日向倶楽部世界旅行編第29話「歪んだ英雄」

最上達がブルネイで過ごしている頃、トラック泊地に一人の艦娘が訪れた。
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三隈グループ @Mikuma_company

本来なら執務室で葬り去るつもりだったが、それは失敗した。 だが慢心か乱心か、悪魔はこちらにチャンスを与えた。 いや、むしろ与えたのは神なのかもしれない、虚妄を砕き、悪を滅せよという神の思し召し、正義を示せという天啓。 何れにせよ長門は、もう一度仇討ちの好機を掴んだのである。

2018-01-09 22:19:31
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空は美しく晴れ渡り、眩しい太陽が海を輝かせている、あの世というものが天上にあるのなら、奴を討つその瞬間を兄は見届けてくれるだろう。 だからこそ今、一刻も早く奴を討たねばならない、その為にここへ来た、長門は巨大な艤装の動作を確認し、二丁の単装砲を持つ。 狙いは一つ、奴の命。

2018-01-09 22:20:21
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長門は全身に力を込め、艤装の出力を上げた、機械が怒りに震える、砲口が悪を睨む、その手に正義が宿る! 背負った主砲を悪魔、その名を軽巡洋艦娘那珂へと撃つ、仇討ちが始まった。 「兄さん…私に力を貸して!」 優しかった兄との思い出を浮かべる長門、涙はない、あるのは決意のみ。

2018-01-09 22:21:30
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アウトレンジから次々と砲を撃つ、当然那珂には命中しない、そんな事は織り込み済みだった。 故に長門は加速し距離を詰める、本来なら戦艦娘が中近距離戦を挑むのは悪手でしかない、しかし彼女は二丁の単装砲を用いた戦闘術「艦=カタ」によってそれを可能としていた。

2018-01-09 22:22:22
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敵は悪魔、不似合いな白いマントをたなびかせ、銀のステッキを持ち、無数の砲雷装備を取り付けたサブアームユニットを翼の様に拡げた悪魔。 闘志が起こした幻か、その背からは犠牲になった者たちの魂が見えた。 長門は両手に力を込め、狙いを付ける、正義の弾丸を撃ち、討ち、打ちつける。

2018-01-09 22:23:28
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しかし当たらない、ゴーストの様に攻撃が避けられ続ける。 背部の主砲も動員し火力を増す、それでも当たらない、無数の火力が無に帰され、弾丸は飛沫を上げて海中に没する。 攻撃がまるで通じない、鍛え上げ、積み重ねてきた艦=カタ、今日の為の力、それがまるで、通じない。

2018-01-09 22:24:26
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攻めあぐねているうち、長門の主砲が撃てなくなった。 弾が切れたのでは無い、被弾により制御装置がその機能を失ったのだ。 「い、いつの間に…!?」 瞬時に那珂を観察すると、サブアームユニットの角度が先程に比べ僅かに傾いていた、気付かぬうちに撃たれていたのだ。

2018-01-09 22:25:29
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だがそれだけだ、両手の砲はある、これがあるなら艦=カタは続けられる。 悪魔が何だ、化け物が何なのだ、化け物を討つのはいつだって正義を持つ人間、勇気ある戦士、自分にその権利が無い筈はない。 全くもって不利なその状況の中で、長門の闘志はむしろ燃え上がった。

2018-01-09 22:26:24
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機能を停止した主砲を投棄、先程より遥かに身軽な状態で艦=カタを継続する。 相変わらず弾は当たらない、だが必ず来る、好機は来る、これまでの積み重ね、自身の正義、そして天佑を信じて長門は攻撃を続ける。 しかし当たらない、全く当たらない、全ての弾が空を切って沈んで行く。

2018-01-09 22:27:29
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怒りと悔しさが身体を突き抜け、長門は無意識に兄の名を叫ぶ。 「兄さん…教人兄さァァァンッ!」 それは戦略でもなんでもない、ヤケクソの叫び。 だがその声が兄の魂を呼び戻したのだろうか、那珂の動きが一瞬鈍った! そしてそのコンマ一秒に満たぬ鈍りを、長門は見逃さなかった!

