日向倶楽部世界旅行編第29話「歪んだ英雄」

最上達がブルネイで過ごしている頃、トラック泊地に一人の艦娘が訪れた。
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三隈グループ @Mikuma_company

加古というのは那珂と並ぶトラック泊地の猛者である、那珂と同様将軍の位を持った大エースで、彼女と共に数々の戦果を上げて来た。 また実力と共に地位にそぐわぬフレンドリーさを併せ持ち、那珂と他艦娘のパイプ役も務めるなど、円滑な艦隊運営には欠かせない存在でもあった。

2018-01-09 21:53:37
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そんな彼女の部下、実質的な補佐役というのはとても名誉な事であり、それを野分はやっていた。 最も、彼女にとっての加古は執務室でいつも寛いでいる怠惰な艦娘でもあった為、イマイチ尊敬できる人柄ではなかった。 那珂を100とするなら、7くらい尊敬していた。

2018-01-09 21:54:30
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故に今の地位には満足しておらず、いつか正式な那珂直属の部下として、そういう思いと共に彼女は艦娘生活を送っていた。 (那珂さんは昼食を終えているよね…) 午前の報告を済ませる為に執務棟へ入ろうとする野分、とその時、建物の前に立っていた一人の女が彼女に声をかけた。

2018-01-09 21:55:27
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「ここの者か?」 「えっ?は、はい。」 野分は突然の声かけに戸惑いながら返事をし、女の方へと目を向ける。 その女は少し筋肉質で背が高く、黒く長い髪をまっすぐ下ろしていた。 彼女は野分を見下ろし、穏やかな口調で言った。 「この泊地に、那珂という艦娘がいるな?」

2018-01-09 21:56:22
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「はい、那珂さんなら執務室に…」 トラックに来て那珂の存在を訊くというのは妙な話だが、野分は気にせず答えた。 女は彼女の答えに頷いて言った 「そうか、私は今日ここに到着したワタリ艦娘なのだが、代表に是非挨拶がしておきたくてな、良かったら会わせてもらえないだろうか?」

2018-01-09 21:57:21
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トラック泊地は艦娘の出入りが多く、ワタリ艦娘が来る事は別段珍しくない、野分は納得し彼女を執務室へ案内する事とした。 「ワタリさんでしたか、執務室はこっちです、着いてきて下さい。」 「ありがとう、すぐに済ませるから安心してくれ。」 二人は廊下を進み執務室へ向かった。

2018-01-09 21:58:28
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その途中、女は足を止めて訊ねた 「…那珂という艦娘はどんな艦娘だ?」 「はい、那珂さんは優しくて立派で…凄い人ですよ、きっと好きになると思います。」 「…そうか、分かった。」 野分の答えを聞くと女はまた歩き出した、一瞬険しい顔が見えた気がしたが、野分は気に留めなかった。

2018-01-09 21:59:20
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やがて辿り着き、野分は執務室の扉を開けた。 扉の向こうには那珂が執務をし、加古がソファで雑誌を読む見慣れた光景が広がっていた、野分はそこに恭しく声をかける。 「失礼します、ワタリ艦娘の方がご挨拶にと…」 彼女がそう言って女を招き入れると、二人はそこへ視線を向けた。

2018-01-09 22:00:35
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「なるほどな…」 女は部屋を見渡し、開いていた扉を閉める。そんな彼女を見て、加古は雑誌を置きながら言った 「へぇ〜、ワタリ艦娘かぁ」 それと同時、彼女の懐から野分の前に一枚のコインが転がってきた 「いっけね」 「加古さん…」 野分は呆れながらそれを拾おうと屈んだ

2018-01-09 22:01:30
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その時だった ガァン!と何かがぶつかる音が彼女の頭上から響き、一丁の拳銃が視界の端に落っこちた。 「…野分、そのままこっち来な」 戸惑う彼女の耳に加古の声、野分は言われた通り屈んだままそこを離れ、加古の後ろでゆっくり視線を上げる。 視線の先では加古と女が睨み合っていた。

2018-01-09 22:02:28
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「えっ…?何…?」 「野分、あのピストル拾って」 状況が呑み込めない彼女に加古は指示する、その声はいつもの気の抜けたものではなく、ヒリつくような低い声であった。 野分は転がっていた拳銃を慎重に拾い上げ、起こされていた撃鉄を戻す、それを確認すると加古は鼻で笑った。

2018-01-09 22:03:50
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「ハンッ、テメー拳銃の使い方知らねーのかよ、こんなんでしまっとくと危ねーって。」 奥歯を噛みしめる女に彼女は続ける 「ま、すぐに撃ちてーならそれもアリだろうけどよ…それを"ここ"でやって良いとでも思ってんのかよ、なぁ。」 加古は野分の前に立ち、吐き捨てるように言った

2018-01-09 22:05:41
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「左に一丁、まだ持ってんだろ…」 女の服にある僅かな膨らみを看破し、加古はジリジリと近寄る 「妙な真似すんじゃねーぞ…今度はマジに頭とか蹴るぜ…」 そう言って彼女は一歩踏み出す、だが次の瞬間! 「くそッ!こうなったら!」 女は左の懐から拳銃を取り出した!

