日向倶楽部世界旅行編第23話「トラック泊地・帝王の一族」

日向達がソロモン諸島を目指し始めたそのころ、トラック泊地では那珂がいつも通りの日常を送っていた。 だがそんなある日、彼女の祖父「四方園 智」がトラック島を訪れる…
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三隈グループ @Mikuma_company

【前回までの日向倶楽部】 扶桑です。 ヒューガリアンに迫る危機を皆さん力を合わせて切り抜けてくれました。 しかもそれだけではなく、三隈さんが私の為に新しい機能を付け、私が艦橋に居続けなくとも良いようにして下さったのです、改めてよろしくお願いしますね。 しかし今回はまた私達のお

2017-11-14 21:30:16
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【前回までの日向倶楽部その2】 ザイアンを新技「ダブルディスパッチ」で撃破した日向達。 それはさておきヒューガリアンに自動航行システムが実装され、扶桑が移動中も船内を自由に動けるようになった、その流れで一行は補給の為ソロモン諸島を目指す。 が、今回は再びトラック泊地に舞台が移る。

2017-11-14 21:31:09
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日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第23話「トラック泊地・帝王の一族」

2017-11-14 21:31:41
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〜〜 ここはトラック島、対深海棲艦拠点トラック泊地を有する要衝にして、三隈グループの企業城下町を抱える経済都市である。 かつてこの諸島群は深海棲艦によって壊滅的な打撃を受けた、しかし弛まぬ努力によって復興を遂げ、現在では先進国顔負けの街並みが広がっている。

2017-11-14 21:32:12
三隈グループ @Mikuma_company

そんなトラック島市街地にある大きなホール、その壇上で一人の艦娘が講演を行っていた。 焦げ茶色の艶やかな髪、白と橙色を基調としたドレス、そしてたなびく純白のマント、ホールにひしめくハイスクールの生徒達の視線を一身に受けながら、その艦娘は優しく、力強く言葉を紡いでいた。

2017-11-14 21:33:09
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よく通る声がホールに響く、ハイスクールの生徒達と言っても十にも満たない子供から大学を目前にした青年まで様々、時計をチラチラ見る者や、薄目で下を向いている者もいる。 だが大半の生徒達はその艦娘に熱い視線を向け、食い入るように耳を傾けていた。

2017-11-14 21:34:10
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やがて艦娘が話を終え優雅に一礼すると空気が割れんばかりの拍手が起こる、その音に吊られ、こっくりこっくりしていた者も手を叩き始める。 しばらくしてその音が止むと、端に立つスクールの教員がマイクを点けた 「以上軽巡洋艦娘、那珂中将のお話でした、ありがとうございます。」

2017-11-14 21:35:11
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艦娘の名は那珂、ここトラック島で知らぬ者は居ない英雄的艦娘である、ハイスクールの依頼を受けた彼女は、講演のためにこの壇上に立って居た。 「皆静かに聴いてくれてとても話しやすかったです、ありがとう。」 集まる視線に向け微笑みそっと手を振ると、また大きな拍手が起こった。

2017-11-14 21:36:23
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そんな彼女に教員は再び礼を述べ、次の予定を確認する、講演の後は那珂について記録されたビデオが流される予定であった。 「では続いて、中将の活躍を収めた…」 だが教員がそこまで言うと、那珂はそれを制した 「あのビデオでしょう?見た事ある人も居るんじゃないかな。」

2017-11-14 21:37:13
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そうでしょう?といった風に那珂は微笑む、流される物の中身を彼女は知っていた、決まって同じものが流されるのだ。 それはテレビでも流れたし、公式ホームページでも閲覧出来る、動画サイトにだって何度も転載されている、最早ローカルCM並みにお馴染みの見飽きた代物であった。

2017-11-14 21:38:09
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そんな物をバカでかいスクリーンで観たところで未来ある子供達のプラスにはならないだろう、そう考え彼女は教員達に持ちかける。 「折角来たのだから、もう少し話をさせてもらえるかな?」 予定ではここで帰るのだが、スケジュールには僅かなゆとりがある、少しの時間なら取れるはずだった。

2017-11-14 21:39:09
三隈グループ @Mikuma_company

当然教員達は戸惑う、ありがたい話だが、多忙の身である那珂を引き留めるのは難しいと考えていたからだ。 そんな彼等に那珂はまた優しく微笑み、壇上のマイクを手に取った 「…何か、訊きたい事がある人はいるかな?」 彼女が尋ねると、答えの代わりに無数の手が上がった。

