異世界小話~異世界召喚されたらなぜか敵モンスターの方がチートで無双してきた話~

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帽子男 @alkali_acid

「ど、ドローン…みたいに…」 いっきに喋って、恥ずかしくなった山田はうなだれる。しばらく仲間のやりとりがあって佐藤さんが話しかけた。 「山田さん…すごいよ…」 「へ?」 「そんなこと思いついた人誰もいない」 「いや、ドローンなんて…みんな知って…」

2018-01-14 13:54:55
帽子男 @alkali_acid

「私はね。分かる。私がまだ生きた鎧を使ってたら思いついたかもしれない。でもこの世界に住んでる人はそう簡単じゃない」 「あ、あと…あの…生きた鎧は、短い命令なら念じるとまとめてやってくれるんです。あそこまでまっすぐ歩いて帰って来るとか」

2018-01-14 13:57:13
帽子男 @alkali_acid

「つ、土を掘るとか」 「プログラミング」 「…そ、それです!義務教育のときにちょっとやったやつ!」 「つまり…山田さんは、自分は安全なところから、鎧だけを動かして私を助けてくれる」 「そうです!!」 「…うん…いいね」

2018-01-14 13:58:20
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんはすこし考えた。顎を指でつつく。そのしぐさがいかにもこの世界、迷宮の景色になじんでいた。 「本当は…山田さんの目の届く範囲って近すぎると思う…鎧のそばに龍かあらわれたら見つかる恐れもある。でも生きた鎧の怪力は遺跡を調べるのに役立つ…速度も大事…やる。山田さんの案でいく」

2018-01-14 14:01:12
帽子男 @alkali_acid

遅かれ早かれ誰にでも思いつくことでしかないのに。また皆はおおげさに感心する。でも恐縮してばかりもいられない。山田も「お客様」ではないのだ、考えたことが実際に役に立つか、立たないか。それだけだ。

2018-01-14 14:03:06
帽子男 @alkali_acid

鎧はたいしたもので、うまく佐藤さんのあとについていき、環状列石のひとつの根元を、離れたところで見守る山田の命令に沿って掘り始めた。小石まじりの硬い土だったが、疲れを知らず小さなショベルカーのごとくはたらく。

2018-01-14 14:05:04
帽子男 @alkali_acid

「…生きた鎧の力の源って、なんなのでしょう」 遠目に眺めながら、ぽつりと山田がつぶやくと、そばの草採君がじっと耳を傾けて、ひそひそと嗅鼻氏と話し合う。まだこの三人は言葉が異なるためうまく意思疎通ができない。いつもは佐藤さんが通訳して会話している。

2018-01-14 14:06:41
帽子男 @alkali_acid

でも、嗅鼻氏も、佐藤さんから昔言葉を教わっているらしく、かたことならできるし、草採君は驚くべき呑み込みの良さで新たな言葉を覚えていく。山田がこちらの世界の言葉を覚えるよりずっと早い。 「タブン、メイキュウノ、チカラ」 「迷宮の力?」

2018-01-14 14:08:33
帽子男 @alkali_acid

この迷宮そのものに、鎧を動かす力が満ちているということなのだろうか。だとすれば、鎧は迷宮を遠く離れた場所ではうまく動かないのか。 いずれにしてもあんな便利なものが元きた世界にあれば、祖父の介護も楽だろうなと山田はふと考えてしまう。

2018-01-14 14:10:14
帽子男 @alkali_acid

天井とも空ともつかない高みから、差し込む青い陽射し。 作業はのんびりした雰囲気だった。次の食事さえうっすら脳裏をよぎり、また迷宮の魔物の命を奪い、それで空腹を満たすことに奇妙な気持ちになった。 「あ、何かが見つかったみたいです…もしくは大きな岩」

2018-01-14 14:15:36
帽子男 @alkali_acid

鎧にまとめて下せる難しい命令の限界は例えば 「すぐに掘り起こせないほど大きなものが見つかったら停止」 あまり複雑なものは無理だ。 「佐藤さんのようすは?」 嗅鼻氏が手でひさしを作って眺めてから、顎を指でつつく。この距離だとよく分からないようだ。

2018-01-14 14:17:37
帽子男 @alkali_acid

だが、いきなり寝そべっていた犬達が起き上がり、低くうなる。 仔犬達はおびえて山田の胸に飛びついた。 「なに…?」 嗅鼻氏が鋭いまなざしを天に向ける。龍だ。 きっと龍が近くにいる。でもどこに。 「アッ…」 草採君が掌を遺跡に向ける。 環状列石が輝いていた。輪の内側から、魔物の首が現れる。

