日向倶楽部世界旅行編第23話「トラック泊地・帝王の一族」

日向達がソロモン諸島を目指し始めたそのころ、トラック泊地では那珂がいつも通りの日常を送っていた。 だがそんなある日、彼女の祖父「四方園 智」がトラック島を訪れる…
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三隈グループ @Mikuma_company

那珂はそれらを指名しながら質問に答えて行く、他愛のない質問には軽い冗談を交えて返すと、ホールには明るい笑い声が響いた。 そうしているうちに時間は経ち、答えられるのもあと一つという頃合いになって来た。 「じゃあ最後の人は…」 ホールに広がる無数の手を見渡す

2017-11-14 21:53:10
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その中の一つ、やけに白い手を那珂は選んだ、手の主は大人びた女の子、髪が長く目元が隠れていた。 「…艦娘になって、嫌だった事ってありますか。」 その子は聞き覚えのある声でそう質問した、那珂は少し驚くが、即座に答えを返す。 「無いよ、嫌だと思った事は一度もない。」

2017-11-14 21:54:10
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じゃあ、辛かった事は?即座に訊き返される、試すように。だが那珂は動揺なく、否定もなく答える 「辛かった事はある、何度もね。」 そして続ける 「でもその度に誰かの笑顔を思い出す、それを見続けたいから私は那珂を辞めない、分かるかな。」 言い切ると、答えは直ぐに返ってきた。

2017-11-14 21:55:10
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「ウソ言わないでよ」 女の子はそう言って那珂を睨む、その目を見たとき、那珂は彼女の正体に辿り着いた。 〜〜

2017-11-14 21:56:13
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〜〜 ふと気付くと、那珂はざわめく聴衆達の心配そうな目に囲まれていた 「中将、大丈夫でしょうか…?」 教員が恐る恐る声をかけた 「…?どうかした?」 「い、いえ…先程から遠くを見て黙っていらしたので…」 教員によると2分ほどそうしていたらしい。

2017-11-14 21:57:11
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那珂は女の子のいた場所に視線を向ける、あれが幻であった事を証明するようにその席は空いていた。 幻覚、そう断じるとすぐ、彼女は教員の方を向いた 「ごめんね、ちょっと考え事しちゃって。」 取り繕うように微笑むと、教員は納得したように相槌を打った。

2017-11-14 21:58:11
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そんなやり取りを終えると、遂にここを発たねばならない時刻となった。 改めて那珂は生徒達の方を向く 「今日は私の話を聞いてくれてありがとう、もう少し話していたかったけれど、私はここで失礼します。」 優雅に頭を下げると拍手が鳴り響く、喝采の中彼女はホールを後にした。 〜〜

2017-11-14 21:59:12
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〜〜 その後すぐ、那珂は来賓として劇場に足を運び、そのままパーティに参加、劇場関係者らと食事を共にし、夜遅くにスケジュールを終えた。 「ここで良いよ、貴方もお疲れ様。」 車を降りて運転手を労い、彼女は自室のある高級マンション「ダイアンサス」へと入って行く。

2017-11-14 22:00:16
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夜も遅かった為鎮守府も眠りにつき始めており、コンシェルジュも既に無人、それでも那珂は優雅な立ち振る舞いで廊下を歩いて行く。 やがて自室へと帰った彼女は髪を解いて顔を洗うと、糸が切れたマリオネットのようにベッドに倒れ込んだ。 〜〜

2017-11-14 22:01:12
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〜〜 翌朝、那珂はいつも通り執務室へと出勤した。 この日は内務が主、執務に備え机のコンピューターを起動しタブレット端末にログインすると、業務連絡として送られている大量のメッセージに目を通す。 「うん…うん…」 内容は様々、訓練内容や軽い報告、収支の明細まで幅広い。

2017-11-14 22:02:09
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那珂はその全てに目を通す、いずれも昨日内務に当たった加古と野分が対応しているはずだが、それでも全て読破する。 そして小さな缶コーヒーを飲み終えた頃、彼女は読了し端末を置く。 「…大丈夫だね」 空き缶をゴミ箱に入れ大きな執務椅子に背を預ける、革の擦れる音が静かな執務室に響いた。

2017-11-14 22:03:10
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やがて午前八時の鐘が鳴ると提督の私室に繋がる扉が開き、提督が執務室へと入って来た 「おはようございます提督」 「おはよ…」 提督は欠伸を抑えながらティーカップを取り出し、パックの紅茶をこさえる 「飲む?」 「うん」 それを那珂の前に置き、彼はもう一つ用意した。

