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帽子男 @alkali_acid
異世界召喚されたらなぜか敵モンスターの方がチートで無双してきた話
帽子男 @alkali_acid
佐藤さんが負けた。 世界で一番強い冒険者だった佐藤さんが負けてしまった。 迷宮の最深部で龍の寝床から財宝を持ち帰り、英雄とたたえられた みんなの中心で、かっこよくて、きれいで、つよくて、やさしくて、天下無双に思えた人が、負けた。 負けて塩の柱になってしまった。
帽子男 @alkali_acid
敵は因縁の相手。かつて佐藤さんが財宝を奪った龍だった。 紫水晶の鱗、黄金の角、牙、爪、翼、紅玉の双眸。 突然あらわれ、空を舞いながら理解できない言葉で呪文を唱え、命あるものを白い結晶にしてしまう。
帽子男 @alkali_acid
目撃していたのは、山田だった。佐藤さんの友達で、無能で非力で、くだらないことばかり言っているだけの 役立たずの女子大生。たまたま佐藤さんと一緒にこの、迷宮のある世界にやってきてずっとお荷物としてかばわれ、守られてきた。 いざという時にも何もできなかった。
帽子男 @alkali_acid
戦いが始まるほんのしばらく前までは、のんびりした雰囲気だった。 魔物がうろつく迷宮の中だというのに、くつろいでさえいた。 佐藤さんがあまりにも強かったから、何の心配もないかのように。
帽子男 @alkali_acid
佐藤さんは迷宮にある遺跡のひとつを調べていた。 環状列石、つまりぐるりと輪になった岩の柱で、そばには佐藤さんが倒した番人、巌鬼が倒れていた。 なぜ遺跡を調べていたかというと、ちょっとこみいった話になる。
帽子男 @alkali_acid
佐藤さんと山田が迷宮にもぐってしばらくして、迷宮の本来の出入口が崩れてしまい、外へ出るのが難しくなったためだ。 そこで迷宮の中で出会ったほかの冒険者とも相談して、別の出入口を探すことになった。
帽子男 @alkali_acid
迷宮のあちこちには、崩れてしまった本来の出入口と似たような雰囲気をもった人造の遺跡や建物があり、それらも出入口として使えるのではないかという 佐藤さんの推理による。あちこち探ってみると、いくつかは本来の出入口と同じように崩れたり、焼け焦げていたりしていた。
帽子男 @alkali_acid
遺跡のある場所の地面が爆発したのか、すり鉢状になった穴ができ、底にひび割れた釜がいくつか転がっているところもあった。 まったく謎ばかりだったが、佐藤さんはそういう場所をひとつ回るごとに推理に確信を深めていたようだった。 「無事な遺跡を探そう。きっと帰れるよ」
帽子男 @alkali_acid
「佐藤さんはすごいな」 山田は言った。 「そんな風にしっかり考えて、どんどん行動できるなんて本当にすごい」 佐藤さんは笑う。 「すごくないよ」
帽子男 @alkali_acid
「そもそも山田さんを無事もとの世界に帰す方法を探るために、まず昔の仲間と合流しようとして迷宮にもぐったのに、どんどん問題が起きて目標から遠ざかってる」 佐藤さんはよく研いだ剣みたいに鋭い横顔をうつむかせる。 「山田さんを守ろうと思ってたのに、逆に山田さんの考えに助けられてばかり」
帽子男 @alkali_acid
「そんな…私は何も」 「ほんとだよ。ありがとう」 佐藤さんがまっすぐ見つめてくると、山田はうまく言葉が継げなくなる。 「どう、いたしまして」 「うん」 握手をした。 なお佐藤さんは薄地の手袋をはめているが、山田は生きた鎧というごつい全身甲冑をつけているので、変な感じになる。
帽子男 @alkali_acid
五つ目に調べた場所で、ようやく無事な遺跡が見つかった。 佐藤さんは危険だからと、ほかの仲間を遠ざけ、ひとりで行こうとした。 「いつ、龍が来るかもしれない。あいつは迷宮と地上との出入口をすべて壊そうと狙っているんじゃないかと思う」
帽子男 @alkali_acid
「だからってお前ひとりで…」 佐藤さんの昔なじみの冒険者、嗅鼻氏が抗議する。 「あたしだけなら逃げるなり戦うなりできる。でもあんたじゃ無理」 有無を言わさぬ拒絶だった。もうひとりの仲間、草採君はそばで黙って不安そうに皆を見比べる。
帽子男 @alkali_acid
さらに嗅鼻氏が連れている犬、といっても実際は飼いならした魔物だが、雄と雌のつがいと三匹の仔は、そろって耳を伏せたままおとなしくしている。 ものごとを決めるのが誰かをよくわきまえている風だった。
帽子男 @alkali_acid
「ひとりであれこれ探るのは時間がかかるぜ」 嗅鼻氏はなおも食い下がる。 「ほかの遺跡にあった、例の妙な釜みたいのがあるかどうか、確かめるにしても地面に埋まってるかもだろ?お前ひとりじゃよお」 佐藤さんがまた口を開いて厳しい台詞を述べようとしたとき、山田が割って入った。 「あのっ」
帽子男 @alkali_acid
「わ、私が一緒にいくのはどうでしょう」 「だめだよ。山田さんは特にだめ」 即座に佐藤さんが切り返すが、嗅鼻氏と草採君、それに犬達は一斉に山田を見た。 「待てよ。ヤマダサンの話なら聞くべきだぜ」 「お、おれも、そう、おもいます」 さらに、わふわふ、という鳴き声も和した。
帽子男 @alkali_acid
「あ、私が、直接いくんじゃなくて、この、鎧が一緒に」 「鎧?」 山田はどぎまぎしながら説明した。 「こ、この前、その」 ちらりと嗅鼻氏と草採君を一瞥してから、ままよとまくしたてる。 「わたしが、おトイレにいっていたところ!その!この生きた鎧を、し、下だけ外していたのですが!」
帽子男 @alkali_acid
「そこで!魔物が出まして!あの!屍食いクワガタ、と佐藤さんが言っていた、その小さい子で!私はとっさに、あの!どうしていいかわからず、逃げようと念じたところ…鎧の下の…足甲?というのでしょうか。それが立ち上がって、勝手に…ひとりで…」
帽子男 @alkali_acid
山田の装備している生きた鎧は、頭に浮かべた命令によって半自動で歩いたり、戦ったりしてくれる便利なしろもので、かけだしの冒険者が迷宮を探索するには向いている。佐藤さんが、何もできない山田のために貸してくれたのだ。
帽子男 @alkali_acid
しかしその生きた鎧が、下半分を脱いだ状態で使おうとしたら、勝手にどこかへ歩き出したという話が、この状況とどんな関係があるのか。 ほかの仲間はぽかんとした顔をしている。 「それで、屍食いクワガタはびっくりして逃げてしまったのですが…あの…私…色々考えて」
帽子男 @alkali_acid
「この鎧がどこまで体から外した状態で動かせるのか、すこし試してみたんです…そうしたら…か、兜。この兜さえかぶっていれば、首から下は別々に動かせることが分かりました」 「山田さん。そんな危ないことひとりで…」 佐藤さんが声を詰まらせる。心配でたまらないという表情。
帽子男 @alkali_acid
「すいません!しろうとが勝手に…でも…自分が使っているものについて多少は知っておきたくて…あの…結果、私の目の届く範囲であれば、生きた鎧は首から下を体から離して歩き回らせられることが分かったんです」
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