異世界小話~異世界で女子大生がシャワーを浴びたり水洗トイレを使ったりする話~
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もちろんどこにでもある訳ではない。 でも迷宮中層の第七区画と呼ばれる一帯には、シャワーが群生していて、隣の第六と第四区画にも広がろうとしている。とんでもなく丈夫で駆除が難しい。 水洗トイレは迷宮上層の青の回廊を徘徊しているが最近は数が減ってきた。
2018-01-06 17:35:30シャワーは背が高く、たいてい明るい色の大輪の花をつけていて、暖かいお湯が好みなら赤、冷たい水が好みなら青を選ぶ。 移植はさほど難しくない。ただ根を張る力が強いので、家の中に置くのはあまりすすめられてない。シャワー小屋を作ってそこで使うのが基本だ。
2018-01-06 17:38:20水洗トイレの方は、恐らくシャワーと類縁なのだろうが、根は自走するための足に変わっているので、普通に屋内に置いて問題ない。ただそのままだとちょこまか動きまるので 剪定しておかないといけない。成長しきると丸まって岩のように硬くなり、最後は粉々になって種をばらまくので定期的に交換がいる
2018-01-06 17:41:04「シャワーは地下水を吸いあげるみたい。水洗トイレは濾過?してるんじゃないかな。どっちもすごいきれーな水が出るよ。でもきれいすぎて逆に肌荒れる感じかな」 異世界が二度目の友達に教えてもらってもぴんとこない。
2018-01-06 17:44:48「シャワーや水洗トイレは、なんでシャワーや水洗トイレなんでしょうか。シャワーや水洗トイレにとって、人間の衛生を守ることにどんな意味があるのでしょう…なぜシャワーや水洗トイレはこの世に生まれたのか…他者に尽くすためだけに」 異世界に来たばかりの女子大生、ちなみに山田花子さんは悩む。
2018-01-06 17:47:23「哲学的だね」 隣で服を脱ぎながら異世界が二度目の女子大生、佐藤ひろみさんは相槌を打つ。 「でもシャワーも水洗トイレも、人間だけじゃなくて、色んな魔物を招き寄せるんだ。迷宮って栄養があるところとないところがあるじゃない?ほかの生きものの汚れも、この子達には貴重なご飯なんだと思う」
2018-01-06 17:50:38「なるほど…この甘い匂い…」 「芯から出る蜜みたいなもん。ちょびっとだけ使って。汚れとかごりごりとれるけどうっかりすると髪とかパサパサになるし、肌もガサガサになる。あとで油塗り込まないときついよ」 「ふぇえ…」 「まあこの子達もご飯のためにやってるみたいだしね」
2018-01-06 17:53:15「使い方はあたしの真似して」 佐藤さんがシャワーの茎の中程にある、こぶみたいなふくらみを軽く握ると、暖かいお湯が雨となってふりそそぐ。 山田さんはおそるおそる横目で見るが、しなやかな弓のような友達の肢体につい釘付けになる。 「(あー…これはあんまりよくないかも…)」 視線をはがす。
2018-01-06 17:55:34まねをするとうまくシャワーが出てくる。暖かい。気持ちがいい。迷宮で色んなくさい、きたない魔物に遭遇したせいで、清潔さが天国のように快い。 「あったかい…」 「はーいきかえるー」 顔をあげて、正面からお湯を受け、恍惚としてから、またうなだれる。
2018-01-06 17:58:34ずっと甲冑を着ていたせいで凝っていた筋肉も、お湯が上からやさしくたたくにつれてだんだんほぐれてくる。 「あーあのお湯ってどのくらい使えます?」 「多分循環してるからずっと出しっぱなしでもだいじょうぶだよ。でも養分吸われすぎないでね」
2018-01-06 17:59:46「シャワーにはまってかさかさのミイラになって死んじゃった冒険者とかもいるってうわさ」 「ひええ…」 「あはは。まあうわさだけどね」 だがこの気持ちのよさ。確かに習慣性がありそう。
2018-01-06 18:00:43「でもなんか…異世界の…魔物がいっぱいいる迷宮の…かたすみで…こんな安全にシャワー浴びれるなんて夢みたいです…」 「迷宮は毒だの菌だのいろいろあるから、隠れ家には必須なんだよねシャワー…まあ手入れがちゃんとしててよかった…あいつもそこだけは…ん?」 「はい?」
2018-01-06 18:02:25山田さんの目の前に三つ、四つ、黒い靄のかたまりがあらわれる。 「ひっ」 渦巻く煙とも霧ともつかないそこから、なにかもっとはっきりした質量を持ったものが飛び出してくる。 「ひやああ!?」 「山田さん!?」 あわてて布でしきった隣のシャワーから佐藤さんが飛び込んでくる。
2018-01-06 18:04:01「あばばばば」 山田さんのでかい胸に毛むくじゃらの塊が二つのっかり、舌を出して耳をぱたつかせている。わりともっちりした二の腕ににも一つ。 「かーこのスケベチビども」 佐藤さんが胸に乗った子犬をひきはがそうとするが、意外にしがみつく力が強い。 「ちょっとー」
2018-01-06 18:05:39「だ、だいじょうぶです…い、いぬは好きですから」 「んもー…飼うのは許可したけどこんな増えるのまでは…」 山田さんの腕にしがみついていた仔犬が黒い靄をおびて消えると、いきなり宙高くにあらわれ佐藤さんの後頭部に着地する。 「はー…どうしようもない甘ったれだし」
2018-01-06 18:07:20「あんたたち地獄の猟犬でしょ?迷宮下層の泣く子もだまる希少な魔物じゃん。シャワーできもちよさそうにしちゃってまあ」 「シャワーや水洗トイレが魔物も引き寄せるって本当なんですね」 「まあねえ…ろくでもない人間もひきよせる、みたいだけどねっ」 佐藤さんが仔犬を思いきりぶん投げる。
2018-01-06 18:09:36まるでプロ野球選手のストレートのようなすばらしい速さで飛んでいき、なにかの遊びと勘違いした仔犬が歓喜の鳴き声を上げ、黒い靄となって扉をすりぬけると、向こう側でうめきがあがった。 “いやらしいまねをするな” 多分そんな風に言ったのだと思う。
2018-01-06 18:12:46異世界、というか迷宮とそのそばの街で使う言葉は主だったものだけで系統の違う五種類ほどがあり、佐藤さんは相手によってすばやく切り替えるので、 山田さんはうまく聞き取れない。でも今のは一番話す人が多い、赤き土の舌?とかいう言語で、冒険の休憩中に少し語彙を教えてもらった。
2018-01-06 18:14:42「チゲエヨ」 山田さんたちが来た元の世界の言葉で、ちゃんと返事がある。若い男の声。 「キガエ、モッテキタ」 佐藤さんは釈明に納得せず、裸のまま腰に手を当てて、赤き土の舌で早口にまくしてたててから、元の世界の言葉で繰り返す。 「この山田さんはあたしと同じ。あたしの半身だと思って」
2018-01-06 18:19:37