ちょっとだけ ＆ 月の話

ひつじ(ひっつん) @mogumogu_1260

#ちょっとだけ 0 「本番五分前です！」 『はい！』 ザワつく、お客さんの声 光り輝くライト こっちの世界と、現実を分ける赤いカーテン そして白いドレスを着る私 先生？あなたがこの景色見せてくれたの 考えもしなかった未来 先生…ありがとう 先生…会いたい

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#ちょっとだけ 1 悪魔の7時間授業を終え、部活に行く人などが次々に外へ出ていく中、私はいつものように残っていた わたしの他には、キラキラしている森川さんたちだけ そんな彼女達たちの話題に上がっているのは私たちの担任

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#ちょっとだけ 2 「村上先生ってカッコイイよね！」 「えぇー？うるさいだけじゃん」 「あの八重歯かわいいじゃん」 「怒ると八重歯伸びるよねｗ」 先生は良くも悪くも話題になる人で 「誰が八重歯が伸びるって〜？」 「わっ！村上先生」 みんなの太陽だった

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#ちょっとだけ 3 「なんもせんならはよ帰れよ〜」 「「「はーーい」」」 私はそれを隠れて見る月みたいな… 月だなんて、おこがましいか 「森野？なにポケーっとしてんねんｗ」 教室に先生と2人だけになって、魂を吸い取られたかのようにぼーっとしてた

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#ちょっとだけ 4 『あっ！すみません』 「暇やったら手伝ってくれへん？」 『へ？あ…はい』 「俺、部活に行かなあかんのやけどこれをホッチキスで留めて欲しいねん…すまんな」 『いえ…やっておきますね』 「じゃあお願いします」 すぐに村上先生は走って部活へいった

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#ちょっとだけ 5 先生が外に出たのを確認して、小さくガッツポーズをする 話せたっ！今日は村上先生と話せた！って 頼まれたのは来月にせまった、合宿のしおり綴じ ざっと100部は作らなきゃならない 『よしっやるか』

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#ちょっとだけ 6 単純で面白みのない作業だけど、村上先生から頼まれたって考えたら楽しくて仕方がなかった 『ふぅ…終わった』 時計を見るとまだ1時間もたってない 窓の外を見ると、キラキラした人がたくさんいた 汗のキラキラ…水のキラキラ…笑顔のキラキラ

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#ちょっとだけ 7 「青春」を謳歌するために生まれてきた、精選された人たちみたい… 目をすこし右にやると、村上先生がわーわー言いながら生徒と紛れてプレイしていた 『はぁ…』 ダメダメ…こんなことしている場合じゃない ノートを広げ、深呼吸をする

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#ちょっとだけ 8 ノートを広げ、深呼吸をする ベクトルの問題を解く aベクトルとbベクトルを用いてAPベクトルを求めよ こんなの将来いつ使うのか？ 答えは簡単 使うわけない… 使わないだけど解く こんな矛盾ばっかりの小さな世界に 私はいる

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#ちょっとだけ 9 『ん…わかんない…』 大問を5つくらい解いた時、分からなくなってきた… ベクトルを八角形に適合させた問題 わかんない…わかんない…わかんない いやだ…いやだ… どんどん、心拍数が上がっていく

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#ちょっとだけ 10 大丈夫だって！今お母さんいないでしょ？ っていう1人の自分と はやくしなきゃ！また… っていうもう1人の自分が頭の中で何度も入れ替わる 「森野〜？」 『はっ…先生？』 「なにそんな驚いてんねんｗ」 『いえ…ちょっとびっくりしちゃって』

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#ちょっとだけ 11 「そうか…笑 もうこれやってくれたん？すまんなぁ！大変やったやろ？」 『いえ…ぜんぜん大丈夫ですよ！』 「…ほんま言いにくいねんけど、明日もできる？あと、200部作らなあかんのやけど、大会近くて…」 先生に頼られてる？