2017-11-14 21:40:10
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ビシッと上げられた手、ゆらゆらと揺れる手、少し低い位置で必死に存在を示すように振られる手、そんな無数の手の中から一つを指した。 「お休みの日は何をされてるんですか?」 ハキハキとした声で質問が飛び出す、発言者は好奇心のありそうな女子生徒、歳は17くらいだろうか。

2017-11-14 21:41:12
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その質問に那珂はすぐ答える 「休みの日は皆と変わらないかな、音楽を聴いたり、身体を動かしたり、普通に過ごしてるよ。」 変装して街に出ているとは言わなかったが嘘も言っていない、当たり障りのない回答である。それでも皆が関心を寄せる程、彼女の一挙手一投足は重かった。

2017-11-14 21:42:11
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「どうして歌おうと思ったんですか?」 13歳程の男子生徒が質問した。 那珂が炊き出しの後、皆の前で歌を歌っていたというのは有名なエピソードである。 それに関する問いに彼女は目を伏せ、思い出すように答えた。 「…多分、出来る事を探してたのかな。」

2017-11-14 21:43:13
三隈グループ @Mikuma_company

瓦礫と焼け跡が広がり、焦げ臭さと死臭が漂う陰鬱な島、それが那珂の初めて見たトラック島であった。 「艦娘になったからには戦うのが仕事…でもね、島や人を見てたら、それだけじゃ居られなかった。」 だから彼女は突き動かされるように、抗うように、歌ったのである。

2017-11-14 21:44:10
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「…実はね、最初に歌ったのは炊き出しの後じゃないんだ。初めて歌ったのは、死んだ人を埋めたり燃やしたりする時。」 深海棲艦の脅威に怯える島には、葬儀をする時間も物もなかった。 「お供え物もないからね、せめてもと皆で歌うんだ、それが最初だった。」

2017-11-14 21:45:11
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生者に勇気を、死者に安らぎを、そういった意味も含め、彼女のコンサートは現在も定期的に行われている。 「暗い話でごめんね。ライブでは明るい歌も歌うから、機会があったら聴きに来て欲しいな。」 那珂は少し雰囲気の暗くなってしまった聴衆にウインクをし、他に質問はないかと切り替えた。

2017-11-14 21:46:16
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次に指名したのは10歳になるかならないかという女の子であった、その娘は周りに比べ小さいながらも精一杯手を挙げていた。 「えっと、私も将来、那珂さんみたいなすごい艦娘になりたいです…けど、どうすればなれますか?」 舌ったらずな声がそう言うと、那珂は悩ましく頷く。

2017-11-14 21:47:14
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艦娘になりたい、貴女のようになりたい、小さい女の子からティーンエイジャーまで、那珂が訪問した先では決まってこういう言葉が待っていた。 そして毎度のように言葉に詰まる、自分でなければ、例えば戦友である加古や足柄ならすんなり答えられるのだろうか、詰まり、悩み、繕うように微笑む。

2017-11-14 21:48:11
三隈グループ @Mikuma_company

やがて精一杯の答えを出す 「そうだね…私としては、貴女が艦娘になれる頃には艦娘が必要なくなっている事を願っているの。」 艦娘がカジュアルな職業として成り立っている今、この文言には少々無理があった。 しかし無垢な質問者の少女は表情を曇らせ目を瞬かせる、ショックなのだろう。

2017-11-14 21:49:15
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「…でも」 だが、那珂もそこで突っぱねっ放しにはしなかった 「もし私達が上手く行かなくて、深海棲艦を倒しきれていなかったら、そしてその時まで貴女が艦娘に憧れていたら、誰かを守る為に戦う勇気があったら…」 そこまで言って一息つき、女の子に優しく笑いかける

2017-11-14 21:50:12
三隈グループ @Mikuma_company

「是非力を貸して下さい、一緒に戦いましょう。たとえ未熟だったとしても、大切な誰かを守ろうとする貴女とその勇気を、私は必ず守ります。」 優しさと力強さの入り混じった声がホールに響き、受けた女の子の表情が明るくなった、那珂はそれを見て更に続ける。

2017-11-14 21:51:09
三隈グループ @Mikuma_company

「だから今は身体と身近な人を大切にしてあげて、貴女の人生の積み重ねは、必ず貴女の力になるから。」 そう言ってもう一度微笑みかけると、女の子は大きな声で礼を述べた。 この言葉があまりに響いたのか発言権の争奪戦は更に激化する、挙げられた手は海のように波のように激しく揺れた。

2017-11-14 21:52:12