバリーは目をすがめた。そして社長の渋面の理由を知った。画面の端に、ニンジャスレイヤーの文字。過冬が「警戒人物」のタグをつけている。　12

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「シトカに……ニンジャスレイヤーがいるッてか」「ああ。シトカ。そのようだ」サワタリ社長が頷いた。「教えてやるのか？コトブキ＝サンに」「……」サワタリ社長は沈思黙考した。やがて言った。「……それが彼女の願いだ。伝えるとも。俺は知らん」社長は息を吐いた。「伝書鳩を飛ばす」13

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【ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル】終わり