(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)
2017-12-08 21:01:03「うわああああっ!?」「急げ、グラスゴー!」外洋へ逃げる軽巡棲姫を、瑞雲の群れが追う。それを、戦艦棲姫の機銃が迎撃する。オランダを攻めていた深海棲艦たちは、反転して凄絶な撤退戦へと放り込まれた。司令官の逃亡、そしてEU海軍の増援が到着してしまい、戦力が逆転した。1
2017-12-08 21:03:03「おのれ……あの空母め、次は必ず……」内陸部から自分の首を抱えて逃げてきたのは、ヴァンパイアだ。「お前なんで生きてるの!?」「うるさい!私が最後よ、あなた達も早く逃げなさい!」戦艦仏(ブッダ)棲姫が操る大仏が、前に踏み出す。「なっ!?おい、殿なら私が……」2
2017-12-08 21:06:02「タロス!?何やってるの!?」肩に乗る戦艦仏棲姫は、大きくうろたえていた。「どうした!?」「この子、勝手に動いてるのよ!」「なっ!?」思わず、戦艦棲姫は大仏の顔を見た。見慣れたアルカイックスマイルに、今はなぜだか意志と慈悲の色が見えた。3
2017-12-08 21:09:01「……もういい、早く降りろ!」「ダメよ、そんなの!今まで一緒に戦ってたのに、最後に私だけ逃げ出すなんて!」「いいから逃げろ!そいつの遺志を無駄にする気か!?」戦艦仏棲姫は、目に涙を浮かべ、大仏の横顔をじっと見つめ、そして、海面へと飛び降りた。4
2017-12-08 21:12:02大仏が堤防へ向かって歩き出す。既に大量の戦闘車両が待ち構えていて、無数のミサイルと砲撃が大仏に向かって放たれる。その間に、戦艦仏棲姫たちは外洋へと逃れることができた。最後に、戦艦棲姫は振り返り、敬礼をしてから、全速力で逃げていった。5
2017-12-08 21:15:02致命的な一撃が、大仏の胴を抉り取った。いかに神代の巨像といえども、砲撃を受け続ければ限界がくる。それでも大仏は歩みを止めない。その足を、砲撃が砕いた。大仏はバランスを崩す。「まずい、後退ーッ!」その先には堤防。上にいた戦車が慌てて逃げる。6
2017-12-08 21:18:01凄まじい地響きと水飛沫を上げ、大仏が倒れた。ちょうど、欧州棲姫によって穿たれた穴を塞ぐような形だった。倒れた大仏に、なおも砲撃が加えられていたが、それも直に止んだ。肩肘を突いて寝転がる大仏は、海からの水をせき止め、それ以上動くことはしなかった。7
2017-12-08 21:21:01【艦これBGM】「待ち伏せの夜戦 ボーカルver.」【10分ループ】 youtu.be/2Kxf3pb3t0c @YouTubeさんから
2017-12-08 21:23:01「失敗したなあ」魔霧に覆われたドーバー海峡に突入した駆逐水姫は、文字通り五里霧中の最中にあった。この霧は特別製で、電波も魔力も吸収し、レーダーを無効化する。日本軍がオランダに向かえないようにするために撒いたのだが、自分が困るとは思いもよらなかった。9
2017-12-08 21:24:00不意に、足元の海が大きくうねった。「おおっと」駆逐水姫はバランスをとる。物理法則を歪める魔力が大気中に満ちているから、思わぬことが起こる。あまり長居はしたくない。「早く来ないかなあ」海峡の出口で、駆逐水姫は蔵王が来るのを悠々と待つ。待ち伏せは潜水艦の得意分野だ。10
2017-12-08 21:27:00霧の向こうに、人影がぼんやりと見えた。間違いない、蔵王の艦娘だ。「みーつけたっ」にんまりと笑った駆逐水姫は、左腕をほどき、おぞましい肉の触手を露わにした。ただ殺すだけではもったいない。仲間だったものに襲われる恐怖を刻みつけるのは、彼女にとって何よりの楽しみであった。11
2017-12-08 21:30:04駆逐水姫は音もなく影に忍び寄る。近付くとそれは、大鎌を持った金髪の女性だとわかった。「え?」さっきの戦いに、こんな艦娘はいなかった。どこから現れた?駆逐水姫が瞬きをした次の瞬間、彼女は振り返り、駆逐水姫に向かって鎌を振り上げた。「――え?」12
2017-12-08 21:33:09「ハァーッ、ハァー……ッ!」ソードフィッシュが、スクアが追いかけてくる。欧州棲姫はそれらを必死に躱しながら、ドーバー海峡へ向かっていた。逃げ場はそこしか無い。北にはドイツ艦隊が、西からは彼女を追いかけている艦隊が迫っている。ドーバーは霧が濃かったが、構わずに飛び込んだ。14
2017-12-08 21:36:01追いかけていたエンジン音が遠ざかっていく。ひとまず、撒けた。ほう、と溜息をつく。「……なに安心してるのよ!」そんな自分に腹が立った。逃げ切ったから何だというのだ。結果は惨敗、それも指揮官の逃亡という、無様な敗北だ。15
2017-12-08 21:39:01「フューリアスさえいなければ……いや、そもそもどうして私は逃げ出したの……!?」後ろに回り込んだ新手は、大した戦力ではなかった。あの時の戦力で、十分に対処できた。引く意味は無かったのに逃げてしまった自分に、欧州棲姫は猛烈に怒っていた。同時にそれを、不思議に思っていた。16
2017-12-08 21:42:03――フッドは一瞬で轟沈した。自らの死を自覚しないまま水底に沈んだ。故に彼女は恐怖を知らない。死を本能で感じ取ることはできても、それを言い表す言葉を知らない。「こんな、こんなはずじゃない。私はできるの。ちゃんとできるの……!」うわ言を呟きながら、欧州棲姫は霧の中を進む。17
2017-12-08 21:45:02ぞく、と背筋が震えた。後ろに何かいる。とっさに振り返った彼女が見たのは、今まさに大鎌を振り下ろさんとする、金髪の女性だった。驚く欧州棲姫だったが、体は勝手に動いていた。ボウガンで飛ばしていた剣を、抜き打ちざまに横薙ぎに振るう!18
2017-12-08 21:48:00剣が届いた瞬間、金髪の女性は消えた。「――え?」代わりにそこにいたのは、ずっと小柄な影。青白い肌、同胞、深海棲艦。そう思った時、既に彼女の剣は深海棲艦の首を切り飛ばしていた。驚いた表情を浮かべたまま、深海棲艦の首が宙を飛ぶ。19
2017-12-08 21:51:01「なん――」状況を理解できない欧州棲姫を、さらなる衝撃が襲った。今度は物理的なものだ。幾つもの水柱が、彼女を囲むように上がる。「くうっ!?」辺りを見回す。霧が薄れている。見つけたのは、艦娘を繰り出す現代艦艇。横須賀第33艦隊旗艦、蔵王であった。20
2017-12-08 21:54:05