日向倶楽部世界旅行編第29話「歪んだ英雄」

最上達がブルネイで過ごしている頃、トラック泊地に一人の艦娘が訪れた。
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三隈グループ @Mikuma_company

【前回の日向倶楽部】 扶桑です。 皆様新年いかがお過ごしでしたでしょうか、そろそろお正月気分も終わりですね。 さて、私達はすごろくを使ってこれまでを振り返りました、これまでも、そしてこれからも色々なことがありますね、それはとても良い事です、ええ…良い事なのですよ…

2018-01-09 21:30:27
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日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第29話「歪んだ英雄」

2018-01-09 21:30:51
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〜〜 「…ここは?」 那珂は小さく呟いた、自分がいるのは誰もいない執務室だ。 「…ああ、そっか、執務の途中だったね…」 いつも居るはずの加古はいない、話す相手のいない静かな執務室で、那珂はいつも通り執務に戻る。 が、彼女はそうする事が出来なかった。

2018-01-09 21:31:32
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無いのだ、執務机が無いのである。 それどころか本棚もない、普段加古がくつろいでいるソファもない、執務室から物が消えているのだ。 「…どういう事?改装の手配なんてしていないはず…」 冷静に部屋を見渡す、物のないそこにも二つのドアはきちんとあった。

2018-01-09 21:32:21
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彼女は廊下へ繋がるドアに手をかける、しかし開くはずのドアは開かなかった。 「…ッ!?おかしい…」 押せども引けども動かぬドア、那珂は後ずさりし、もう一つの提督の私室へ繋がるドアに手をかける、しかしこちらも開かない。 ここを出なければ、彼女は窓のカーテンを取っ払った。

2018-01-09 21:33:21
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息を呑む、窓の外は燃えていた。 島が燃えていた。 「そんなッ…!すぐに部隊を…」 すぐさま艦隊を動かそうとする、しかし彼女の手足となるコンソールは部屋から消えている。 外には逃げ惑う人影が見えた、那珂は手を打とうとするが、開かない窓は鋼鉄のように硬く、打ち破る事も出来ない。

2018-01-09 21:34:30
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「とにかく連絡を、携帯は使えるはず…!」 焦りを抑えながら懐に手をやり、スマートフォンを取り出そうとする。 だが手を入れた瞬間、無数の蟲がそこから這い出し、部屋を埋め尽くした。 「何が起きてる…島は、島は大丈夫なの…!?」 いつになく那珂は狼狽える

2018-01-09 21:35:29
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そんな彼女の耳に、聞き慣れた男の声がやって来た。 「どうした、那珂」 振り返ると、そこには提督がボーッと突っ立っていた。 「提督!島が!それに執務室も、とにかくここを出ないと…部隊を回さないと!」 那珂はまくし立てる様に言う、だが提督はボーッとしたまま彼女の顔を見つめた。

2018-01-09 21:36:25
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「何を言ってるんだ?お前がやったんじゃないか」 「え…?」 普段の彼からは考えられない無機質な声に、那珂はすぐさま直感し身構える。 だが提督は気にも留めず喋り続けた 「お前が片付けたんじゃないか。お前が消したんじゃないか。お前が燃やしたんじゃないか。お前は那珂じゃないか。」

2018-01-09 21:37:26
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お前は那珂じゃないか。お前は那珂じゃないか。お前は那珂。お前は那珂。お前はお前はお前はお前はお前はお前はお前はお前はお前はお前はお前はお前はお前はお前はお前はお前はお前は那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那珂那

2018-01-09 21:38:35
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〜〜 「私は那珂ッ…!」 絞り出す様に声を上げた那珂は、ふと気付くと自室の天井を見ていた。 「夢…か。」 頬に一滴だけついた脂汗を払い、スマートフォンに目をやる。 待ち受けでは以前撮った八洲文が笑っていた、その笑顔は僅かだが、真水の様に悪夢を薄めてくれた。

2018-01-09 21:39:41
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やがてそれを置いて窓の外を見る、薄明かりに照らされたトラック泊地は変わらぬ表情を見せていた。 「…良かった、やっぱり夢だったのね…」 那珂は安堵の表情を浮かべ、寝た時のまま、一糸纏わぬ格好でベッドから起き上がり、その日の支度を始めた。 〜〜