2017-11-14 22:04:09
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湯気を立てる紅茶片手に彼は尋ねる 「昨日はお疲れ様…パーティはどうだった?」 白い湯気を眺めながら那珂は答える 「うん、美味しかったよ」 「そっか…」 淡白な返事にシンプルな反応、静かな会話の隙間からは小鳥たちのさえずりも聴こえていた。

2017-11-14 22:05:11
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「そっちは?」 今度は那珂の方から尋ねると、提督は軽く笑った 「問題無し、話は纏まったよ。」 昨夜那珂がパーティに招かれた一方で彼も別の食事会に参加していた、来賓として参加した彼女とは対照的に、接待として招く側であったが。

2017-11-14 22:06:10
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泊地と島は円満な関係を築いている、トラックの人々にとって艦娘は極めて身近であったし、険悪な関係はほとんど無かった。 だがそれは人と人との話、そこが穏やかだとしても、公や政の世界となると少々ややこしい事もある、艦娘といっても武器を持っているのは事実なのだ。

2017-11-14 22:07:09
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そういう所をどうにかする、ここにおける提督とはそういう役職であった。 「そういえば、例の石はどうなった?」 提督がふと思い出す、例の石とは先日下水道地下で倒した巨大蜘蛛の落とした残骸である。 「足柄に調べてもらってるけど、まだよく分からないって」 「そうか…」

2017-11-14 22:08:09
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巨大蜘蛛も深海棲艦同様倒すと砂のようになって消えてしまった為、手がかりはあの時拾った石のみ。 「足柄でも手こずるとなると、相当な代物みたいだな…」 提督は溜息をついて紅茶を飲む、那珂も同じように紅茶を飲む、朝のゆるいティータイムが過ぎる。

2017-11-14 22:09:12
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やがて提督は同じパックで二杯目の紅茶を注ぎながら訊ねた 「朝食べた?」 那珂は首を横に振る 「トースト焼こうか?」 「うん」 提督は食パンを取り出しトースターの蓋を開く、何枚?一枚、という会話をすると、彼は食パンの賞味期限を確認してから二枚を焼き始めた。

2017-11-14 22:10:09
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そして二人がこんがり焼けたトーストを齧るうち、始業の時間が近づいて来た。すると執務室の扉が開き、加古と野分がやって来る。 「おはようお二人さん、早いね」 「司令、那珂さん、おはようございます。」 加古は来るなりソファでくつろぎ始め、野分は今日の予定を確認する。

2017-11-14 22:11:15
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それをし終えたところで野分が何かを思い出す 「あっ、昨日那珂さんに会いに来たって人が居ました。」 ですよねと確認すると加古も二つ返事で頷く、だが那珂は端末を見て首を傾げた 「そういう連絡は無いね…」 アポは取られていない、だが話を聞く限りでは緊急性も無いらしかった。

2017-11-14 22:12:14
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「その人、何か言ってた?」 那珂が尋ねると加古は思い出すように答えた 「あー…"ヨモゾノ アキラ"って言ってたな、そう言えば分かるって」 ヨモゾノアキラ、その名を聞いて那珂は提督と顔を見合わせた、そんな二人に加古は尋ねる。 「何、二人は知ってんの?」

2017-11-14 22:13:13
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その問いに那珂は頷いた 「…四方園 智(ヨモゾノ アキラ)、私のお祖父様だよ。」 「!?」 〜〜

2017-11-14 22:14:11
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〜〜 その日の昼前、那珂は提督と共に応接室へと向かっていた。目的は一つ、四方園智、日本より会いに来た祖父と面会する為である。 いつも通りの堂々たる立ち振る舞いで廊下を歩き、応接室の前へとたどり着く。 待っていた祖父のガードマンが扉を開くと、二人は応接室へと入った。

2017-11-14 22:15:09
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部屋では待機していた加古と野分、そして一人の老爺が椅子に腰掛けていた。 「おお、来たようだね」 二人と談笑していた老爺は会話を切り上げ那珂達の方を見る、白髪と白い髭を蓄え、深いシワが刻み込まれた男、だがその眼光は鋭く、強さと威厳を醸し出していた。

2017-11-14 22:16:19
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彼こそが那珂の祖父、四方園智である。 「お待たせして申し訳ありません、先生。」 那珂が恭しく頭を下げると、智は満足そうに微笑む 「達者でやっているようだねアキラ」 「先生こそお元気そうで何よりです。」 親しげに話す二人の姿を見て野分は息を呑む。

2017-11-14 22:17:16