2018-01-14 14:22:37
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんは正しかった。迷宮の出入口はあそこにあった。 でもその向こう側から、なぜか龍があらわれたのだ。 「そんな…」 龍は出入口を壊したがっていると思っていた。でも壊す前に使うことだってえきる。事実以前もそうした。最初の出入口を壊す時に。

2018-01-14 14:24:56
帽子男 @alkali_acid

嗅鼻氏が振り返る。 「ニゲロ」 おそろしく真剣な表情だった。 「ツヨイ。カテナイ」 「え、あの」 「ニゲロ!!」 続いて嗅鼻氏は草採君に話しかけ、相手が何かを拒むと、犬達に向き直って指示を与えた。

2018-01-14 14:26:46
帽子男 @alkali_acid

正体は地獄の猟犬、という魔物である二頭の黒い獣は、一方がいきなり草採君に飛び掛かって首根っこを咥えると、靄になって消えた。 もう片方が山田にも同じようにしようとしたが、三匹の仔犬が親に駆け寄ると、そちらを連れたまま片割れに続いた。

2018-01-14 14:28:52
帽子男 @alkali_acid

続いて嗅鼻氏は青い炎の鞭を伸ばして宙にふるった。 「ニゲロ!ハヤク!」 雲霞(うんか)のようなものが迷宮の虚空にはばたく龍を取り巻いている。そのあいだを、剣刃のまばゆい光が閃く。佐藤さんだ。どうやってか紫の鱗を持つ巨躯のまわりを跳び回り、戦いを挑んでいる。

2018-01-14 14:31:34
帽子男 @alkali_acid

雲霞の群が切れ端になり、こちらに押し寄せてくる。近づくにつれて正体が分かった。虫。透き通るような羽と口吻を持ち、子供ほどの大きさがある虫だ。 それらが龍から飛び立ち、襲い掛かって来たのだ。 「なに…?」 山田は硬直した。生きた鎧はそばにない。戦うことができない。

2018-01-14 14:33:58
帽子男 @alkali_acid

虫の一匹が、まっすぐ口吻を槍のように突き出して降りてくる。嗅鼻氏が鞭をふるうと、たちまち奇怪な魔物はまっぷたつになった。地面に転がってなお六本の足と四枚の羽がもがいている。

2018-01-14 14:35:37
帽子男 @alkali_acid

「ハナレルナ」 指示が変わる。嗅鼻氏の顔が緊張にこわばっている。いつもはちゃらちゃらした若者というおもむきだが、今は違う。 「赤き土の舌で!」 現地の言葉で話してくれと山田が頼む。 「逃げるのは無理みたいだ。地獄の猟犬が戻るまで、俺のそばにいろ」 できるだけゆっくり嗅鼻氏が説明する。

2018-01-14 14:38:03
帽子男 @alkali_acid

「わかりました」 山田はできるだけゆっくりはっきり答える。嗅鼻氏はそのあいだにも鞭を躍らせて、数匹の虫をまとめて倒す。とんでもない離れ業だ。白銀紋章という、冒険者としても凄腕なのだという。 「生きた鎧を、呼び戻せるか」 一息つくと尋ねてくる。

2018-01-14 14:41:02
帽子男 @alkali_acid

「はい…やってみます」 かぶっている兜に意識を集中する。とたん、いきなり視界が切り替わった。 どこだろう。誰かの胸の中に抱かれた赤ん坊のような視点。 目の前に龍の紫水晶の鱗が迫る。佐藤さんだと分かる。どうして。

2018-01-14 14:42:24
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんは、龍を取り巻く虫を踏み台にしながら、宙を飛び渡っていく。狙っているのは黄金の翼。鱗に覆われていない被膜だ。 迷宮の主は深紅の瞳を燃やし、いくども呪文を唱えるようだったが、むなしくはずれ、虫が塩の柱に変わるだけ。

2018-01-14 14:44:27
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんの胸に抱かれる視点で、戦いの一部始終を見ていた。 本当にとてつもない強さだった。龍と対等に勝負ができる人間が存在するなんて、物語の中だけだと思っていた。でも佐藤さんはできる。恐れない。ためらわない。着実に弱点を攻める。ほら、翼に切れ目を入れた。

2018-01-14 14:46:10
帽子男 @alkali_acid

「勝てる…佐藤さんならきっと…」 山田は夢心地に呟いた。 皮膜を裂かれた龍は、安定して浮遊していられなくなり、傾きながら落下を始める。佐藤さんは虫を次々蹴りつけながらじぐざぐに降って後を追い、細身の剣の切先で狙いを定める。次は、目だ。

2018-01-14 14:49:07