2018-01-09 22:28:32
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「そこだァァァッ!」 迷わず左の砲を撃つ!直撃はせず、避けられた! だが艦=カタの真髄は、避けた先の、その次の一撃にある! 「地獄で詫び続けろ!くたばれェェェッ!!」 すかさず放った右の砲、その弾丸の軌道は、那珂の頭部を完全に捉えていた!

2018-01-09 22:29:33
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直撃軌道!しかし、それでも那珂は汗一つかかなかった!迫る弾丸と彼女の間に、純白のマントが壁を作ったのだ! 弾丸は爆発、マントは無残にも破け散ったが、那珂は一切のダメージを受けなかった。 「ぬおおォォッ!」 だが長門にとってそれは些細な事に過ぎない!殺せなかったのなら

2018-01-09 22:30:21
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殺せるまで撃つ! 「消えろ!犠牲になった人々の魂に灼かれるがいい!」 が、そう叫んだところで長門の攻撃は終わった、弾切れである。 かつてないほど夢中になるあまり、彼女は残弾に気を配り切れなかったのである。 「クッ、この程度で怯むものか!」

2018-01-09 22:31:25
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長門は何処からかアサルトライフルを取り出す、それは艦=カタを捨てた苦し紛れの攻撃であったが、それでも成さねばならない事があるのだ。 だが、引き金を引くより早く那珂の拳銃がライフルの銃身を破壊する、仇討ち最後の切り札は呆気なく鉄屑と化した。

2018-01-09 22:32:28
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「き、貴様…ふざけているのかァーッ!」 長門は悔しさから大きく吼えた、ライフルが壊されたからではない、命ではなく武器を狙われている事が、仇敵に手加減をされている事が屈辱だった。 「そうやって挑発する気か!貴様は、貴様は!人の心を弄ぶのが貴様の享楽か!この化け物が!」

2018-01-09 22:33:30
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心から湧き出た言葉をぶつける、だがどんな言葉を投げても、どんな殺意を向けても、目の前の仇敵は眉一つ動かさず黙っていた。 ただ静かに佇み、底なしの大穴のような黒い瞳でこちらを見つめ続けるだけだった。 嘲っているのか、哀れんでいるのか、どうであれ取るべき行動は一つだった。

2018-01-09 22:34:27
三隈グループ @Mikuma_company

「この…このォォッ!」 銃もない、砲もない、だが討たねばならぬ敵がいる、長門は拳を握り締め真っ直ぐ加速した。 徒手空拳とて急所を狙えば殺す事も出来る、一抹の望みに賭け距離を詰める。 対する仇敵は静かに佇むだけ、その真意は分からない、だがもう、これしかない!

2018-01-09 22:35:39
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拳を引き、ありったけの力を込める 「うおおおォォッ!!」 叫ぶ、拳を叩きつける そこで長門は気を失った。 第29話 「歪んだ英雄」 おしまい

2018-01-09 22:36:48
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【サブアーム】 艦娘の艤装カテゴリの一つ。 艤装から伸びるアームの先に武装を取り付ける事で、機動力を維持しつつ火力を確保出来る便利な兵装。 ただし扱いは少々複雑で、一本を自在に扱えれば艦娘としては十分、二本以上扱えれば達人を名乗っても良い程である。

2018-01-09 22:38:29
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【艦=カタ】 二丁の単装砲を用いる艦娘の近距離戦闘術の一つ、動きを読み、的確な一撃で素早く敵を葬る事に重きを置く。 些細な動きまで全て視る必要があり、集中力と経験がものを言う、詰まる所実力差が非常に出るためムラっ気が強い。 考案者は横須賀鎮守府那智戦闘大隊旗艦那智大佐。

2018-01-09 22:39:21
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【永井教人】 那珂に謀殺されたという長門の兄、妹同様に正義感が強く優しい性格であった。

2018-01-09 22:40:31
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【那珂】 嘘と歪みに包まれた偽りの英雄。 pic.twitter.com/UcPHBikiOe

2018-01-09 22:42:35
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