2018-01-09 22:06:29
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それと同時!加古は絨毯を蹴って女性に飛びかかる! 「んなろッ!撃つんじゃねえッ!」 カポエイラの如きしなやか脚技と柔術の如き鮮やかな型が女の身体を搦め捕り、その身を床へとはっ倒す! 拳銃はその弾丸を放つ事なく床に転がり落ち、女は加古に床へと押さえつけられた!

2018-01-09 22:07:26
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「離せ悪魔の犬めッ!このっ!」 「ったく!電器屋にある金属探知機みたいなの買った方が良いかもなッ!チッ、暴れんな!」 加古に押さえつけられながらも女は暴れ、叫ぶ 「そいつは人殺しだ!悪魔なんだッ!」 叫び声を向ける相手は加古でも野分でもない、静かに様子を見ていた、那珂だ

2018-01-09 22:08:23
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彼女に向けて女は叫ぶ 「私の兄を殺した!お前なんだろッ!」 「何言ってんだテメーは!」 加古はその言葉に呆れ、力を強める、だが那珂は僅かに眉を動かした 「永井教人だ!覚えているかッ!貴様が殺した男の名前だ!」 そして永井教人という名前が出ると、彼女は静かに口を開いた。

2018-01-09 22:09:23
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「加古、その人を離して。」 「えっ?」 「な、那珂さん!?」 野分も加古も耳を疑ったが、那珂はもう一度同じ事を言った。 疑問を抱きながらも加古は注意深く手を離し、女を立ち上がらせた。 「…フンッ、寛大なところを見せて有耶無耶にする気か?悪魔らしい薄汚い考えだな!」

2018-01-09 22:10:24
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暴言を吐く女を那珂は黙って見つめる 「…貴女、名前は?」 「永井敬子だ!だが貴様を討つ名は、戦艦娘長門だ!」 女…戦艦娘長門は怒りの形相で今にも飛びかかろうとしていた、加古が居なければ飛びかかり、あらゆる手を使って那珂を葬ろうとしていたはずだ。

2018-01-09 22:11:30
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「那珂!貴様は出世欲に目が昏み、自分の戦果の為に何も知らぬ子供達を囮に使った!」 長門は声を張り上げて続ける 「そしてそれを止めようとした隊員を、私の兄を謀殺した!貴様は自分の為なら人の命を簡単に踏みにじれる!」 「この野郎…さっきからデタラメ抜かしやがって…」

2018-01-09 22:12:34
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無根拠な中傷の数々に我慢ならなくなった加古が長門の胸ぐらを掴む、だが長門はそんな彼女を嘲って言う 「フンッ、悪い奴の手口はよく似るな、まるでカルトの教祖じゃあないか。上手い事手下を丸め込んで、大した手腕だな!」 「那珂さんはそんな人じゃありません!何を根拠に貴女は!」

2018-01-09 22:13:26
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黙っていた野分もついに声を上げる、だが長門はそれをかき消すように怒鳴った 「根拠だと!?私の兄は死んだんだ!こいつが殺した!それに嘘だと言うのならこいつの口から何かあるはずだろう!黙ってるだけじゃあないか、それが何よりだ!」 彼女の言うように、那珂はずっと静かに黙っていた。

2018-01-09 22:14:50
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「デタラメというのなら貴様の口から否定してみせろッ!何もないなら、私は正義の一撃で貴様を討つ!」 長門は詰め寄るように叫ぶ、だが那珂は一言も話さずジッと彼女の目を見つめ、やがて静かに口を開いた 「加古、演習場の手配をお願い」 「えっ?」 「早く。」

2018-01-09 22:15:37
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低く圧する様な声に加古は戸惑いながらも頷き、野分に演習場の手配を指示した。 「何のつもりだ」 食ってかかる長門に、那珂は静かに答える 「私は軽巡洋艦娘那珂、それが答えだよ。」 「フンッ、舌先三寸で大物を気取って、そうやって欺き続けてきたのだなッ!」

2018-01-09 22:16:45
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長門はフツフツと沸き上がる怒りをぶつける 「まあ良い、すぐにその化けの皮を剥いでやる!そしてそれを、死んで行った者たちへの手向けとしてやるッ!」 執務室の外にまで響き渡る彼女の怒鳴り声、その声を背で聞きながら、野分は執務棟の廊下を走って行った。 〜〜

2018-01-09 22:17:44
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〜〜 演習場に出た長門は、怒りと正義に燃える瞳で正面を睨む。 遠方に立つのは悪魔、兄を殺し、子供達を殺し、口先で人々を欺き続けてきた偽りの英雄。 奴は静かに佇み、不気味な瞳でこちらを見ている、ああやって雰囲気で皆を誤魔化して来たのだろう、そう考えると彼女の炎はより一層強くなる。

2018-01-09 22:18:36