異世界シャワー

2
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

シャワー(Shower)とは水などを幅広く撒く、また身体に浴びるために、この幅広く水をまくための器具(シャワーヘッド、蓮口)を使用して噴出させ降下させるもの、およびこれらを組み込んだ装置を利用する行為である。ーーウィキペディア調べ

2017-12-25 19:25:25
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

ハンドルが軋む音を立てながら廻る。熱い湯がノズルより降り注ぎ、髪を、肌を、床を打つ。暖かな湯であることを主張することに余念がなく、途端に湯気が周囲に立ち込める。端的に言ってここは天国だった。

2017-12-25 19:28:53
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

男は熱い湯を浴びながら肩を念入りに洗う。男は既に数多の異世界に転生してきたテンセニストだった。彼が転生してまず探すのはシャワーである。そこが原始的であれ、幻想的であれ、近未来的であれ、シャワーは必ずある。異世界といえばシャワーなのだ。

2017-12-25 19:31:27
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

もちろん形状や仕組みは多岐にわたる。降り注ぐ源泉だったり、この世界みたいにハンドル開閉式だったり、部屋全体がシャワーになってて入室すると自動的に浴びせてきたり。例えどんな形状であれ、シャワーはシャワーなのだ。

2017-12-25 19:33:26
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

シャワーの存在は絶対であるが、男は必ずシミ浴びれるわけではない。特権階級の嗜好品になっていたり、シャワーの湯が人の身で耐えられるものではない場合もある。そんな時は男は降り注ぐシャワーを歯がゆそうに見つめるしかない。端的に言って地獄である。

2017-12-25 19:35:33
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

今回男が転生した世界は、男が初めて生まれた世界での認識でいう中世、ゆうなればファンタジー世界だ。転生が二度三度目の頃はそんな世界観なのにシャワーがあることに落胆したものだった。せっかくの剣と魔法の世界の雰囲気がぶち壊しだと。

2017-12-25 19:37:57
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

しかし今は男はもうそんなことを思うことはない。熱い湯をふんだんに浴びることは心地良いし、なんだかんだで世界の雰囲気なのだあった形状や設定をしている。なによりもーーシャワーを浴びれる世界は天国なのだ。

2017-12-25 19:39:27
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

男はひとしきり肩を洗い終えるとハンドルを軋ませながら湯を止める。そしてシャワーノズルを見上げ、恨めしそうに呟いた。「......また俺はあんたの掌の上ってわけだ。シャワー」

2017-12-25 19:41:37
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

男は転生を繰り返し、シャワーを浴びれる世界と浴びれない世界をさまよううちに気づいたのだ。浴びれる世界が天国であり、浴びれない世界が地獄だと。転生前での男の行動がどちらの世界に転生するかを左右する。異世界にシャワーがある事を問題にするのはお門違いなのだ。

2017-12-25 19:43:57
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

シャワーこそが神であり、数多の異世界の中で唯一の絶対的な存在。人の魂を惑わし、裁き、穢れを落とす、バスルーム。如何に抗おうとしても、必ず帰って来ざるを得ない、母なる存在。

2017-12-25 19:46:20
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

生きとし生きるものは生まれ落ちた時からシャワーへの欲求に抗えない。異世界を渡り歩き、数多のシャワーを見続けた男の結論だ。人はシャワーを浴びることでしか生きていけない。シャワーなき地獄で人は己の罪を悔いて、シャワーにあふれた天国を夢想する。

2017-12-25 19:48:41
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

異世界シャワーとは世界ごとに異なるシャワーの意。シャワーに寄って形作られた世界を生きる人々は気づけないのだ。シャワーのなんたるか、シャワーの本質、原初なるシャワー、創世のシャワーを。

2017-12-25 19:51:16
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

「分かってる......こんな事誰に言っても信じちゃもらえない。それほどにお前は世界に溶け込んでる。世界はお前無くしてありはしないのだから」男は踵を返すとシャワールームから出て行く。シャワーの支配をよしとしない男は、しかし晴れやかな顔で。

2017-12-25 19:54:47
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

「......また浴びにくるよ」 そう言いのこし男は新たな世界に旅立っていくのだった。 それはシャワーノズルから出た湯が、排水口を通じ、大会にいでるような。 そんな壮大な物語を予見させる光景だった。

2017-12-25 19:56:18