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#ちょっとだけ 12 いや…これを頼むのは誰でも良くて、ちょうど暇だったのが私なだけ でも今だけ…うぬぼれさせて？ 『あっ！ぜんぜん大丈夫です…』 「ほんますまん！明日も頼むな！」 『はい！』 「なんこれ…？」 『あっ…えっと』 慌ててノートをとじる

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#ちょっとだけ 13 「わからんかったん？すごい消したあとあるけど…」 『は…い』 「お前、八角形下手くそやなぁ！！ｗ」 上手くかけなくて何度も、八角形を消したあとを先生に笑われる… 『うまく書けなくて…』 「丸をな、１回描けばええねん」 先生の声が変わった？

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#ちょっとだけ 14 『え？』 「八角形は１回、丸を描いてその丸を4つに分ける…そしてそれの間にまた点をうつ…」 遠くを見るような、なにかこわいものを見たあとのような目… 「そして、その点を繋ぎ合わせると…八角形うまく描けるで」

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#ちょっとだけ 15 『がんばってみます』 「頑張れ！じゃあほんまにありがとうな！ほなな〜」 いつもの声に戻った そして先生は教室から出ていった なんだったの？先生…

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#ちょっとだけ 16 やばい！！7時過ぎてる… ダッシュで、昇降口を出て家に向かう 帰りたいんじゃない…子供の義務で帰る 『た…だいま』 「遅かったわね」 リビングに入ると、私の顔なんかいっさい見ずに小さく呟く母 『……』 「なにしてたんだか…あんたはほんと…」

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#ちょっとだけ 17 母の言葉を遮るように、自室に帰る その後の言葉なんて、聞かなくてもわかってる 小さい時から言われ続けてきたから "あんたはほんとにできない子ね…なんでお姉ちゃんはあんなにできるのに…" 何度も何度も言われた

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#ちょっとだけ 18 そのたび、苦しくなって… 「月！ご飯よ！早く降りてきなさい」 でも、私はここで生きていくしかないの だって子どもだから

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#ちょっとだけ 19 …… 次の日は朝から、放課後が待ちどうしかった ただただ村上先生から頼まれたことをするだけだけど、その日は１日中ワクワクだった ６限が終わった… 「はい！お前ら前向け〜！」 先生の一言でみんなが従う

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#ちょっとだけ 20 右向けって言ったら、右を向く 左を向けって言ったら、左を向く それってすごいことじゃない？ 「えっと、みんな知ってると思うが合宿が終わったらこの学校伝統の 舞台が始まる」 「でたっ…だるいやつや」 「はぁ…」 口々にみんなは不満をのべる

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#ちょっとだけ 21 「だまれい！伝統なんやからしゃーない！んで、うちはロミオとジュリエットをやる！」 「はぁーーーー？まじで？」 「鉄板中の鉄板かよ…」 「だって…ロミジュリくらいしか思いつかへんかったやもん」 「ありえなーーい！！」 もう教室中飛び交う、非難の矢

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#ちょっとだけ 22 村上先生はどんどん小さくなってく 「もう決まったことやから！！明日、主役だけ決めるから考えておくように！じゃあな」 そう言って、挨拶もなしに放課後になった みんなが、 「村上先生ウケるわ〜！」 とか言ってる横を足早に通り過ぎ、職員室に向かう

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#ちょっとだけ 23 職員室のドアから覗いてみると、先生はマンガだったら、額に縦の線が入るくらいに落ち込んでた 先生でもこんなに落ち込むんだ… いつもと違う姿が見れてちょっと得した気持ちになった 『失礼します』 先生はこっちを向かない 『村上先生』

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#ちょっとだけ 24 「あっ！森野か…せやった！ プリント類持って行くから、前の面談室の中入ってて」 『はい』 そう言って先生は立ち上がり、印刷室の方へ消えていった 私は面談室へ入り座っておく 「すまんな〜」 大量のプリントを持って来た先生 『…え…』