2018-01-09 21:40:38
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〜〜 「おはよう」 執務室に行くと、いつもより早起きしたらしい提督が紅茶を淹れてトーストを焼いていた。 「…おはようございます、今日は早いね。」 「そうかな?…ぉアチチッ!」 夢の事もあり那珂は少し身構えたが、熱いトーストにビビる彼の姿を見てすぐに警戒を解いた。

2018-01-09 21:41:40
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そんな事は露知らず、提督はもう一枚の皿にトーストを乗せた。 「食べる?」 「うん」 那珂はトーストを受け取るとイチゴのジャムを塗りたくり、いただきますと口にする。彼女が朝の執務室でこういう朝食を取るのも、別段珍しい事ではなくなっていた。

2018-01-09 21:42:26
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やがて二人はトーストを食べ終え、紅茶をゆったりと飲む、泊地の始業時間まではまだあった為、いつもより静かに時間が流れていた。 「ダージリン?」 一口飲んで那珂は訊ねた、覚えのある味だったからだ。 「うん、そうだよ」 提督がカップ片手に答えると、那珂は小さく笑った。

2018-01-09 21:43:25
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「提督ダージリン好きだよね、ここで飲むといつもこれが入ってる。」 「まあ、良い奴だからね」 「ふふっ…私コーヒー派だけど、これは好きだよ」 那珂は微笑んでダージリンティーを飲み干す、提督も自身のカップに入ったセイロンティーをゆっくりと飲み進めた。

2018-01-09 21:44:23
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穏やかなティータイムが続く、まだ加古と野分は来ていない為、執務室に居るのは二人だけ、鳥のさえずりだけが聴こえる心地よい静寂が続く。 それを破るように、提督はふと切り出した。 「あのさ…」 「ん?何?」 カップを置いて執務の準備を始めた那珂に、彼は咳払いしてから言った。

2018-01-09 21:45:28
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「お互い…年末年始は忙しかったよな」 「そう?」 「そうだよ、クリスマスも正月も、挨拶や会食ばかりで…」 クリスマスのご馳走、新年のイベント、どちらも二人は経験していた。 だがそれは、あくまで仕事としてのものであった。 「言われてみれば…そうかな?分かんないや。」

2018-01-09 21:46:21
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そう言っている間にも那珂は執務の準備を整え、今日の予定を確認し始める。 無限に動き続ける心臓の様な彼女に、提督は意を決したように言った。 「…実はさ、映画のチケットが…二枚あるんだ、新作映画の。」 「映画?」 「そう、映画。」 彼は小鳥の様に頷き、目線を逸らす

2018-01-09 21:47:22
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「今度の休み…被るからさ、一緒に観に…行かないかな。」 壁に描かれた花模様を見ながら、彼は裏返りそうな声で言った。 那珂は那珂で呆気に取られたように提督の顔に目をやる、仕事柄毎日顔を合わせているし、会話もしているのだが、彼の口からこういう話を聞くのは初めてだったからだ。

2018-01-09 21:48:20
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故に少しの沈黙の後、彼女はクスッと笑ってから答えた 「ふふっ、良いよ、別に」 「本当に!」 「うん、私も観てみたいし。」 承諾する那珂、目を瞬かせる提督、二人の間に認識の相違が少なからずあったのは言うまでもないが、両者はこの約束を取り交わした。

2018-01-09 21:49:21
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「じゃあ、次の休みで…」 「うん、楽しみにしておくね。」 柔らかに笑う那珂に提督は頰を綻ばせ、年甲斐もなく無邪気に笑った。 そうしているうちに執務室のドアが開き、加古と野分がやって来た、今日もまた、一日が穏やかに始まる。 〜〜

2018-01-09 21:50:21
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〜〜 その日の昼下がり、一人の艦娘が昼食を終えて泊地を歩いていた。 「午後のメニューは…よし。」 勤勉な艦娘は訓練メニューの書き込まれたスマートフォンをしまう。 特徴的な髪型をした銀髪の少女、彼女の名は野分、ここトラック泊地に所属する駆逐艦娘である。

2018-01-09 21:51:33
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元は真面目なごく普通の少女だったが、観艦式で見た那珂の姿に憧れ、家を飛び出して艦娘になったという経歴を持つ。 努力家故か訓練や試験の成績はとても良く、真面目で勤勉な人柄から周囲の評価は高い。 そんな彼女は現在、トラック泊地のNo.2である加古の部下として働いている。

2018-01-09 21:52:25